どうしてですか、かみさま




(刀剣乱舞)
霊力枯渇元男審神者と霊力枯渇元女審神者




霊力が枯渇する、というのは意外とあるらしい。
星の数ほど人がいて、その半分ほどといっていいくらい審神者が存在する。
ともなれば、霊力の質も千差万別。数年で枯渇するやつもでてくるってわけだ。

かくいう俺もそのひとり。
ホワイト政府に命の危険を示唆されて、退職してから数年が経つ。が、何かあるといけないからと半年に1回定期検診に時の政府へと出向く。
保証制度もばっちりだ。お金だってこれから一生働かずに(馬鹿みたいに豪遊しなければ)遊んで暮らせるほど。
しかも年金にも危険手当としてプラスがつくそうだ。
時の政府と現政府は厳密にいうと組織は別らしいが。

そして今日はその定期検診の日。
時の政府が運営する病院だ。退職した後でもなにかあれば(普通の怪我や病気でも)ここに来ることが推薦される。一見風邪のような症状だとしても、もしかしたら何か元審神者ならではのものによるかもしれないからだ。呪い、とか。あとはまぁ、単純にお金が免除されるからだ。時の政府さまさまだな。
大きな病院でいろんな科がある。俺がいる科は霊力科。またその霊力科から細かく分類される、霊力枯渇科だ。そのまんまなわけだが。
ちなみに霊力枯渇科は他のかより隔離された環境にある。少なくないとはいえ、特殊だからだ。
この科には霊力の枯渇により退職した元審神者、霊力の枯渇に悩まされている現審神者ががいるわけだが。
さて。はじめにも先程にも述べたように、俺みたいなやつは少なくない。
つまりはここの待合室の環境はお通夜状態というわけだ。
ふさぎこんでいるやつ、泣いているやつ、呆然としているやつ、――俺のように諦めてしまっているやつ。
もう数年が経つからな。…もう、鈍感になってしまった。悲しみに。

こんな時。あいつらがいた時なら。
歌仙なら叱ってくれた。
加州なら慰めてくれた。
山姥切なら話を聞いてくれた。
陸奥守なら笑い飛ばしてくれた。
蜂須賀なら励ましてくた。
あいつなら、こいつなら、考え出したらきりがないな…

でも、そう考えることができるくらい余裕がある。…それだけの時間が経った。あの日から。
数年も通ってれば当然、顔なじみのやつはでてくる。進んで交流を持とうとはここにきたばかりの頃のやつは思わない。だけど、時が経つにつれて傷の舐め合いのように、楽しかった昔話を話したくなる。…忘れたくなくて、夢だったと思いたくなくて。

「よぉ、お前も今日きたのか」

ふと、待合室に顔なじみのやつを見つけた。
そいつは元々審神者になる前からの知り合いだった。審神者になってから再開した時は驚いた、な。

「…ああ、あんたも今日検診にきたの」

元々のこいつはもっと溌剌としたよく笑うやつだったのにな。
そんなことを考えてると伝わったのか、あんたも似たようなもんでしょ、という顔をしてくる。
はぁ、とため息をつき隣に座る。

「…これから?」
「ああ、さっききたとこ。おまえは?」
「私は結果待ち。…ねぇ、このあと暇なら付き合ってよ。待ってるから。」

わかった、と返事をしたところであいつの名前が呼ばれた。
これからだと2〜3時間待たせることになりそうだな。けれど、あいつだってそんなこと分かってるだろう。
…俺よりも短いとはいえ、あいつも数年ここに通ってるんだ。
初めてあいつとここで会った時はびっくりしたな、そういえば。








あいつが時間を潰してる、と言った喫茶店にはいる。
からん、ころん、ドアを開けるとベルがなった。
いらっしゃい、と静かで趣のある店内に少し似つかわしくない女の店員の明るい声がひびく。
何回か来たことがあるこの店の店員は客が少ないことをいい事に、看板犬とよく遊んでいる。
…そして、気がつくと俺やあいつの後を見てる時がある。俺が気づいたことに気づくとにこっと笑って何事をなかったかのように目をそらすが。
店員からしたら俺やあいつも顔なじみの客なんだろう。俺が言うでもなく、あいつが待つ席へ俺を案内してくれた。
基本静かなこの店に似つかわしくないように静かに腰を下ろした。…あの店員はよく客と談笑するなど賑やかだけどな。


