「Hey,名前!!遊びに来てやったんだぞ!!君ったら、放っておいたらいつまで経っても連絡してこないし遊びにだって来ないんだから!やきもきしてしょうがなくなって、俺から誘いに来ちゃったんだぞ!!全くもぉ〜っ、日本人はシャイ過ぎるんだぞ!偶には俺みたいに自由にはっちゃけてみたらどうだい?」
 アーサーの所に押し掛けるみたく突撃いきなり訪問で彼女の自宅へとお邪魔した。
 いつもだったら、“来る時は連絡くらい寄越してからにして!”とかって小言が飛んできた後に続くように彼女が何だかんだ出迎えてくれるのに。
今日はその何れもが無かった。
 勢い良く開け放ったドアの物音が聞こえた以外、室内は静かで閑散としていた。
もしや、居ると思って押し掛けたところの相手は不在だったのか。
そうであったのなら、なんて無用心な…!
家を留守にするのに鍵を掛けないままだなんて!
空き巣や泥棒に入られても文句は言えないんだぞ!!
 幾ら日本という国が他国に比べて治安が良く安全な国だからといっても、最近は何処の国でも物騒なニュースが巷を騒がせていたりするんだから、無用心が過ぎるのは頂けない。
彼女と次に顔を会わせたら開口一番に言ってやるんだぞ…!
 そう息巻いて、彼女の居ぬ間に誰ぞ知らぬ輩が勝手に上がり込んで来たりせぬようにと家番をするつもりでナチュラルに室内へと上がり込み、真っ直ぐと伸びる短い通路を挟んで、小さく狭いワンルームのリビングへ繋がるドアに手を掛け開いた。
 すると、窓から射し込む自然光のみが明かりと照らす部屋の真ん中辺りに、ポツン、と一人座り込む部屋の主が居た。
 何だ、居るんじゃないか。
だったら、何で居るって返事をしないんだい。
 部屋の中の光景を見て、最初に思った感想がソレだった。
なんて事はない、普通の感想である。
 わざわざ部屋の電気を点けずとも明るい事から、窓から入ってくる自然光だけで居たのはまぁ頷けた。
しかし、来客があったにも関わらず応答無し、しかも居留守を使うだなんて酷いじゃないか。
おまけに、俺が此処まで上がり込んでいるのにも知らんぷりな風にそっぽを向いたまま、何の歓迎の言葉も無い。
 俺が何をしたって言うんだい。
俺はむすりとした顔を貼り付けて、如何にも不満ですと言いたげな口調で以て口を開いた。
「ねぇ〜、いつまでそうしてるつもりだい?せっかく俺が来てあげたっていうのにノーリアクションはつまらないんだぞ!ちょっとくらい反応を返してくれたって良いんじゃないかい?というか、居たなら居たで返事してくれよ!何の返事も無かったから、俺はてっきり君は鍵も掛けずに家を留守にしてるのかとばかりに思ってヒヤヒヤしたんだぞ!この責任はどう取ってくれるんだい?言っておくけど、俺はそう簡単に機嫌良くなったりなんてしないんだぞ!君が俺が満足するまで付き合ってくれない限りは怒ったまんまなんだぞ!!ちょっと聞いてるかい!?」
 そうポコポコと一方的に捲し立てていた言葉を中断し、座り込んだまま此方を振り返るでもなく背を向け続ける彼女の肩を掴んで、半ば強引に此方へ向くよう仕向けた。
 そしたらば、予想外の事と直面して、俺は吃驚固まって、二の句が告げれなくなってしまった。
なんて事だい、何の返事も返してくれないと思った彼女は、静かに涙していたのだ。
 彼女の目からはらはらと溢れ落ちていく涙は美しく目を瞠ったが、今は其れどころじゃない。
俺は内心頭(かぶり)を振って、泣いている彼女へと問い質した。
