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暗闇の中、宙に浮かぶ浮遊感に気付き、瞼を上げる。

『ん…』

私は部屋の天井にピタリと背中をつけ、自分のベッドを見下ろしていた。
暗闇の中に、ベッドで眠る私が居る。

『…なにこれ…』

すやすやと眠る自分を見下ろしているなんて、幽体離脱?それとも夢?

―カラカラ…

『?』

すると小さな音を立てて窓が空いた。途端に冷気が部屋に入りこみ、体の末端がキリリと冷える。
窓を見てぎょっとする。窓に黒い影が立っているのだ。なにあれ、どろぼう?
ゾッとして慌てて真下の自分に手を振りながら声を上げる。

『ちょっと!私!起きて!どろぼー!!』

その影は何の迷いもなく、ずかずかと眠る私に近づいてくる。影の成り立ちを見て、さらにぞっとする。
影は随分と体格のいい男で、上半身はピタリとした服を着ており、下半身は土方のようなだぶっとした服を着ている。
ヘルメットの様なものを深くかぶっており、目元がよくわからない。そして室内の闇に紛れるような全身黒ずくめであり、さらに。

『…化物…!』

男の背には天狗の様な、真っ黒な羽が生えているのだ。
一目で怪しすぎる!と眠る自分に逃げろと訴えるが、自分は透明な存在なのか何の反応も帰ってこない。
男はベッドに眠る私を見下ろすと、躊躇いもなく徐に布団を剥いで覆いかぶさったのだ。

『…!』

この男は泥棒ではない。私の体が目当ての痴漢だ!
大柄の男が私の体に覆いかぶさると、すっかり自分の姿は見えなくなってしまう。男の背にはカラスの様な羽と、短い剣が背負われている。
男は私の顔中にキスをしているようで、男の頭の向こうにちらちらと枕に広がる自分の髪の毛が見えた。

『やめてー!お願いっやめてー!』

自分が犯される場面なんて夢でも見たくない!
…すると、男がなんと、こちらを見上げたのだ。ゾクゾク、と得体の知れない恐怖が体中を走り、息を飲む。

「……」

『え?』

―やっと、見つけた―

男の唇が小さく動く。暗くてよく見えない筈なのに、頭の中にやっと見つけたと低い声が響いた。
私を探してたの?と声をかけると、男は静かに、と自分の唇に人差し指を当てた。
男の顔はヘルメットのせいで見えない。しかし、しっかりと視線は絡み合い、縛り付けられる。

『…こ、た…』

無意識にこぼれた言葉。誰の名前だっけ?それを呟くと、男はふい、と背を向け、再び眠る私を構い始めた。
―ごくり。今度は唾を飲む。男が私の体に行う行為はとても丁寧であり、背中越しでも大切に扱われていると気付く。

『…小太郎…?』

男の背中へ問いかける。すると、男の背がぐぐ、と丸くなり、まるで縋るように私の体を抱きしめたのだ。
男の太い腕が私の頭と背を抱き、彼の肩越しにすやすやと眠り続ける私が居た。なんか、まるで私が死んで、それを悲しんでいるみたい。
その光景に、少しだけうっとりとしてしまった。






「…夢か」

嫌な夢ではなかったな。とのっそり起き上がる。身支度を進めながら、なんでこんな夢を見たかのか考える。

(あの子…今どうしてるのかな)

その名前を思い出すたび、小さく胸の奥がうずく。ときめいてしまう。
別れた後、あの子の事を寝ても覚めても考えていた。恋に近かったのかもしれない。
けれど年月を重ねている内、あの子への気持ちも思い出も幻だったと思えて。恋をするにはあまりの謎が多くて、得体の知れない存在だから。
小太郎は過去から来た忍者で、元の時代に帰れないから山に住んでるとか。

(あの日の事、夢みたいだったもんな)

あれから十年近い日々が過ぎ、記憶も曖昧になってくるとあれは私の夢だった気がしてくる。
あんな高い崖から落ちたんだから、きっと頭を打って変になったんだ。
でも、素敵だったから、嫁に来いと言われてしまったから、なんとなく私は彼と結婚するのだと小さく信じている。
そう、時は流れた。子供だった私も人生の別れ道に何度も出くわし、今日まで過ごしてきた。



20200311