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その人を見るとふつふつと胸の奥底から歳上に対する憧れと、尊敬と、愛の気持ちが溢れ出てくる。あの賑やかな面子の中で自ら1歩下がり目立つ事が稀な彼女の姿を、リゼルグはいつも視線で追っていた。誰にも悟られる事無く自身の優しく甘い希望を込め大人と子供の中間にいる少女を見つめていた。

不思議な縁によって、背中を預け大きな戦いを繰り広げたなあの女性は、人付き合いを苦手としていて、そしてリゼルグも都合よく現れた臆病さが邪魔をして連絡先も聞かずに暫く関わること無く過ごしていった。別々の道を歩んでいる道中も、少年はずうっと彼女への気持ちを残り香のように微かに留めた状態で胸を焦がし続け早数年、漸くこのずるずると引き摺った行き場のない恋慕を晒せる機会が訪れる。

久方振りに、あの頃の仲間と共に集まる事があった。少しの間顔を合わせていなかった友人達が成長した姿で会えるという楽しみに心弾ませつつ、きっと来るであろう長年の想い人に次こそ1歩踏み出さんと決意した。
しかし、現実は非情であった。久しく会っていなかったあの子は、随分と大人びて綺麗になっていた。当時自分より少し大きかった筈の彼女の左手をよく見ると、銀に光るジュエリーを既婚者の印の場所に着けている。

少年の頃に芽生えた青い記憶は、それを見た瞬間すぐ様二度と出てこれないように心の物置に仕舞込まれた。

リゼルグは繊細で優しい人間だから、あの衝撃の再会の後一時気を落としたものの、時間の経過によってなんとかこれ以上の深い傷を負うことも無く、失った行き場のない恋心をじわじわと昇華出来た。
けれども、やはり年数をかけた分ショックが大きい。1つ色が抜けただけでこの虚無感、茫然と過ぎ行く時間の中で日常を過ごしていく中で1つの連絡が彼の元に入った。

今はもう誰かのものである彼女からの連絡だった。
衝撃の再開の時に、真っ白になった頭でやり取りしたのは微かに覚えている。
しかしもうそんなやり取りをしたのは随分と前だ。リゼルグもこの連絡が来るまで連絡先を交換した事を忘れていた。

「もしもし」

通話ボタンを押しスマートフォンを片耳に当て、呼び掛ける。
普通なら返答が返ってくるはずなのに、只聞こえるのは喘鳴のような声だった。
聡い彼は、直ぐに何があったのか察した。ここ最近、自分を含め少年少女の頃共に戦った仲間達を何者かが襲う輩が居るという事を小耳に挟んだことがある。
実際リゼルグも自身の肩書きを使い、その不届き者達の尻尾を掴もうとしていた最中だった。
彼女は、攻撃を受けたのでは。

冷や汗が頬をつたいながら声を荒げ居場所を問うたが、返ってきた答えは全く違う言葉だった。

『私はもう駄目です。リゼルグ君、貴方に、私の娘を』
「娘?娘だって?!きみ、大丈夫なのか」
『ごめんなさい。もう、これ以上は、お喋りはできない。場所はー』

突然の事で目を白黒させながら、彼女が告げた場所へと急いで向かう。
彼女に娘がいたのかとより一層衝撃を受けつつ通話は繋げたまま、状況を訪ねるが無駄に終わった。大きな物音と共に、プツリと途切れてしまったのだ。
飛び乗った車を猛スピードで走らせ、何度も何度も折り返し連絡を掛けたが通じない。
発信を30回ほどした頃に、彼女から指定された場所に到着した。

薄暗い雲がどんよりと湿り気を帯びさせる、寂れた埠頭。
生暖かい潮風で錆び付いたコンテナ群の影から幼い子供の啜り声が聞こえたので、探す手間が省けたとリゼルグは思った。
物陰を覗くと、小さすぎる少女が1人蹲っている。優しい両親から買い与えられたであろうぬいぐるみを小脇に抱え、ぶるぶると身体を震わせ泣いている。

「……名前ちゃん?」
「だ、だれですか」
「ボクは…ボクはきみのお母さんの、お友達だ。お母さんに言われて、迎えに来た」
「……ママは、ママは、生きてますか」

子供が発する、たどたどしい言葉だから、より一層ズシンと重く感じる問いかけ。
このまま推測でしかない事を伝えるのは、この幼い子に対して酷すぎる。リゼルグは静かに「わからない」と答えこれからどうしたものかと考えた。

泣きじゃくる名前という、可愛い名前を付けられた子供は彼女にそっくりだった。
髪も、顔立ちも、喋り方も幼いけれど似ている。今は涙でいっぱいになり閉じられた目もきっと彼女に似ているのだろう。

ふと、大昔の自分の幼い頃を名前に重ね合わせてしまった。
自分も、憎い仇によって両親を失ったから、なんとも言えない気持ちになった。

「わたし、これからどう、なるんですか」
「……大丈夫、大丈夫だから。怯えないで。ボクの家に来るといい、そこでお母さん達を待とう」

縮み上がった小さな体を出来るだけ優しく抱きしめて、安心させようと優しい言葉を掛ける。
リゼルグは、この行き場のない女の子を守れるのはボクしかいない、自分で生き抜く事がまだ難しい微弱な存在をこのままにしておけない。と考えた。
1度は愛した人間の、大切なものだから、自分もなんとかして繋げねばと男の心に使命感が湧き上がった。

名前の柔らかな香りが鼻腔を擽る。
これからの行き先が全く見えない状況に、困った様子でリゼルグは空を仰いだ。
仕舞込まれた恋心の宛先は、いつの間にか失ってしまった。
まだ何も知らない少年だった頃、こんな事に転ぶとは思いもしなかったと、緑の髪と瞳を持つ青年は途方に暮れた。
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