「ど、どうしたんだい!?一体全体何があってそんな風に泣いているんだい!?お、俺が訪ねに来たの、そんなに嫌だったのかい!?Oh,ソレは悪かったんだぞ…!!確かに、いつも突然押し掛けてたから君に迷惑を掛けてる自覚はあったし、君の嫌がる事をするつもりは無かったけど、俺が悪かったのなら幾らでも謝るよ!!だから、頼むから泣かないでおくれよ…っ!ヒーローはヒロインの涙に弱いんだぞ…!」
「……ご、御免なさい…っ、貴方のせいで泣いた訳ではなかったの……。だから、謝らないで…?」
「そ、其れは良かったけれども…じゃあ、どうして何も言わなかったんだい?あまりにも何も言わないから、俺はてっきり君に愛想尽かされたんだと思っちゃったんだぞ!」
「…御免なさい…、ちょっと、すぐには返事を返せる余裕が無かったから……気を悪くさせたのなら謝るわ。…それと、泣いてた理由に貴方は関係無いから、気にしないで?」
「気にするに決まってるんだぞ!悲しそうに泣いてる君を放ってドーナツを楽しめる程、俺は馬鹿じゃないし人でなしでもないんだから!!全く、君は俺を何だと思ってるんだい…?米国が誇るヒーローなんだぞ!ヒーローは悲しんでるヒロインを放ってなんておかないんだぞ!さぁ、訳を話してごらん…?ゆっくりで良いから、今君が泣いている理由を聞かせて欲しいんだぞ」
 未だはらはらと涙を流して止まない彼女に寄り添うように膝を付いて、泣いている訳を促した。
 すると、彼女はまずティッシュをくれと所望してきた。
俺は急いで近場に置いてあったティッシュ箱を手に取り、彼女へと渡す。
受け取った彼女は、箱から数枚のティッシュを取り出して涙を拭った後、鼻もかんだ。
 次いで、ゴミ箱をくれと言われ、甲斐甲斐しくも世話を焼くみたくゴミ箱を取ってやった。
其れに、彼女は今しがた自分が生み出した鼻紙のゴミと纏めてポイする。
 まだ涙が落ち着かぬようだったので、そのままゴミ箱は彼女の側に置いておく事にした。

 暫くして、再び口を開ける程度には落ち着いたのか、俺の方へ向いて謝ってきた。
「…本当に御免ね、泣いたりなんてして…」
「俺は別に構わないんだぞ。ただ、君がどうしてそんな風に悲しんでいるかの理由が知りたいだけなんだ。…話してくれるかい?」
「…御免ね、本当に御免ね……悪いのは私なの。全部全部、悪いのは私…出来損ないの、役立たずな私のせいなの」
「どういう事だい、ソレ…?」
 目を疑うような言葉に、俺はそう疑問を呈した。
その言葉に、彼女は唇を噛み締めるようにして俯き、斜め下を見つめた。
そして、俺に促されるように、ぽつりぽつり、と胸の内を吐露していった。
「…私、以前はもっと上手くやれてた方だと思ってたの…でも、其れは間違いだったって気付かされた……。不出来で要領の悪さから仕事を失敗するようになって、度重なるような叱責を食らったの。其れも一度や二度じゃないわ…。その内には理不尽な理由からの叱責もあって、本当に肩身が狭かった…。でも、社会に出て働くってそういう事だと思ってたから、少しくらいの理不尽さくらい堪えなきゃって、その後も頑張って仕事を続けてたわ……。だって、そうしなきゃ、私は其処に置いてもらえなかったんですもの。…直接的ではないにせよ、あからさまに私へ向けて言われた事があったわ…“お前の代わりなんか幾らでも居るんだからな”って。首を切られたくなくば成果を示せ、っていう体(てい)の良い脅し文句だったんでしょうね。下っ端も下っ端な私が逆らえない事を承知で無理難題を押し付けてきたり、当たり前のような理不尽な行為が続いた。…そうして堪えてる内に、段々と自分自身というものが分からなくなってきて…次第に自信も無くなってしまって、遂に私を否定するような事を言われたわ。