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セルは目的と思われる1つの小部屋の扉の前に立つと、パルフェに話しかけた。


『着いたぞ』


ここに来た目的も知らされていないパルフェは、返事をしなかった。
その反応に小さくため息を着いたセルは、そのまま扉に手のひらを向けると、器用にドアだけを爆破した。

その小部屋は、Dr.ゲロがここに研究所を構えた際に最初に作った部屋だった。
簡易のベッドに引き出しもない小さな机。
背もたれすらない丸椅子。
その壁面にはびっしりと、様々な言語で書かれた、様々な分野の本が詰め込まれている。

普段は研究と実験、その経過観察に没頭し、数年前からはDr.ゲロ自身も活用することが減っていた為、空気はどことなく淀んでいる。


「ここは・・・」
『私たちの、始まりの部屋と言ったところだな』


セルはそのまま、まっすぐ部屋の隅に置かれた机に向かう。
机上には、封を切られた手紙が置いてあった。

『ところでパルフェ』
「・・・何?」

パルフェは、先だってのセルの理解出来ない行動に、まだ処理し切れていない持て余していた感情のままに、若干不機嫌な応答をした。

『お前はどこまで覚えている』
「どこまで?」
『お前は、タイムマシンに乗る以前の私も知っているのだろう?』
「まあね」
『それ以前、はどうだ』
「それ以前?」
『私が、培養液の中から出る前の記憶はあるか?』

驚いた。
彼は、覚えている。
その出生の秘密に関わる重要な事柄の執り行われる以前の事柄が、彼の記憶にないことを、【自覚】している。

・・・他者に向けての問いは、発せられたからと言って、それに答える義務は、問われる側に、基本的には、ない。

「ないよ」


故にその答えが、真実である必要もまた、ない。

『そうか』

セルはパルフェの言動を深く追求する事もせず、封筒の中からすでに茶色くなった便箋を取り出す。
ブルーブラックのインキで書かれた手紙は相当の年月を経たもののようで、力を入れずとも折り畳まれた折り目から破れてしまいそうだった。

書かれた文字は小さく、そして少し丸みを帯びていた。
無言で手紙を読んでいたセルは、それを読み終わると静かに便箋を封筒に戻した。そして次に、壁面の本棚を仔細に調べ始めた。




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bkm

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