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翌日、心配していた通りにグループからハブられてしまった。
移動教室やトイレに一緒に行こうと誘うと、彼女達は透明人間の如く私の存在を無い物として弾むようなおしゃべりを始める。
ああ、妹さんハブられちゃったんだ…。と他の女子から好奇の視線。これがみじめだから嫌なのだ。
こんな事、大体一週間くらいで終わるし、下手すれば誰かにハブが移る。それでも死にたくなるくらい気持ちが落ち込むのだ。
大体、こんな日はもうダメなのだ。全てが良くない方法に進むから。

―ルルル

「お姉ちゃん、電話取って!」

「ほーい。はい、妹です」

死にたくなる学校が終わって、家に帰れば妹と見るテレビに少しだけ癒される。
ママが夕食の支度をしているので、ふいに鳴り響いた家電の子機を取ると。

『もしもし』

「パパ!」

『ママに変わって』

「…うん」

今日はダメな日だった。だから、全てかダメになる。
パパから、と子機を渡すと、ママの表情から感情が見えなくなる。そして声をひそひそとさせながら、リビングから出ていった。
妹はそんなママの様子に気付かず、テレビに夢中だ。私は足音を殺して、こっそりとママの後をついていく。
ママはお風呂場は入ってドアを閉めた。子供たちに聞かれないような配慮。

『…帰らない?どうゆう事?』

私はお風呂場のドアに耳を寄せ、小声で話すママの声を拾う。

『…いいかげんにして』

『今はダメよ、あの子達が』

(……!!!)

音にすればガーンと、岩が落ちてきて頭部を強打したようだ。
心臓がきゅうきゅうと痛み、吐き気がこみ上げてくる。私は両手で口を覆い、こぼれる嗚咽を抑えながら部屋へ逃げた。

(離婚する!!)

#name3#が高校を卒業したら離婚する!もう、一緒には暮らさないんだ!!
ベッドへなだれ込み、声が漏れないように嗚咽する。親が離婚した家なんて、今の時代珍しくない。同級生にもいっぱいいる。
でも、自分の家族だけは、大丈夫だと思っていたのに。もうダメだ、とリュックサックを掴み、お財布とケータイを突っ込む。

「……」

バクバクと鼓動する心臓を両手で押さえ、ママと妹に気付かれないよう玄関へ向かう。
お風呂場のドアが開く音がし、ママはパパと電話終えたと気付いて慌てて外へ飛び出した。

(…小太郎…!)

家を飛び出して全速力で走る。
ずっと、ずっと会いたかった。小太郎に、会いに行きたかった。
小太郎の事、考えない日はなかった。冬は大丈夫だったとか、ちゃんとご飯は食べられてるのか、とか。
中学生の私に、会いに行ける行動力なない。しかし今、こみ上げた不安と悲しみが衝動的に足を走らせている。

「はあ、は」

息が上がったので走るのを辞め、スマホを取り出して19時半。明日は土曜日で学校休みだから、大丈夫。

「名前!」

「…佐助」

―キキ、

すると、後ろから自転車が追い越したと思うと、自転車を漕ぐ人物が勢いよく振り向いた。制服を着たままの佐助だ。

「どうしたの?こんな時間に」

「今から塾」

「塾?駅前の?」

「おう。お前は?」

「今から高井山岳に行きたいの!」

「は?」

「ね、乗せてよ。駅まで連れてって!」

飛びつくように背後から佐助の両肩を掴み、自転車の後ろへガシャガシャと足をかける。

「高井山岳って、こっから新幹線で2時間はかかるじゃん」

「だから急いでんの!終電終わっちゃう」

「なんでこんな時間から?一人?」

「いいから!」

佐助の肩をぱん、と叩いて自転車を速めるように促す。
頭の中では奇天烈な行動をやばいな、と分かっているのに衝動は止まらない。

「後でアイスおごってあげるから!」

佐助は両親になんかあったか?と呟いたが、別にと返した。
もうこんな環境飛び出したいのだ。学校も嫌だし家も嫌。もう、私の居場所なんてないんだ。
離婚なんて嫌だ。でも、パパとママのぎすぎすが続くなんて、もっと嫌だ。離婚するのがいいんだ。
気まずい家の空気から解放される道筋ができた、と希望を感じてしまった。
そして、妹が高校を卒業するまで離婚を伸ばすなら、あと数年は耐えなくてはいけないと思うと、どこでもいいから逃げてしまいたくなった。