頭ごなしの罵声だった。…そりゃあ、相手も人間だから、時には感情的にもなったりするもんだって事は理解出来るわよ…?でも、そう切り返されちゃ、“私の抱く気持ちはどうすれば良いの?”って話だった。そうやって有耶無耶にされて、結局は泣き寝入りするしかないって形で諭された。…もう、何処にも誰にも相談出来る相手は居ないんだって思った。取り付く島なんて始めから私には無かったんだって。……そう、気付いて、元々解(ほつ)れてた糸が、ぷつんって切れたの…。そしたら、どうしようもないくらいの感情に襲われて、目の前が真っ暗になって…気付いたら泣いてたのよ。……どう?可笑しいでしょう?…ふふっ、ぁは、ハハハ…ッ」
 ずっとずっと一人で抱え込んでいたんだろう悉くを吐露し終えた彼女は、泣きながら狂ったように笑い声を上げてその場に蹲った。
 まるで壊れた玩具みたいだと思った。
俺の知らないところで、彼女は一人苦しんでいたのだ。
 米国に住む俺と日本に住む名前、遠く離れた場所でも繋がっていると信じて疑わなかった俺だけど、彼女の中ではそうではなかったらしい。
 俺には迷惑は掛けられないと、一人で抱えるには大きな闇を抱え込んで、今まさに潰されかけていた。
 俺の膝元で蹲る彼女に、オロオロと手を伸ばして触れようとするも、どう接して良いのかが分からなくて、寸でのところで止めてしまった。
そうして無様にも迷っている隙に、徐にゆらり、と面を上げた彼女が零した。
「…私、きっとこの世にとって要らない存在なんだわ…じゃなきゃ、あんなトドメ刺すような事、言われる筈ないもの。……“役立たずの出来損ないのお前なんか要らない、お前みたいなのが居たら余計な仕事が増えてしょうがない、早いとこ辞めてくれないか、そしたら清々するのに”…って具合にさぁ。………っふハ、あーあ、なんて下らない話。何の笑いにもなりゃしないわ」
「…ねぇ、今言ってた事、誰が言ってたんだい?」
 もし、特定の個人が言ったとしたのなら、ソイツの所へ殴り込みに行ってやろうかと、暗に滲ませた風に凄んで笑ってみせれば。
彼女は複雑な表情を浮かべて笑って答えた。
歪んだ笑みだった。
「誰に直接言われたって訳じゃないの」
「え…っ?じゃあ、どうしてそんな事……、」
「口で直接言われなくたって、その場の空気、皆が纏う雰囲気で分かるわ。何よりも、目がそういう風に語ってたんだもの。目は時に口よりも雄弁に物を語るわ。だから、我が祖国日本には“目は口程に物を言う”って諺があるのよ」
「で、でも、皆が皆そうだった訳ではなかっただろう…?」
「仮にそうだったとしても、もう手遅れだったのよ。私が“こんなとこ辞めてやる”って思うのには十分な程積み重なってたの。そもそもが誰一人慰めてくれる人だって居やしなかったし、相談出来るような空気ではなかったもの…。其れでいて、口では“コミュニケーションが足らない”ですものね。…ハッ、笑っちゃうわ。だから、三年くらい前に辞職願いを出してやったの。丁度、辞める一ヶ月前くらいだったわね…。月が月だったから、キリが良い形ではあったわ。……でも、いざ辞めるってなったら、人手不足だからただでさえ多忙な時期に辞められるのは困るって感じに愚痴を零してきたなぁ…。散々一方的に“一刻も早く辞めてくれ”って態度で返してきてた癖に。自分達から首を切ったら世間体が悪いからって、自主的に辞めるようネチネチと陰湿な真似しといて、どの口が言うんだか。“嗚呼、コイツ等根っからどうしようもねぇんだな”って思ったわ。だから、こっちはこっちでスッパリ辞めれて清々したって内心嘲り嗤ってやったわ!