貴方に勿忘草を




(剣風帖) 主京前提 主←京 龍麻記憶喪失




悲しいけれど、確かに悲しいのだけど
それより、安堵と喜びでいっぱいなんだ





貴方に勿忘草を




ひーちゃんが、龍麻が倒れた



それは突然の事だった

全ての戦いが終わり、また平和が訪れるようになって俺達は安心しきっていた
もう誰も傷つき命を落とす事などない、と

でも、龍麻は倒れた

その事にみんな動揺し取り乱していった


―倒れた人物が悪かったのだ


仲間が倒れた、その事実はとても悲しい
どうにかしたいと心から思う

それは誰が倒れようと変わらぬ思いだ
けれど、ここまで取り乱したりはしないだろう

龍麻が倒れたから、だから

龍麻は俺達にとって、とても大切な人で
確かに仲間はみんな大切だ
だけど、龍麻は特別な存在なんだ

龍麻は俺達のリーダーで中心といえた
龍麻を中心に俺達はまとまっている

龍麻に惹かれ集まっていった仲間達が、龍麻が倒れた事にひどく取り乱したのは当然といえた


それに加え倒れた理由も仲間達を追い詰めるには十分すぎたのだ

龍麻が倒れたのは、その身に宿した黄龍が理由だ
そもそも龍麻は陽の器なのだから黄龍の陰気はその身を蝕む事など少し考えれば分かりきったことなのに

俺達は取り戻した日常に浮かれすぎていたのだ

俺達が現を抜かしている間に龍麻は独り苦しんだ、その事実にみんな胸を痛めていた


何とか容態は回復に向かっているらしい
けれど、龍麻は目覚める兆しはなくて
その事実もまた、みんなを苦しめた


「…なあ、ババア。
たとえ龍麻が目覚めたとしても状況は変わらないんだろ?」


―どうすれば、龍麻を救える?


「そうだね、確かにまた倒れるだろうね。
できる事は定期的に診察をすることと、…少しでも負担を軽くしてやることさ」


それから俺は龍麻に陽の気を送り続け、陰の気を少しだけ龍麻から受け取り続けた
そうすることで龍麻の負担は少しではあるが、減っていっているらしい

どうやら俺は陽の気で溢れているらしく、少しぐらいなら龍麻の陰の気を受け入れ続ける事ができるらしい
後は龍麻が自分を強く持ち続ければ問題ないらしいのだが

龍麻は未だ目覚めないのだ


お願いだから、お願いだから
目覚めてほしい
俺にできる事なら何だってしてみせるから

だから早く目覚めろよ、龍麻―‐



そんな願いが通じたのか、龍麻が目を覚ました



―全てを忘れて




「…悪い、何も覚えてなくて」


目覚めた龍麻は記憶を失っていた
もしかしたら後遺症なのかもしれない
その事にみんなはまた、心を痛めた

けれど、俺は


「気にすんなよ、お前が悪いわけじゃないんだから」


確かに忘れてしまった事は悲しい
それに俺達は恋人同士だったのだから、悲しくないわけがない


「ゆっくり思い出していけばいいんだから、な」


だけど、それより


「ああ、ありがとう。
…お前は変わらない、な」


みんなは記憶を失ったお前に戸惑っているから、どこかよそよそしい
記憶を失っていてもやはり、違和感を覚えるのだろう


「お前はお前だからな!
記憶を失ったってお前が緋勇龍麻である事は変わらない、だろ?」


俺は今こうしてお前が生きている事への喜びが大きいんだ
たとえ忘れられたって、思い出してもらえなくたって
もう二度と恋人にはなれないかもしれないけれど、親友には相棒にはなっていけるから

もう二度と会えなくなるわけではないのだから


「それにさ、俺はお前を覚えてるから。
―だから、いいんだよ」


俺は覚えてるから、全てをちゃんと覚えてるから
お前との思い出をちゃんと覚えてる
そしてまた思い出を作っていけるから

だから、いいんだ

いいんだよ


「また、思い出作ろうなっ
ひーちゃん!」


「―ああ、そうだな京一」


また名前を呼んでもらえる
名前を呼び合う事ができる

こうして、会話することができる

全て、龍麻が生きているからこそだ


俺はそれだけで幸せなんだ。


でも、本当は寂しいから
だから見舞に持ってくる花はいつも同じ

少し女々しいとは思うけれど

でもこれぐらい許されるよな、ひーちゃん?









―どうか私を忘れないで









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