目のいい店員さんシリーズ
バースマークをもつ少年




(×FGO)
店員さんとぐだ男 転生後







新宿にある、とある喫茶店。
私はそこの店員である。
とはいっても、強面マスターとかわいい看板犬がいるだけの小さな喫茶店だ。大賑わいという訳では無いけれど、常連さんに愛されるとても素敵な喫茶店。
まぁ、その常連さんにもいろいろあるんだけれど。
かくいう私もそもそもはその常連の一人だったのだけれど、仕事でヘマして足に怪我を負って仕事ができなくなって困ってたところをマスターに拾ってもらった。
元職場では現役は引退したとしてもサポート側とかで働かないか、と言ってはくれてたんだけどね。
でも、私はその話しを断ってマスターの言葉に甘えてここで働かせてもらってる。
前の職場の人たちも常連の人が多かったりするからよくあったりするけど、みんな元気そうで何よりだ。
ところで、いきなりだけれど、私には特技というか人より優れてると言っていいところが1つある。
―――そう、私は人より少しばかり目がいいのである。
とはいっても、まぁ、元職場ではそういった人ばかりだったわけだけど。そのちょっと特殊な環境から外れると、私のこの目は少しばかり特異なものであったりする。

そしてこの喫茶店には少しばかり特異なお客さんが訪れることが多いのである。



case1
バースマークをもつ少年
episode1



聖痕だとか悪魔の子の印だとかはたまた神に愛された証だとか、迷信めいた俗信によって生まれつきである痣をそう言ったりもするけれど。
近代科学が盛んな現代ではバースマークと呼んで前世の時のものの痣だとか言われてたりもする。
…近代科学まったく関係ないけど。めっちゃファンタジーだけれど!!!!!!

このカフェによく来る少年の手の甲には痣というより、何かの模様のような跡がある。
前に生まれつきあるのだと少年が教えてくれた。
身体には傷痕のような痣がたくさんあるのだとも。
だからあらぬ誤解を受けないためにも自然と年中長袖長ズボンがほとんどになっているとも。
多くは語らないけれど、中にはその痣によってした嫌な思いもあるだろうに。その少年はとても愛しそうにその痣見て触れるのだ。
その眼差しはとても印象的だった。


「こんにちは!」

元気な、けれど少し控えめなその声が店内に届く。
噂をすればなんとやら。その少年が来店してくれた。いつもありがとうございます!

「いらっしゃい、空いてる席へどうぞ。
いつものでいいかな?」

そう声をかける。はい、お願いします。と返事をいただいたのでいつも少年が好んで頼むものを用意し席へと運ぶ。
少年はだいたいいつも本を持ち込み読んでいる。そのジャンルは様々で過去の英雄や偉人の話だったり神話だったり、歴史の話だったり。あとはオカルト系のものやファンタジーなもの、戦争ものもあったかな。童話や劇作家のものも読んでたなぁ。
読書家だね、と前に声をかけた時。ちょっと困ったように笑いながら「本当は難しい本を読むのは苦手な部類なんです」でも、みんなに関係するものだから。と言っていたのがとても印象的だった。
「みんな」そう少年が称しているのが誰のことなのかは分からないけれど。そういった少年の目が痣を見るその眼差しのように、とても愛しそうで、けれどどこか寂しそうな。そしてとても優しい声をしていたから。とても大切な人たちなのだろうな、と思ったことを覚えている。