人手不足で仕事が回らなくなる?知ったこっちゃないわよ。私なんて代わり幾らでも居るんでしょ?だったらさっさと代わりでも何でも探してくれば済む話じゃない。私は辞めた、もう関わり合いも無いし、一切合切関係の無い部外者でしょ。あんな糞みたいな職場、戻る気なんて一ミリだって無いし。…なのに、どうして社長からの年賀状は相変わらず届くのかしらねぇ…?他の人のは辞めた翌年から一切来なくなったけれど、社長のだけは毎年変わらず送られてくるのよ?一体どういう事なのかしら。辞めた人間の存在すら認知してないって事の顕れなのかしらねぇ?本っ当信じらんないわ。いい加減、私の事は解放してよ…っ、辞めた人間の事なんか放っといてよ…!辞めた後も絶えず苦しめられる私の気持ちなんか考えもしないし知らない癖に……ッ!!」
「名前!落ち着いて…!事情は分かったから、一旦落ち着いてくれ…っ!今、此処に居るのは俺だけで、君を傷付ける奴は誰一人として居ないだろ…?深呼吸をして、一旦気持ちを落ち着けるんだぞ!俺と一緒に吸って吐いてを繰り返そう!ほら、一緒に!!スーッ、ハーッ、スーッ、ハーッ…!」
 ヒステリックに喚き出した彼女を落ち着ける為に、彼女の両肩を掴み、しっかりしろと言い聞かせるように強く揺さ振った。
其れでも、俺ではない何処か遠くを虚ろに見つめて涙を溢し苦しそうに息を詰める彼女に、いつもの彼女を取り戻そうと躍起になった。
 一先ず、自分が率先するように深呼吸をしてみせれば、其れに倣うように彼女も深呼吸を始めた。
ひきつけを起こしたみたいに、時々途切れ途切れに嗚咽が挟まっていたけれども、暫くすれば其れも治まって、最初に顔を会わせた時のようにはらはらと涙を流すだけの状態に戻った。
 どうしたら、彼女の涙を止められる…?
どうしたら、彼女の苦しみを軽減出来るんだろう。
 俺は考えて、考えて、ウンウンと唸った末に閃いた“答え”に顔を上げて、彼女へと告げた。
「…よしっ、君にとって良い事を思い付いたんだぞ…!聞いてくれるかい?」
「良い、事……?」
「うん!俺が思うに、こんな小さくて狭い薄暗い部屋に閉じ籠ってなんかいるからそんな風に思い詰めたりするんだぞ!だったら、いっその事、此処よりBIGで広〜いのびのびと出来るような場所に羽を伸ばしに行けば良いのさ!!そしたら、気分転換は出来るし、君が今話してくれた嫌な事もぜぇーんぶ忘れられるんだぞ!!」
「…そんな風に出来る場所が、身近にあれば良いけれど…、」
「ちょっと遠いけど、あるんだぞ!君の心が休めそうな場所…っ!!」
「…本当にあるの…?そんな場所が…」
「俺の国にお出でよ!君一人だけだと怖くて心細いって事なら、俺が連れ出してやるんだぞ!!何せ、俺はヒーローだからな!!ヒーローはヒロインを泣かせたままになんかしないんだぞ!!悲しんでいたりしたら、いつだって助け出しに来るのがお決まりなのさ!!さあ、この手を取って…!!俺が其処から連れ出してあげるから!!どうか信じて、この手を取ってくれ…っ!!」
 泣き暮れるだけの彼女が見ていられなくて、俺は手を差し出してそう口にしていた。
彼女は半ば呆然としながら、俺の掌と目とを交互に見つめて瞳を瞬かせる。
戸惑いか、驚きか、俺の突然言い出した言葉に衝撃を受けたせいか、涙はピタリと止まって、目の縁に溜まっていたものだけが頬を伝って落ちる。
 俺はそんな涙を拭うように、すっかり腫れぼったく赤く染まってしまった目尻を労るみたいに指の腹で撫ぜて笑う。
