※独自設定あり。
※捏造。 


 審神者になるのが夢でした。
 歴史修正主義者から刀剣男士と共に歴史を守る。そう、政府がテレビでコマーシャルを流したり、審神者の才の有無を検査するように促す案内が入った封筒がポストに入っていたり、友人やクラスメイトの間できゃいきゃいと無邪気な話題として出てきたりと、それは生活に入り込むには大分突飛なはなしでした。だって、歴史修正主義者、刀剣男士なんて耳慣れない言葉、話題にならない方がおかしいじゃないですか。それが、かっこいい男の人ならなおさら。
 刀剣男士。政府が学校宛に配布した審神者についてのパンフレットの中に出てきた、テレビの中に出てくるアイドルや俳優よりもずっと格好いい男の人たち。私はすっかり彼らに夢中になりました。それが、きっかけです。審神者になりたいと思ったのは。不純な動機です。
 自分のことをこういうのもなんですが、私は夢見がちな性格で、パンフレットに掲載されていた彼らと『本丸』で暮らし、歴史を守るために戦う想像を初めて彼らを目にした日からしていたのです。本丸は、政府のホームページを見て知りました。
 刀剣男士というのですから、刀、剣で戦うのでしょう。刀。日本刀。日本刀は時代劇のレプリカしかみたことがなくて、銀色の、細長い刃物というくらいしかありませんでした。生憎と、刀には興味がなくて、調べようという気には、当時の私はならなかったんです。あんな格好いい人たちが刀を振るう。まるでドラマのようではありませんか。パソコンで刀剣男士について調べられる範囲調べました。審神者についても調べて……、名の由来、本来の意味、とか。危ないこともやりました。おまじないをやって、巫女さんの修行内容を調べて、出来そうなものを真似してやって……、それくらい、審神者になりたかったんです。
 審神者の検査は高校二年生の三学期が始まってすぐ行われます。以前は十八歳になってからでしたが。それでは、もう進路を決めている子が審神者適正があった場合、かわいそうだろうと声があがって、こんな微妙な時期になったんです。それでも遅い……あ、すみません、そんなつもりじゃなくて。……はい、私は検査を今か今かと待ちました。けど、私は審神者になれなかった。
 はい、才能がなかったんです。
 私には、審神者の才能が全くありませんでした。霊力はあるけれど、と残念そうに政府の方がおっしゃっていました。
 私は、頭の中が真っ白になりました。才能が必要だなんて、今までやってきたことがなんにも実を結んでいなかったなんて、ショックでした。ずっと憧れ続けた職につけないと言われたのですから、当然です。
 おぼつかない足取りで施設の中を歩いていました、と思います。どうしてだろう、なんでだろうと、今日までの出来事がぐるぐる頭を回って、そればかりを考えていました。歩いて、家に帰ろうと出口まで来たところで、上品なスーツをきた男性に声をかけられたのは。はい、え?……はい、この人です。はい、「審神者になりたくないか」と。耳を疑いました。今思うと、狙われていたんですね、私。……頷きました。何回も。私は、男性についていきました。希望があるなら縋りつきたかったんです。
 施設の二階にエレベーターであがりました。ある一室に案内されました。会議室のような部屋で……、お香の匂いがして、それから記憶があいまい、なんです。ぼんやりしていて、よく思い出せないんです……。すみません。
 和風の屋敷……、そう、ああ、そうです。屋敷。屋敷には人がいた、と思います。その人と一緒に刀をつくりました。つくり終わって、完成したばかりの刀を渡されました。
 名前は前田藤四郎。きれいな刀です。私にはもったいないくらい、きれいな……。
 その人が、前田藤四郎をなるべく手放さず、長く一緒に過ごすように私へ言いました。そうすれば審神者になれるかもしれないって。
 いつのまにか自宅の前にいました。ゆめかと思いましたが、手には前田藤四郎が入っている箱がありました。ああ、夢じゃなかったのか、と審神者になれるかもしれないと声をかけられたのは本当なんだと、私はすごくうれしくなりました。
 前田藤四郎。刀剣男士の姿をわからないけれど、こんなにきれいな刀なのだから、きっときれいな人なんだろう。パンフレットの人みたいに。私はスマホで検索した前田藤四郎についての色々を開きながら、どうすればなるべく手放さないように毎日を過ごせるかを考えました。
 審神者の才能がないと判明した私は、その人の言葉に縋りつくしかなかったんです。やりたいこと、なりたいものはすべて審神者に詰まっていたんですから。それを奪われると私は何もない、からっぽな人間なんです。だから、必死でした。
 毎日まいにち、学校へもっていき、自宅では持ち歩いて、所持して過ごしました。見つからないような工夫を思いつき、持つのに負担にならないようにしたりして。
 そうしていると、愛着がわいていきます。もともと大切なものですが、日を増すごとに気持ちが大きくなっていきます。前田藤四郎が大切だという気持ちが。もし、あの人……私に前田藤四郎を与えた人が、前田藤四郎を壊せと言ったらどうしようと心配が浮かぶくらいには。だから、いまこうして、ここにいることに最悪な気分になっている私もいれば、ほっと安心している私もいるんです。
 あの、前田藤四郎はどうなりますか?どうか、穏便にお願いします。私がこんな、言える立場じゃありませんけど……。