「…またせた」
「本読んでたから。べつに」

そう言ってあいつは読んでいた本を閉じた。
前はあんまり本とか読まないやつだったのにな。誰かの影響、だろうな。あいつらの、

「…蜂須賀がね、本を好きで。この本を私に進めてくれたの。前に…だけど。その時は本なんて、ってぱらぱらっと見ただけで辞めちゃったんだけどね。あんたを待つ間に本屋でまたまた見つけて。懐かしくて、買っちゃったの。」

「…そうか」

「本を読むのは苦手だったけど、意外と読むとおもしいのね。…あの時、ちゃんと読めばよかった。そうしたら感想を話せたのに」

涙は零れていなかったが、そう話すあいつは確かに泣いていた。
本。本かぁ。

「…山姥切が好きだっな、本読むの」

俺なんかにと言いながら、本を渡すと目をきらきらさせて楽しそうに読んでいた。
俺はもったぱら冒険ものだったが、俺と山姥切が本を読んで感想を言い合ってるのを知った他のかみんながそれぞれのおすすめの本を持ち寄りだした。
陸奥守は航海もの。加州や乱は恋愛もの。歌仙は詩集が好きだったな。意外だったのが倶利伽羅がファンタジーものが好きだったことだな。

本当は知ってた。
普段本を読まないやつらも自分の好きだと思える本を探してたこと。ただ俺とみんなと共通の楽しみを持ちたいと思ってくれてたこと。
本がダメだったやつは自分が好きなもので俺も興味をもてそうなものを探して、声をかけてくれていた。
そんな思いが嬉しくて。楽しくて。…幸せだったなぁ。


「なぁ、もし。もし、俺とお前が結婚するとしたら」


ちょっと上を向きながら、そんな言葉がこぼれていた。
ただの友人で恋人だったことはなく、そういう思いがあったわけでもないのだけど。


「…はぁ?なにいってんのよ。頭おかしくなったの」
「もしも、だって言ってるだろ。たとえばなし。よたばなしみたいなもん」
「…あんたと結婚ねぇ。そう、ね。…別に式はいいわ。挙げなくて」
「なんでだよ。女ってそういうの憧れるんじゃねぇの」
「だって呼びたい人いないし。親子関係、さいあくなの」
「…ああ、そういえば俺も勘当当然だったわ。でも、いま、二人っきりの結婚式とかも人気あるんだろ。前に乱が言ってた」
「それならいいかも。ウエディングドレスは憧れるし。…でも、みんなを呼びたいな」
「…ああ、それいいな。でも、それなら神前式もいいな。やっぱりでも、チャペルとか洋式に憧れるの?」
「洋式憧れるけど、でもみんなとやるなら神前式もいいわね。石切丸とか太郎とか次郎にお願いして」
「だったら、場所はどっちかの本丸でもいいな」
「それいいわね!…料理は燭台切にお願いしましょ」
「光忠の料理は最高だからな」


そんな叶わない夢物語を話してるうちに盛り上がり、笑顔があふれだす。
こんなに楽しいことを考えるのはいつぶりだろうか。


「神前式だからヴァージンロードはないのかな。蜂須賀と歩きたかったな」
「お前の初期刀は蜂須賀だったもんな。手紙は?」
「本丸の母の燭台切!って言いたいとこだけど、やっぱり初期刀の蜂須賀と初鍛刀の乱かな」
「初期刀と初鍛刀はやっぱり特別だからな」


そう言い合い笑ってると、ふと沈黙が訪れる。


「…みんなにおめでとう、って言ってもらえたらそれだけで充分なのにな」

あいつがそう、こぼした。
零したものは、その言葉だけではなかった。
ぽた、ぽた、堰が切れたかのようにあふれだす。


「ただ、っただ!みんなと一緒にいられればよかったのっ」
「独身でもよかった、ずっと処女のままでもいいっ」
「みんなとっ、っただ一緒に笑いあって生きたかった…っ!!!」


あいつの感情が溢れ出すのと同時に、店内に流れる音楽が少し大きくなった。
あいつのあふれだした感情をそっと優しくおおい包んで隠すかのように。
…いや、あいつだけじゃない。俺のも


「っ、ようやくできた家族だったのなぁっ…」



なぁ、どうして。どうして神さま。
どうして、とりあげるのに。
どうせ、とりあげるのなら。


おれたちに、あたえたんですか。







おれたちのかみさま、あなたたちがいればそれだけでよかったに。









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