「大丈夫…!俺と一緒に来れば、きっと今君が抱えてる悲しいのも苦しいのも全部気にならなくなるくらい楽しい毎日になるんだぞ!!君の好きなドーナツだって食べ放題さ!!だからもう一度だけ言うんだぞ…っ!!」
 少し強引に彼女の手を掴んで己の方へと引っ張りながら口にする。
「俺とランデブーしようよ!!国とランデブーなんて、しようと思ったって早々なかなか出来ない事だぞ!?君は幸運だったのさ!!ヒーローである俺に惚れられた、唯一の女の人だったんだからね!!」
 細く華奢な身をした彼女を胸に受け止めて、今まではっきりとは口にしてこなかった事を暴露する。
途端、今度は別の意味で驚いたらしい彼女が目を真ん丸にして見開き、ポカン…ッ、と口を半開きにして顔を赤らめた。
 そんな無防備な彼女の額へキスを落としてやってから更に告げる。
「ああっ、言っておくけど、君に拒否権は無いんだぞ!今日から君は正式な俺の恋人さ!!HAHAHAHAHA!!」
「えっ、や、なんっ、はぁ!?」
「HAHAHA!!君、凄い真っ赤なんだぞ!!まるでトマトみたいじゃないか!!そんな可愛い君を攫う俺は、今だけはヒーローじゃなく怪盗になってみせるんだぞ!!YA-HA!!」
「ちょっ、待っ――!?」
「待たないんだぞ〜!!米国行きの便が俺達を待ってる…っ!!乗り遅れない内にGOGOーッ!!」
 彼女の手を離さないようにしっかりと握り締めて、小さくて狭いワンルームの一室から飛び出していく。
 ついでに、玄関口に置いてあった鍵も拝借して、完全に去る前にとガチャリと施錠をしておく。
一応、大事な彼女の家だから、泥棒とかが入ってこないようにの戸締まりは大切だよね!
まぁ、今後彼女がこっちに帰ってくる事があるかは分からないけれどもさ!HAHAHA!!
 お菊のとこの国民の一人である彼女を俺の勝手な都合で連れ去るみたいな真似事をするからには、後で詫びの一本の電話くらいは入れとかないとなぁ。
でも、俺は何一つ悪びれるつもりは無かった。
だって、今の彼女にはこの手段が最も有効で、一番手っ取り早く救い出せる方法だったからね。
誰に何と言われようと、俺はこの考えを曲げる気は無い。
 そう決めて、些か強引なランデブーの便は俺の国である米国へと飛んだ。


 ―後日、俺はお菊のところと彼女の実家へと今回の件の一報を告げて、事情が事情だからと何とか許しを得る事が出来た。
 よって、危惧した国際問題には発展する事なく、事無きを得た。
俺はホッと安堵しながら受話器を置いてリビングへと戻っていく。
 今回の件で、本国の方にもちょっと伝えとかなきゃならない連絡事項が幾つかあったのもあって、少し疲れた。
其れでも、俺が国として遣らねばならない事を放棄する訳にもいかないから、遣る事はちゃんとしておく。
彼女を本国に正式に置けるようにする為にも大事な事だ、真面目なお仕事の内の一環として働く時は働く。

 リビングに顔を出せば、暖かな部屋の中心でのんびりと寛ぐ彼女の姿があった。
ふかふかのソファーは俺のお気に入りの一つで、其処に腰掛けて本を読む彼女は楽しそうな笑みを浮かべていた。
 俺は嬉しくなって、そんな彼女の背後から抱き付くように腕を回しながら口を開く。
「Hey,名前〜!仕事で疲れた俺を癒しておくれよ〜っ!!」
「に゙ゃ゙あ゙ッ!?吃驚したぁ〜…っ!もうっ、いきなり背後から抱き付くのは心臓に悪いからやめてって言ってるでしょ…!!分かってたとしても貴方から抱き付かれた時の衝撃凄いんだからぁ!」
「Oh,sorry〜!君が何だか楽しそうにしてたから俺も嬉しくなってね!!何の本を読んでたんだい?」