 「これ以上はやめたほうがいいね」
 「え?」
 
 政府所属の石切丸さんが苦笑する。私は石切丸さんの方を向いて、そうなんだと素直に思った。監視カメラの映像を映し出す画面の女の子が俯いたと思えば、石切丸さんがそう言ったのだ。
 上からの命で何らかの事件に関わったと思われる子の事情聴取に同席している私は、審神者の先輩と職員数名と政府所属の刀剣男士に囲まれて委縮している。先輩だけで十分だろうに、なんで私がここにいるんだろう。

 「わかるんですか」
 「わかるよ」

 先輩の背後で初期刀の長谷部さんが石切丸さんに威圧を送っているが、石切丸さんはなんともないような表情で先輩の言葉に頷く。怖い、なんで威圧送っているの。

 「前田藤四郎がこれ以上、主君は答えられませんと言っているからね」
 「え?前田がいるの?」
 「ああ、あの子のそばにね」
 「……審神者の才能がない相手に主君。主って認めているってことですか?」
 「そうみたいだね」

 先輩と職員たち、そして私も驚く。前田藤四郎がいるのか。刀は政府の職員が保管しており、前田藤四郎は南棟の保管室にあって、取調室があるここは東棟だ。けっこう距離がある、そんなに刀から離れて大丈夫なんだろうか。ちらりと刀剣男士たちの様子を伺う。私たちと違って、驚いている様子がない、いつも通りの表情だ。刀剣男士からすると常識なのかもしれない。

 「大切にしてくれたら、私たちだって、持ち主を大切に思うんだよ。人がこだわる才能の有無は二の次さ。私たちが恐ろしいのは、主に危機が迫っているにも関わらず、何もできないことだよ」

 石切丸さんの穏やかな声に先輩がちらりと長谷部さんへ視線をやってから、「そうなんですね。……前田が言っているんじゃ、ほんとですよね」とため息を吐く。

 「一般人に審神者にならないかと声かけて、刀を渡しているやつの手掛かりがないわけか、そっか……」

 先輩が残念そうな声を出すと、職員たちが我に返ったかのような反応をし、ではどうしましょうと自分の考えを出し合う。長谷部さんは先輩を励ましている。私は職員たちに意見を求められつつも、思考は前田のほうに持っていかれていた。画面には女の子しか見えないが、石切丸さんには、もしかすれば刀剣男士には前田が見えているのだろう。
 ――末永くお仕えします。
 前田を初めて手に入れた時のことが蘇る。この女の子がどうなるかはわからない。けど、きっとどんな時も彼女のそばには前田がいるだろう。それが私にとっての救いだった。
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