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学校へ行けば友達がいて楽しかったし、テレビも面白かった。家に帰ればママが晩御飯の支度をしていて、妹とパパが帰ってくるまで遊んだ。
楽しく幸せな瞬間は毎日訪れて、幸福感の訪問に私はいつも気が付けなかった。無くして気が付くものが、多すぎる。

「名前、おはよ」

「…おはよ…佐助」

いつもの通学路、今日は空がどんよりとしているから私もどんよりと返事を返すの。
すると、佐助は私の異変を察したのか、怪訝な表情で覗き込んできた。
彼の顔をちらりと見やり、視線を地面へ下げる。佐助にはこの前の帰り道で話してしまったから、適当にはぐらかさない。

「また喧嘩したのか?お前ん家の親」

「…うん」

いつからだったか、記憶がごまかそうとしてはっきりしない。
私が小学校を卒業して中学に上がった頃からだったか?絵に描いたように仲の良かった家族図は、崩壊の危機を迎えていたのだ。
ママとパパは次第に喧嘩が増え、働きたいとか家の家事とか、俺だって仕事で疲れているんだとか。
私と妹が眠りにつく頃、リビングからは二人の罵り合う戦いが聞こえてくるのだ。
いっその事、トイレに行くふりをしてあの喧嘩を止めに行きたいと枕を濡らしたが、強張った体は気付くと朝を迎えている。

「元気出せよ、後でジャ/ンプ貸してやっから」

他人の家庭事情なんざ、上手い言葉を返せなくて当たり前の少年は、ばつが悪そうに漫画の話を持ち出した。

「…公園で待ってるから持ってきて」

最近は部活を終えて放課後、すぐに家に帰りたくなくて、つい家の近くの公園で時間をつぶそうとしてしまうのだ。
佐助に両親仲を話してしまったのは、公園のブランコを揺らしながら帰る頃合いを見計らっていた所、同級生の佐助に帰んねえの?と声をかけられたのが切っ掛けだった。
佐助は小学校は別で中学からだったけど家の方面も同じだから気心は知れてる。それから、佐助はよく私に話しかけてくれるようになったのだ。



―キーンコーンカーンコーン

校内に授業終了の鐘が鳴り響くと、同じグループの友人達が前後左右の椅子を勝手に陣取り私の机を囲んだ。

「名前聞いてよ!あの子遂に付き合い始めたんだって!」

「まじ!?」

「まじまじ!」

部活の準備をする手を止め、キャーを合わせる。
さっさと部活行きたいんだけど、と頭で考えながら、すごいすごいと恋バナに花を咲かせ始めた友人達にテンションを合わせていく。

「あんたも先輩に告っちゃいなよ!」

「えーむりむり」

「私達も手伝うから!」

あ、これは長くなるな、と思いながら態度に出さぬよう、私も話に乗っかっていく。
部活に遅れても掃除当番だったからと適当に言えばいいや、と机に頬杖を突きながら精一杯に笑う。
この手の話、小学校の頃は最高に楽しかった。しかし、恋のゴールである結婚やら夫婦の事を見据えてしまうと、どうしても両親の顔がよぎる。
つまりは、この手の話、今の私には最低に面白くない話なのだ。

(どうせ付き合っても、別れるじゃん)

どうしてひねくれてしまったのか。本来の自分は恋に恋するタイプだったのに、今はもう恋というものに対して幻滅に近い感情を抱く。

(ママとパパも、きっと別れる…)

仲のよかった二人なのに。
そうだ、そういえば憧れた芸能人カップルは大体が最後は離婚やら破局のワイドショー。
どうせ全ての世の中のカップルは別れるんだ。そんで次の人へ行く。永遠なんて、存在しないんだ。

「ねえ!いいかげん名前の好きな人教えなさいよ」

「だからいないんだってば〜」

「うそばっかり。私たちは誰が好きか言ったじゃん」

「本当にいないの!」

「…もしかしてー、私たちの誰かの好きな人が好きとか…?」

「サイテー」

「ち、違うよ!本当にいないんだって!」

ああ、もう!と気持ちが焦るから余計怪しくなるのかしら。
本当に恋バナする時の女の子達ってめんどくさい。自分の事しか考えないし、誰誰がどうとかって、ただの冷やかしと評議会。
なんとなくグループ内の雰囲気が変わった事に気付き、嫌な予感がする。複数グループって、少しでも異端児がいるとすぐにハブるから。
しかもそれが流行って順番に回っていくから。私はハブされるの、絶対に嫌だ。恐怖でしかない。

「本当に好きな子、今はいないの!部活だから行くね」

「ふ〜ん」

「じゃ、私も部活行こ」

「私もー」

なんとか部活を理由に談話を終了させ、一足お先と学生カバンを胸に抱えて教室を足早に飛び出した。

(ばかみたいばかみたい!)

最後グループ内の空気がやばかった。多分リーダー格の子は、私の好きな人がグループ内の誰かと重複していると思い込んだのだ。
心臓がひやひやと不安感で波打つ。本当にばかばかしい。好きな子がいないとおかしいって、おかしい!

(……)

ふ、と渡り廊下に差し掛かり、思わず空を見上げた。制服のスカートが揺れてプリーツが刺さる、心に刺さるようだ。

(私が好きなのは)

あの、赤い髪の男の子。
数年前、あの山で助けてくれた男の子の事だ。
いまだあの日の記憶は鮮明に覚えている。よく考えたら全てが怪しくてあり得ない出来事だった。
過去の忍者の男の子が、タイムスリップしてきたとか。でも、あり得なかったからこそ、未だに大きく心は惹かれている。