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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -
ずしゃ!と大きな音を立てて着地する。
音を立てて着地してしまうなんて自分はまだまだ修行が足りないと考えながら、勢いよく木の上に飛び上がる。
まあ、この時代では戦がないのだから、もう、自分には隠密に働く必要がないかと思ったがやはり修行は続けよう。
いつか元の時代に帰れるかもしれないのだから。

「…」

背中に感じる温かい体温の持ち主は、崖から落ちている間に気を失ったようでぐったりとしていた。
力の抜けた体がずり落ちないよう、配慮しながら森の奥へと進んでいく。
しばらく走り続け、やがて自分の寝床へ到着する。木々の影が穴倉を覆い、少し薄暗いが十分生活していける穴倉だ。
普段自分が横になる寝床へ、おなごを静かに降ろしてやる。民家から盗んできた布や、枯れ草で作った寝床だ。
おなごを降ろした後、水桶の水を両手ですくい口付けて喉を潤す。
久しぶりに人と接触したからか、小さく興奮したのだと気付く。それを落ち着かせるように、ぬるい水が胃へ落ちて心が静まった。

(…さて)

掌の中の水が空になり、もう一度両掌に水を包む。
水をこぼさないようおなごの元へもどり、その水を擦りむいている膝にかける。汚れを流す為、水桶とおなごを何度か往復して水をかけていく。

(どこかで水杓子になるものを見つけないと)

不便だ、と考えながら何度か往復するとすっかりおなごの膝に付いた土が洗い流された。

(ヨモギがあったな)

薬草入れからヨモギを引っ張り出し、石ですりつぶして汁を出す。
奇襲などされない今、己が怪我をする心配はなくなった。が、つい薬草を摘んできてしまっていたのが功を奏した。

(随分)

綺麗な肌をしている。
濡れた膝を拭いていると、おなごの肌が異常に綺麗だを気付く。触れとその肉は弾力がよく、見るからに肌理が細かい。
健康的に日に焼けた肌は、水を弾いて薄暗い穴倉の中でつやつやと光の線を放つ。

(……)

おなごの手当てをさっさと進め、捻挫には冷えた水を汲んでこないと、と考えていると。

「ん、ん…」

(意識が戻るか)

「…―んあ!」

おなごは身じろぐとパチリと勢いよく両目を見開き、がばりと上体を起こした。

「だ!いったっ!」

(…)

「あ、えっ?…あ?」

おなごは小さく息を切らしながら、きょろきょろと辺りを見回し、混乱の表情で最後に俺を見つめた。

「えっと、ここは…」

「…」

「君の家?」

こくりと頷くと、おなごは再び穴倉内を見渡し、唖然と口を開けた。

「一体、君は…」

このおなごに…。
このおなごに自分の事を知られてもいいのだろうか?
もしかしたら、本当はここは遠い地で、時を超えていなかったら?
もし、このおなごが敵の忍だったら。このおなごを生かし帰してしまえば、俺を殺しに兵を出すかも。…当主に危険が及んでしまったら。

「いった!」

何日もこの時代で日々を過ごし、明らかにここは元居た場所とは違い過ぎているとわかっているのに。
思わずおなごに巻いていた布を力強くしばってしまった。
おなごは小さく悲鳴を上げ、声を上げた事にしまったと口を押えた。

「ぁ…ごめんね?手当してくれてるのに」

「……」

「助けてくれたんだよね。本当にありがとー」

おなごがはにかむ様に笑みを浮かべた。思わず息を飲む。
この時代にきて人と接するのは久しぶりだ。弱い心が込みあがってきそうになる。
ここはどこだ?なぜ俺がここに?当主は無事なのか?帰る手段を知っているか?おなごの両肩を掴んで質問攻めしたいが…。

「ねえ、君はなんでここに住んでんの?家族は?」

「…」

「ねえ、なんで君はあんなに運動神経いいの?人間の動きじゃないんだけど」

「……」

「ねえってば」

「………」

反対におなごから質問攻めにあう。俺の様な存在はこの時代では珍しいのだろうか、やはり。
どう答えれば…。と考えていると、おなごははっとした表情で眉を下げた。

「ごめん、もしかして君、しゃべれないの…?」

「…」

「サバイバルしてるっぽいし、事件に巻き込まれてるとか?…誘拐された?あ、遭難してたからこんな所に?」

え、どうしよう。あ、スマホ…。だめだテントだった。どうしよ、警察に…。

「…」

おなごは訳の分からない事を呟き、頭を抱えたり腕を組んだり。

「ねえ!」

「…っ」

「私、名前!今小6。君の名前は?」

「…」

「ねえ、本当にしゃべれないの?」

名乗っていいのか?このおなご信用できるのか…?

「ねえって、ねーえ!」

ねえねえ五月蠅いおなごだな!

「…ろう」

「!!」

「…小太郎…」

しゃべれるんじゃん!とおなごの表情がぱあ、と一気に晴れた。
思わず、何故か、花が咲くという表現はこの事かと思った。