「はい、どうぞ。お待たせしました。
今日は何を読んでるの?」

そう声をかけ、彼の持つ本に視線を移す。

「あ、ありがとうございます。」

人好きする笑顔を見せ、そう言う少年は文句なしにかわいい。こんな弟がほしかったなぁ。
少年は私の問いかけに答えるように、読んでいた本を閉じ、表紙を見せてくれた。

「『偉大なるあなたへの軌跡』…?」

そのタイトルには聞き覚えがある。
作者不明の、伝記のようなファンタジーのような不思議なその物語は。
決して新しくはないものの、古いというわけでもなく。とはいっても、いつ発行されたかもいまいち定かではない。
イスラエルの架空の王様、ソロモンについての物語。
ソロモンの一生が書かれている。一生がどころではない。幼少のころ、王様になってから、亡くなるまで。そして亡くなってから。
おもしろいのがソロモン王という存在は過去歴史として確認されてないけれど、その父親とされるダビデ王とかその他の人物は歴史としてだったり名が残っている存在であることだ。
ソロモンについてとても詳細に矛盾点がないように記されるその物語を読むと、まるで存在がしていたはずのソロモンの記録や記憶、歴史がすべて意図的に消されたのではないか、という疑問が浮かぶだろう。その本の記録が真実なのではないかと。ありえないことだとは思いつつも。
実際、その本が話題となった時、そういった考察が世界中で駆け巡った。結局、ひとつの仮説として都市伝説のように語られるだけに留まったのだけど。
その本の真骨頂はソロモンが王であったころではない。天寿を全うする際に、何気なく願った願い。「人間になりたい」
気まぐれに叶えられたその願いから、この物語は動き出す。それまでのソロモンの話は序章にすぎないのだろう。
ソロモンは神に愛された、神に捧げられた、感情を持たない、ただただ正しいだけの王様。
生まれた時から「王」として定められ、神の声を聞き、その通りに生きるしかなかった、哀れな子。
悪魔、または天使を従えたと言われる魔術王。
全知全能の王様。過去から未来を見渡す千里眼を持つという。
そんな人であって人ではなかった、ソロモン王が願った願いが「人間になりたい」であったという。
それはすなわち、感情を持ちたかった、ということではないだろうか。人と、誰かと心から触れ合いたかったのでないのだろうか。なんて、―――寂しい子だったのだろう。
でも、そんな願いは聞き届けられた。
神になのか、それともまた別の存在なのか。
天寿を全うしてから、その願いを抱いてから、ずっとずーっと遥か長い時間が経ってから、その願いは叶えられた。
というより、ただの人間にとして生まれ変わったのか。ソロモン王の記憶を持ったまま。
その青年はソロモン王最期の記憶として世界の滅亡をみた。そこから青年の苦難がはじまり、最期の選択をする。


「はい。読んだことありますか?
実は俺も昔に読んだことあるんですけど。今日たまたま見つけちゃって。――また、読みたくなったんです」

そう言ってその本を見つめる眼差しは大切なものを見るかのようで。その本に触れる手も大切なものを触るかのようで。

「私も話題になった時に読んでみたの。
…その本に出てくる、少年に似てるね」

その本には青年が主人公として書かれてはいるけれど、その青年よりも主人公らしい少年が出てくる。世界を救う、少年が。

「…そうですか?はじめていわれたなぁ」

ちょっと驚いたように。でも嬉しそうにそういう少年は文句なしにかわいい!
お客さんが少年以外にいないから、少年の前に座りおしゃべりをついついはじめてしまう。
マスターも見て見ぬ振りだからいいのです!怠慢じゃありません!


「前にも言ったかもだけど。俺ね、世界中を旅したいんです」

内緒話をするかのように、はにかみながらそういう少年は文句なしにかわいくて、輝いていて。お姉さんには眩しいです。

「世界中を旅して、英雄とか偉人とか神話とか。関係する土地をみて回りたいんです。」

覚悟を決めているかのような、その表情は。少年ぐらいの年齢には似つかわしくないんじゃないかと思ってしまう。むしろ、大人だってそんな表情ができる人はそうそういないだろうに。
…少年に少しだけ意地悪を言ってみたくなった。

「そのあとは?見て回るだけ?」

―――やりたいことは、ないの?

そう問いかけると、少年は少し驚いたような顔をして、少し考えるような素振りをみせてから、そう答えた。

「え…そう、ですね、手紙を書きたいと思います。みんなに」

手紙を書きたいのだと、いう。
そう思うほどに大切で大好きで愛おしいんだろう。
なんて素敵で―――

いいなぁ。なんて。

「素敵だね!届くといいね」

ううん、届くよ。届いてるよ。

「はいっ!」

そう満面の笑みで元気よく返事した少年には知り合ってから今までずっと秘密にしていることがある。
私のこの特技に上げた、この目だけれど。
私には少年はの傍にずっと寄り添っている、たくさんの存在が見えている。
老若男女、人外、それはバラエティにとんでいる。その外見の良すぎる様や恰好、種族にまでツッコミを入れたくなるほど。
それらは少年と出会ってからずっと少年の傍にいて、少年を見守っては話しかけたりかまったりしている。
会う度にいれかわっているその存在たちは全部でどれだけいるのだろうか。
そんな彼らの眼差しは一等大切で大好きで愛おしい存在を見ているかのようで。

(ふふ、両思いだ)

そう微笑ましく見ていたりする。
きっと、ううん。絶対、少年のいうみんなは彼らのことだろうから。
だからね、大丈夫。届くよ。もう、届いてるよ。



バースマークをもつ少年
―それは彼の世界に愛された少年―










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -