処理中。処理が継続されて行われていることを示す。


彼が創り出すモノはどれも美しく、それを言葉に出来ず上手に表せなくていつも胸が詰まる思いでいた。それはポケモントレーナーであるわたしにとって、自分より強者とのバトルで勝利するより心と体を高揚させ単純に感動で言葉が出なくなる。何度同じものを見ても変わらない想いが全身を駆け巡って行く。新しいモノを見る度に、わたしは感動で体を震わせた。黄金より美しい、それ程までに彼は素晴らしいものを創り出すのだ。



「あ、名前〜 またここに居たの?」
「!!!アーティさん!!!」
「うぅん、よく飽きないね〜。新作は出てないのに」
「いや!新作も楽しみですが!アーティさんの絵は全て、いつ見ても飽きないですよ!」
「そっかぁ、へへ、ありがとう〜」


ジムトレーナーであるわたしは、挑戦者が来ないこの様な暇な時間を利用してアトリエヒウンにお邪魔させてもらっている。そしていつも、時間が許す限り一枚一枚丁寧に作品を見て回る。アーティさんのモノは勿論、他の作者さんのモノも。わたしには勿論描けないが、想像すらも及ばない様な素敵な世界を彼らはその筆でたくさんの色彩を駆使しこうして形に出来ている。なんとすばらしい!憧れるのも無理はない。
しかし、ここアトリエヒウンにアーティさんが来られるのは珍しい。彼は根っからのアーティストだから殆どを家のような作業場か、虫ポケモンと共に外で過ごす。たまにジムに戻って挑戦者と戦って、たまに家に帰って寝ているか、だと聞いているが思えばわりと不規則な生活をしているなぁ。



「もしかして、挑戦者さん来ましたか?」
「あ〜、うぅん、来てないよ?」
「そうですか… 、あっ!おつかいですか!」
「そうでもなくてぇ、なんだろ?息抜き、かな?」
「息抜きですか」


瞳は綺麗なエメラルドが光っていて、眠そうな顔も疲れが溜まっているようにも見えない。しかし芸術家でもありジムリーダーでもある彼にはわたしには見えない疲労が身体に現れているのだろう。自分の作品を見て息抜きになるのか否かは分からないが、せっかく心も体も休みたくてアトリエに来たアーティさんの邪魔をするのは頂けない。アトリエの管理人さんに会釈をしアーティさんにも、ごゆっくり、と言葉をかけて立ち去ろうとした。玄関から覗く道はヒウンシティに似合わずあまり人が見受けられない。そびえ立つビルを視界に歩きだそうとしたその時、進むのを阻まれて不自然に足が踊った。


「えっ、わ、」
「あっ、はわわ、ごめんよぅ」
「…いえ!わたしは大丈夫ですが… 」


阻まれた原因に目を向ければ、鮮緑の服から伸びる健康的なナチュラルベージュの腕がわたしの上着の裾を掴んでいた。申し訳なさそうな顔のアーティさん。その弱気な表情とは裏腹に掴まれた手の力は強いし、エメラルドの瞳はわたしをしっかり捉えている。中々煮え切らない唸り声のようなものを上げているだけのアーティさんを不思議に思いつつ、次の言葉を待ちつつ目線を掴まれた腕まで下げた。 …まって。よくよく考えたら視界いっぱいにわたしの腕とそれを掴むアーティさんの手。あの、美しいモノを作り出す手をまじまじと見つめて憧れのアーティさんに触れられている事をしっかりと自覚した。心臓のあたりがむず痒い。何度も瞬きを繰り返してしまっている。


「一緒に、いてくれない、かなぁ」
「えっ」


まさかの申し出に、吃驚し弾みで顔を上げてしまった。少し悩ましげなエメラルドの瞳とかち合った。別に目を合わせるのが嫌な訳じゃないけど、先程自覚した焦れったい感覚が更に心臓をむずむずさせた。宙ぶらりんの掴まれていない方の手でなんとなく、胸のあたりの服を掴んだ。わたし、今変な顔してそう。いやしてる。だって、アーティさんも驚いてる。マメパトがナゾの実食らったみたいな顔してる。


「だ、誰と」
「そりゃあ名前…と、はわわ、ごめんね急にこんな事言って…」
「いえ、別に、大丈夫デス… 」
「本当かい!?」
「えっ、あっ、ハイ?」
「やったぁ!!」


わたしは『急に腕を掴んで「一緒に居たい」と言ってごめんね』に、『大丈夫』と答えただけだから、心の準備も何も出来ていない。けれど勘違いしたアーティさんは嬉しいのか掴んだままの私の腕ごとぶんぶんと上下に揺らす。色々理解が追いつかないわたしはどんな表情をしているか自分では分からない。
喜びを最大限に表現しているであろうアーティさんの笑顔は長い事ジムトレーナーとして仕えているわたしですら見た事ないような、きらきらした素敵なものだった。そんな笑顔を向けられたままという事は、変な顔はしてないらしい。そうと決まれば!と、ぱっと離された腕は力なくわたしの身体の方に戻って来た。片方の服を掴んでいた手も同じ様に。熱を持った腕を少し名残惜しいな、と素っ頓狂な事を思いながら呆けていると今度は反対の手を掴まれる。いや、掴むと言うよりそれは、


「(恋人繋ぎ…!!!)」
「まず、ヒウンアイスを買いに行こうかぁ」


それとも、ライモンシティまで行っちゃおうかな〜。のほほんと告げられた台詞に答える事無く繋がれた手の事で頭と視界がいっぱいのわたしは、見透かされた様な気がしてあたふたしてしまう。ふふ、と零れる声を辿ってゆっくりと目線を上げればアーティさんは、先程の嬉しいそうな、言うなれば可愛らしい笑顔ではなく、自分の手持ちや出来上がった作品に見せる愛おしそうな表情に似ている、柔らかい笑顔でわたしを見つめてくる。


「ほら、行こうか」


アトリエを出てわたしを先導するアーティさんの表情はそれ以上見れなかった。あの柔らかい笑顔には、どんな言葉がどんな意味が込められていたのだろう。何故、愛おしいと感じとれたのだろうか。手を繋ぐだけで混乱するわたしには、まだアーティさんの気持ちも自分の気持ちも分からない。目の前のアーティさんの背中を見ていると背景はヒウンシティの白銅色のビル群なのに、彼の作品を見た時の駆け巡る高揚感にとても似た何かが全身に広がる。関係ない事なのかもしれないし、気まぐれに付き合わされているのかもしれないけれど、昨日より少しだけアーティさんとの距離が近付いた気がした。
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