恒久的に移動した。


君たちは何一つ変わらないまま大人になった。バカで痛くて口うるさく根暗で何考えてるかわからないあざとい奴等。個人個人を尊重して欲しいくせに悪ふざけとなると誰が誰でも同じになる。そんな彼等が私は大嫌いだった。

同じ幼馴染のくせして、トト子ちゃんラブなところもまた気にくわない。私は嫉妬していたのだ。彼等に唯一愛されていたあの子に。ずっとずっと私は彼等と肩を並べて歩きたかった。だけどなんだ、ずっと追い続けてきた彼等にこっぴどく振られたあの日。気づいてしまった。彼等は彼等の世界があるのだと。そんな中に私が入れるわけもないじゃないか。憎たらしいまでの憧憬と小さな恋心は見るも無残に砕け散った。

私は私、ただそれだけのことだった。

それからというもの私の行動は早かった。自然に距離を置きつつ、わざわざ遠い学校へ受験して彼氏を作ったりなんて甘酸っぱい経験もして。彼等の世界から私は一抜けた。世界は明るかった。彼等に執着していた時とは違って見えた。あの日の私にグッバイ。

そう、私は一抜けだ。

そうして一皮も二皮も剥けた私は再びこの地に降り立った。何故か。1ヶ月後、私は結婚する。それも大企業の社長とでこれから始まるのは海外生活!やったね玉の輿!ざまーみろ!そんな誰にかもわからない暴言を心で叫ぶ。だけどそんな折り、思い出すのはあの日の出来事。


"お前なんかトト子ちゃんの足元にも及ばねーよ!幼馴染み顔するなぶーす!"


いいや。私は決別したのだ。足に力を入れて懐かしい地を歩く。駅の鏡にうつった私の背中があの日の私と変わらないように見えたのは気のせいだろうか。



「久々ねー。あんた全然顔出さないんだもの。ほら、お父さん帰って来る前に松野さん家に行ってらっしゃいよ。きっとびっくりするわ!あんた仲よかったでしょう?」

親は時として余計なことをしてくるもんだ。だがこれも可愛い娘を思ってなのだろう。グッと堪えてそうだね…と呟くのが精一杯だった。

そんな理由で私は今松野家に菓子折りを持って立っている。もちろん持たされたもので私が買ったわけじゃない。そこは重要だ。

大丈夫だ。落ち着け。何を怖がるんだ。聞けば彼等は高校卒業後ずっとニートらしい。鼻で笑っちゃうね!私はもうあの時の私じゃない。彼等より遥か上を歩いている。怖がるな、怖がらなくていいんだ。

彼等に嫌われる事を、怖がらなくていいんだ。

「あれ、うちにお客様だ」

「え?なに、トト子ちゃん?!」

「お客様だっつってんだろバカ長男」

「え?バカって…」

「すみません!うちにご用ですかー?」

相変わらずあいつらはトト子ちゃんラブらしい。ピンク色の靴を履いたやけに馴れ馴れしい男が話しかけてくる。こいつは誰だろうか。

深呼吸をする。

「久しぶり、私のこと覚えてるかな?ちょっと挨拶に来たの。」

笑顔で言えただろうか。震えてはいないだろうか。

「えっ、ちょっと知り合い?な訳ないよね、こんな可愛い子が知り合うなら僕な筈だし」

「ちょこちょこうぜーな!にしても俺もしらねーし。あいつらの誰かね?」

「あの!」

震えてはいないだろうか。

「幼馴染みだった…ものです…」

紡いだ言葉はとても頼りないもので。また、同じ事を言われやしないだろうか。こんな単語が出てしまうあたり私はまだ、捨て切れてないのかと自分の言葉が突き刺さる。

「えっ、…えーーーー?!?!?!」

顎が外れそうな勢いでピンクが叫ぶ。隣の赤色は目を丸くして突っ立っていた。

「ちょ、み、みんなー!!ねえってば!いるー?!?!」

ドタドタとピンクが叫びながら中に入ってしまった。赤色と重たい沈黙が流れる。これは私が気を利かせなければいけないのだろうか。また違った意味で震える。ええい、どうにでもなれ!

