驚きで涙がとまってしまった。
崖から落ちて途方に暮れて泣いていたら、目の前に男の子が現れたのだ。
「えっ」
男の子はヤンキー座りの様な体制で私の顔を覗き込んでいた。体格からして私と同じ年くらいの男の子だった。
「た、たすけに。…ん?」
助けが来たと思ったが、男の子の様子が少し変だ。
赤毛の髪はぼさぼさで、サングラスをするかのように目元はヘルメットみたいな帽子?金属で覆われている。
姿もなんか変だ。なんか、戦争時代に女の人が履いてたズボン…あ、あれだモンペ!足元は…ええ、草履?!
下はモンペみたいなズボンを履いて、上はタンクトップ…に見えたがよく見たら袖のない浴衣を着ている。
「……」
男の子は一言も声をださず、顔を上下に動かしている。どうやら私の事を下から上まで見回しているようだが、私も同じ行動を男の子へ返す。
お互いを見回し合い、しばし謎の沈黙が続いた。
(だ、だれ…?)
本当に変な子だった。
服はチャコールグレーの質素なカラーだが、よく見ると薄汚れていて本来の服の色なのか汚れなのが。
「あ、あの…」
一向に語りださない男の子に、自分から沈黙を破る事にした。
「き、きみは、この山の神様なの?」
男の子がく、と顔を上げた。目元をヘルメット?で隠しているけど目が合っているのだと思う。
自分でも変な質問だと思った。でも、この子やっぱへん。顔の頬と顎に赤い…ペイント?入れ墨?
すると、男の子はふるふると首を振った。
「そ、そうだよね!ご、ごめん変な事きいて!助けに来てくれたの?」
「…」
「え?あ、あし?」
男の子は私の質問に答えず、くじいてしまった右足を指さした。足の事かと返すと、男の子はこくこくと首を縦に振る。
「そう、足、くじいちゃって」
「…」
「こんなじゃ、キャンプ場まで戻れない…」
どうしよう、とこみ上げてくる不安と痛みに途方に暮れる。と。
「え?」
ぐい、と腕を引かれて体が前のめりに倒れそうになった瞬間、ばふ、と頬にちくちくとした髪の毛の感触。
何事?と状況を確認しようとした時、ごつごつとした岩肌の感覚が一気にお尻から消えていた。
私は説明が着かない現状を理解するまで、息をするのを忘れていた。
「――――ぎゃあぁっ!」
体が勢いよく上昇したのだ!まるでジェットコースターが急上昇するかのような浮遊感。そして勢いよく急降下。
「いっあ!!!」
急降下した感覚の次に着地の衝撃。びりびりっとくじいた足首が痛み、その痛みを感じて分解する前に、また体は急上昇した。
思わず両腕に力を籠める。二の腕にもちくちくとした髪の毛の感触。
その時やっと、男の子におんぶされている状態だと気付き、そしておぶられた状態で男の子が。
(あ、あ、ありえないぃぃい!!)
ものすごい速さで山の、森の、なんと木と木の枝を飛び移りながら走っているのだ。
いんや、走っているよりはまるで飛んでいるかの様。
(えっと、えっと、この子はえっと、レスキュー隊?!)
あり得ない状態になんとか理由付けようと、必死で頭の中をぐるぐる。
―ザ!
一際大きな草音がたった瞬間、両足がぶわりと宙を浮き、膝裏に大きな風を感じた。
目の前に、もう、木がない。
「やああああ!」
男の子は私をおぶったまま、勢いよく切り立つ崖を飛び出したのだ。
目下には深い森が広がり、まぶしいお日様が綺麗な緑色を照らしている。
これは流石に、この高さから落ちたら流石に!
目的は道連れ心中か!と声にならない言葉を叫び、ぶつ、と意識が途切れた。
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