瀬 5/5 |
「私は、17号と18号がそろった時に発動するように造られたプログラムの一種。細胞レベルでの融合を果たす際にその結合を手助けする。それこそ、あらゆる面でね。肉体的にも精神的にも、そして記憶もつなぐ装置。 君も気づいていたと思うけど、ドクターの奥さんの細胞を使っている。それは、血のつながりはなくともラピスとラズリ…17号と18号を引き取って育てたという関係上、2人を取り込むのにどうしても必要なことだった。 母親という存在こそが、2人がその後完璧に近い形でドクターが与えた環境に不満を持つ要因だったから。 ねえ、どうして人は人に与えられたものだけでは満足できないんだと思う? どうして人は、まっすぐに自分の欲するものを見定めることができないんだと思う? でも、それが人間だ、ということに、ドクターは気づいていたんだ。 ドクターはね、私に『不確定性』を与えろと指示したんだよ。 君に利する知識や選択の手助けをせよ、という前提の上でね。 私はずっとその意味がわからなかった。 不確定性は、可能性を広げるとドクターは言った。 プログラムのそれ以上をなすために、お前がセルに与えるべきものはそれだ、ってね。 私ね、実は一度、この状態のままで、人間だったころの17号と18号に逢っているんだ。 そう、君と一緒にね。 あの2人は君の完成に必要なパーツであったと同時に、なぜそれを強く求めるかと言えば、簡単に言ってしまえば私が持っていたであろう子供への執着を応用したものなんだ。 私は母親として2人を求めた。 同時に、貴方のために、2人を求めた。 そこに葛藤はなかった。 優先すべきは後者。セル、貴方よ。 私にとっての世界は貴方。 最強であれ、完璧であれ、完全であれと望まれた貴方が、人の間から生まれたのではない貴方が、 「人造」の「人間」となるために貴方のなかに仕組まれた異物。 それが私。 生物体としての両性を持ち合わせ、他の何物をも必要としない環境に適応するのではなく環境を支配できる完全を目指してかけあわされた最強の細胞のなかで、もっとも不要な異物。それが私。 でも、貴方はドクターが想定した完全に、完全な体を、手に入れた。 それを手に入れるために導いてきた私の、ひとつの役割は終わった。 貴方に利することを貴方の意思であるかのように、そしてそれが私の意思であるかのようにふるまえる時間は、終わってしまった。 嬉しい、と同時に、悲しい、と思った。 何が?とは聞かないで。 私もわからないし、多分考えたところでわかるものじゃないから。 貴方の望みが、貴方の今の望みが、ドクターがあなたにあの緑の培養液の中で強いた洗脳のような時間に刻み込まれていた以上のものであればいい。 本心から、そう思っている。 あの培養液の中の声がドクターの目的でなかったら、貴方は生まれてこなかったから。 だからとにかく、その目的だけはなんとしても果たされなければならない。 そして、造られた目的が果たされたその先を歩くために必要な、次の、未来のための意思。 多分、それが「私」という、異物に託された役割。 あなたはこれから先も、私を抱えて生きるの。 私が取り込んだ17号と18号とともに、私の意識とともに生きるの。 でも、貴方はあの手紙を読んだんでしょう? 私がそういうものである、ということを知ってしまったのでしょう? だからこれから先は、貴方が選べる。 最終目的であり望みでもある貴方なら選べる。 私を貴方から追い出して、貴方から、心も、想いも、すべてをその眼前にさらけ出す権利が貴方にはある。 ねえ、私に身体を与えるの? 貴方ならできる。だって貴方は完全体。完全なる生命体。つがいを持たなくとも創造することのできる、人と人の間を超えてなんでもできる完全なる人造人間(アンドロイド)なんだから。 貴方は覚醒した。私はそれを促した。あとは、その道を進むだけ。私もそれに、従いたい。 ああ、そうね。これは、これが、私の望み。 でも、できることと、望むことは、全然別のことだから。 そうしてもいい。そうしなくてもいい。 ねえ、私を貴方の顔の前にさらけ出すの? ねえ、存在が鏡越しでしか見ることの許されない自分のもう一つの顔を、見たいの? それを本当に 望んでいるの?」 bkm back |