口実

「雪、早く降らないかなー」
窓の外を眺める霧野。機嫌がいいのか、言葉の語尾は半音高い。
「積もったら、グラウンドにかまくら作るか!」
「まだ、雪すら降ってないのに。ていうか、まだ降らないだろ」
コーヒーを啜り、はあ、とわざとらしく溜め息をついたが霧野は全然気にも留めていない様子だ。
「1年もノリ良いし、絶対雪合戦で良い戦力になるぞ、うん!」
「霧野さん、やる気はとても伝わってくるんだが、遊びばっかりではなくてですね」
「遊び以外にやることがあると言いたいんですね?」
霧野は握り拳のまま、こちらを振り向く。
「期末テスト、というものがだな…」
「うわ、その言葉聞きたくないっ」
耳を押さえ、ぎゅっと目を瞑る霧野。さっきまでのご機嫌な表情とは真逆だ。
「霧野、お前この前のテストもギリギリだったろ。とりあえず、明日から復習、しような」
「え、ええ?」
「ああ、俺が責任持って教えるから。びしびし行くぞ」
「……うー」
霧野はうなだれ、ベッドに突っ伏した。

霧野はやればできる子だし、俺が勉強を教えなくても本当は大丈夫だろう。
勉強なんか、ただの口実。
ああ、明日から霧野を独り占めだ。



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