「うん?コレ?コレは、私の住んでた国でポピュラーで人気な作家さんの小説よ。江戸に住む体の弱い主人公と、その周りに現れる妖怪達との賑やかな日々が描かれたお話なの」
「WAO!時代物のファンタジーって事かい!?ソレは面白そうだね!!今度俺にも読ませてくれよ!!」
「良いけれども…今読んでるのは日本語表記よ?英語版に翻訳された物ならすぐにでも読めたでしょうけども」
「あー…ソレはちょっとお菊に訊いてみないと分からないなぁ〜…。うーん、後で本のタイトルとか教えてもらっても良いかい?今度国際会議があるから、その時にでも訊いてみるんだぞ!」
「ネットで調べてみれば早いと思うけど…」
「こういうのは、交流の一つになるから、下らないようなちっちゃな事でも話のネタにしちゃうんだぞ!せっかく国際会議という場で会えるんだし、“君の国の事に興味があるよ!”って示す絶好の機会じゃないか!!其れに、お菊はその手に詳しかった筈だからね!!問題無いんだぞ!!」
「成程、言われてみれば今みたいな話も交流の切っ掛けになるのか…っ。国とただの人じゃ考えが違うものなのねぇ」
「まぁ、俺の一番は君なんだけどね!!」
 そう言って彼女の方へ回り込んで、正面から思い切り抱き付きにいく。
彼女は其れを嫌がるでもなく擽ったそうに受け入れ、微笑む。
 少し前の憔悴し切っていた様子からは打って変わって、今やすっかりと元気を取り戻せたようで安心した。
やっぱり彼女には、にこにこと明るく笑っている姿の方がよく似合っている。
「なぁに〜?アルフレッド。そんなまじまじと見つめられちゃったら、穴が空いてしまいそうよ」
「へへへ〜…っ!こうやって二人きりの時は、“アル”って呼んで欲しいんだぞ!!」
「ハイハイ…っ、其れで…?アルはどうして私の事をそんなにも夢中な程に見つめてくるのかしら?」
「んっふふ〜!ソレは君が可愛くて仕方がないからなんだぞ!!君が笑っていてくれたら、其れだけで俺の疲れは吹っ飛んじゃうんだ!!まるで魔法みたいだね!!」
「あら、嬉しい!でも、こうやって笑っていられるのは、いつだって貴方のお陰よ、アル。私のヒーロー、アル…あの暗闇から連れ出してくれて、有難うね。私も貴方の笑顔が一番好きよ」
「ふふふっ、俺達両想いだね…っ!このままハネムーンまでひとっ飛びするかい?…なぁーんて、流石に其れはまだ気が早――、」
「アルさえ良ければ…不束者ですが、貰ってくれると嬉しいわ。勿論、返品は不可でね?」
 ジョークのつもりで口にした台詞を継いだ彼女がまさかの返事をくれて、俺は寸分開いた口が塞がらなかった。
理解が追い付いた瞬間には勢い良く立ち上がっていて、衝動に任せて彼女の事を抱き上げていた。
そうして力一杯に強く抱き締めてから、俺は今日一番のスマイルで告げるのだった。
「一生懸けて幸せにするんだぞ…っ!!」
 愛しのヒロイン、名前…。
今日を以て君はヒロインの座を卒業さ。
だって、今この瞬間から君は俺の伴侶となるんだからね!

 ―I love you, my honey!!
Please marry me!!
And for the record, I don't take "no" for an answer, I only take "yes" for an answer!!
(――愛してるよ、マイハニー!!俺と結婚してください!!言っておくけど、“ノー”という返事は聞かないし、“イエス”という答えしか聞かないんだぞ!!)
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