(…待っててね)

ならば、いつの日か私を求めてくれたあの子に会いに行こう。私と一緒に居たいといってくれたあの子に、一目でもいいから会いたい。
電車に上手く乗れて、山の最寄り駅に着くことができたら。その後に着く頃には深夜になっているとか、駅から山道までどう行くのかとか。
どうでもいい、現実がまだ理解できない。なんとかなると信じている。

「あ」

すると、ポケットへ突っ込んだスマホが着信を告げる。やばい、ママからだ。
シカトしようと、スマホの拒否を押そうとすると。

―キキ

「え、ちょ」

「もしもし」

自転車が突然止まり、体ががくんと前に揺れる。その瞬間に手の中のスマホを素早く佐助に取り上げられてしまったのだ。

『もしもし!?』

「おばさん、こんばんわ」

「―ちょ、返してよ」

『あなた誰かしら?』

人気のない夜道に、スマホからママの話し声がよく聞こえた。
慌てて自転車を飛び降り、スマホを奪い返そうと手を伸ばすと、おもちゃを取り上げたじめっこの様に佐助が頭を押さえて制してくる。
ぐぬぬ、と腕を伸ばしても、ちょうど届かない位置へ頭を反らすもんだから。

「佐助です。妹さんと同じ中学の」

『…そう。そこに名前は居ます?』

「はい、一緒に居ます」

『変わってちょうだい』

「はい」

「―佐助!!」

抑えられていた頭を離され、つい、とスマホを差し出される。最悪だ、最悪最悪!
電話を切ってしまおうと思ったが、佐助が目の前にいるしと仕方なしにしぶしぶスマホを耳に当てると。

『名前!何時だと思ってるの?!どこにいるの?!』

「別にっ」

『なにが別によ、いつの間に出てったの?!』

「ママには関係ないっ」

『帰ってきなさい!』

「―……い」

「おばさん、すいません。アイス食べに行こうって俺が呼び出したんすよ」

「佐助っ」

帰るの嫌だ、と言おうとした瞬間、再びスマホを取り上げられてしまう。

『佐助君、もう8時になるのよ?中学生の女の子をこんな時間に呼び出すなんて危ないでしょ』

「すいませんでした。妹さんの事送ります」

『分かりました。よろしくお願いします』

はい、と佐助が呟くと電話は切れたようだ。
なんて事してくれたんだ、と胸の中がぐずぐずと燻って、怒りと諦めが混じり合う。

「馬鹿じゃねーの。こんな時間から高井山岳とか、馬鹿じゃん」

「止めないでよ」

「…なに考えてんだよお前」

あそこって毎年遭難とか事故とか、自殺の名所じゃん。そう佐助が呟き、頭を掻いた。
佐助はきっと私が自殺でもしに行くんだと勘違いしてるんだな、と急に頭の中が冷めてきた。

「あそこに、私の好きな人が住んでるの」

だらか、あんたが考えてるよーなことじゃない。
少しだけ突き放すような、きつい口調で自転車に跨った。私が再び自転車に乗ると同時に、佐助は自転車をこぎだした。

「ふーん。どんなやつ?」

「教えない」

小太郎は無口だけど優しくて、腕なんかムキムキで、すごい運動神経でかっこよかった!鳥みたいに森の中を飛んでいくんだよ!

「教えろよ」

「言わないーい」

「いいじゃん!」

「佐助に関係ないもん」

「…ある」

「え?」

「死ね!」

佐助がガシャガシャと猛スピードで自転車をこぐから、あっという間に家に戻されてしまった。
自転車に揺られながら、佐助の耳の裏を見ると少しだけ赤くなっていたような。

(…好きな子、佐助て言っとけばよかった)

そうすれば、グループの輪に戻して貰えるかも。
家に戻れば鬼の形相をしたママが待っていた。ママからこっぴどく叱られ、パパからも叱られると思ったがその日、パパは帰ってこなかった。