「あの、」

「お前、今までどこ行ってたの…」

「え、あ、」

遮るように赤色が呟く。責められる。バカにされる。次に来るであろう暴言に私は身を構えた。だけど。

「ま、いいよ、なんにせよ…おかえり」

にしし。っと鼻の下をかくこいつはきっとおそ松だ。 変わらない、いざという時少しだけみんなよりお兄さんで鼻をかく癖。

そう、六つ子にだっていいところはあった。

カラ松はどんなに意地悪しても後で慰めに来てくれたし、チョロ松はぶっきら棒ながらいじめっ子から助けてくれた。一松は何考えてるのかわかんないけどたまに動物を撫でさせてくれたし、十四松は怪我をした時無言だったけど絆創膏をくれて、トド松は先生に理不尽に怒られた時一緒に弁解してくれた。

全てが嫌いな訳じゃなかった。彼等との温かい思い出はあったのだ。だけど全てを帳消しにするあの日の言葉が今も尚、忘れられない。

私は彼等の世界にいない。

「あ、うん…」

だから私は何も答えられない。ただいまは此処じゃない。

「うんってなんだよ、うんってー」

「あ、いや、はは…」

私は思考が全く追いついてない頭をフル回転させる。こんなに優しく話すおそ松は見た事なかったからだ。

「ちぇっ、あっ、そういや挨拶ってなんだよ?今まで帰って来てたのは来てたんだろ?うちには来てくんなかったけどねー。なんの挨拶?」

そりゃ当たり前だろ!勢いよくツッコミそうになった。誰が好き好んで嫌いな奴等に会いに行くだろうか!

「それは、」
「ほらー!!!」

苦笑いしながら話し出そうとした私を遮ってピンクが戻って来た。

声のした方に顔を向ける。

誰が誰でもおんなじだ。誰かがそう言ったあの日から彼等の個性は綺麗にそれぞれ別れたらしい。なんとなく雰囲気が6人分違って見えるのは気のせいではないだろう。

「うわー!本当だー!」
「oh…beautiful…」
「こ、こんにちは!!」
「…………マジか」

それぞれの反応に私は苦笑いをやめられない。誰が誰だよ。心にツッコミを入れながらおそ松に顔を向ける。

「寒いし、俺こたつ入りてぇし中入る?母さん達今いないんだよね。」

「いや、お前が入りたいだけかよ!あっ、いや全然!うちなんかでよければくつろいでってね!」

「ちょっとチョロ松兄さんドーテー臭出さないでよー。あ、美味しいお菓子もあるからね!」

「てめーもだろ!!!!」

「寒空に舞い降りた天使との出会いに乾…杯」

「なんでためたんだよクソ松!」

「野球!野球好き?!」

「…猫は?」

「あの!!」

だめだダメだ。彼等の雰囲気に流されてしまう。もういいのだ。彼等がこんなにも優しく話かけてくれたのなんて何十年ぶりだろう。でも、もういいんだ。あの時、もしもあの時、この優しさをくれたなら私はまた違った人生を歩んでいたはず。だけどそんな私は此処にはいない。いるのはあの日オメオメと泣きながら世界を一抜けした私だけなんだから。

「私、来月結婚して海外へ行くの。その、ご挨拶に伺っただけだから松代さん達いないんだったらまた今度来るね。暫くは、居るつもりだから、その時にまた。誘ってくれてありがとう。じゃあね」

よく言った私!良く笑えた私!くるりと背を向けて、ポカンとしている六つ子達に手を振る。漸く前を向いて深呼吸をした。言えた!震えずきちんと言えたんだ!あの日の自分よグッバイ!

なのに、なぜ。

あの日と同じに、泣いているのだろう。


私は変わったのだ。彼等の世界から抜けて、生まれ変わった!そんな自分を賞賛する私と六つ子に愛されたかった私がスカートの裾を握りしめて震えている。どちらの私が正解だったのか。

彼等は変わらない。今も、これから先も。彼等の世界は崩れることはない。どんなに成長してシワシワの老人になってもそれは揺るがない。そこに私が居なかっただけ。私だけがそこから弾き出されて成長して変わっていく。

だから、私は進むのだ。ざまーみろ!お前らが、お前達が弾き出した私はこんなにも輝いている!泣きながら帰るこの道があの日と同じにボヤけて前が見え辛い。

変わらない住宅街。小さな公園。古くなった駄菓子屋。


私は、彼等ではない男性と、結婚する。
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