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「お姉ちゃん!ご飯食べたら川!」

「OK!」

「あまり遠くまで行っちゃだめよ。昨日妹ちゃん河原で転んだでしょ。パパも一緒に」

「はいはい」

「お昼前にはここ出るから早めに戻ってきなさいね」

キャンプを初めて二日目の朝。本日も朝から気持ちのいいキャンプ日和だ。薪で焼いたソーセージとトーストを食べた後、私と妹とパパで川へ散策に行くことにした。
都内だと朝からでも汗ばむが、山の中で迎えた朝は心地よく涼しい。Tシャツの上にピンク色のパーカーを羽織る。
小川に降りると、朝からキャンプ場の客達が河原でBBQをしたり水遊びをしている。

「あれいいな。川でスイカ冷やすの」

「お昼やって!」

「今日帰るんだよ?」

「えー!」

「ねえ!ここから向こう岸に行けるよ!」

川沿いを三人でだらだら歩いていると、水面から石畳に様に岩が突き出している部分があった。その岩肌は点々と橋のように向こう岸へ続いている。
昨日も河原で遊んだが、向こう岸に行ける手段を初めて見つけたのだ。
向こう岸は森となっており、他に人はいない。が、岩の橋なんて子供の好奇心を惹いてしまうもの。

「名前、気を付けろ!」

釣りしたいな〜と川中を羨ましそうに覗くパパを背に、岩の橋をぴょんぴょんと渡る。
最後の岩肌を蹴って、めいいっぱいジャンプし向こう岸へ着地する。
見てた?!と振り返ると後ろの二人はまだ向かい岸の最初の岩だ。パパは妹の手を繋ぎ、ゆっくり渡ってくるみたいだ。
これだから小学生低学年は。どんくさ。

「名前ー!俺の目から離れたとこに行くなよ!」

「はいはーい」

パパの注意を適当に返し、私はずんずんと草木が茂る方へ入っていく。

(こっち側は人の手が入ってないんだ)

茂る草を前に小道を探すが、人が歩いて行けそうな道はない。キャンプ場側とは反対に、こちら岸の方は全く人が来ないようだ。

(猿がいたのは…)

どのあたりだっけ。
もうどうでもいいやと思いながら、心の何処かで初日に見た猿か鳥か分からない正体を確かめたい気持ちがある。
川に入ると思ってショートパンツで来たのが悔やまれる。草藪に生足を入れると、被れたり虫に刺されたりするから嫌だけど…。
ちらりと後ろをみるとパパと妹は岩橋の真ん中で石を投げて水切りをしていた。
あ、ちょっと楽しそう。と思ったが引き返す気はなく、パパが心配するとかママが怒るとか全然思いつかなくて。

「出ておいでー…」

パパ達に気付かれないよう、草が低い所を選んで森の中へ。

(……)

え、戻ろうかな!
十数歩進めて心が騒めく。人の手が入らない森ってこんなに暗いのか。
木漏れ日がかすかに照らしてくれるけど、生い茂る木々の葉が明るさを遮ってとても薄暗い。
ひんやりする空気に思わずパーカーのジッパーを上げる。朝露が残る草がふくらはぎをぴとぴとと濡らしていく。
時間にしてたった数分程度。後ろをふりむくと、草に覆われてすでに川が見えなくなってしまっていた。

(パパの目から離れた)

ちょっと怖いし戻ろう。

―ガサ!

「ひ!」

背後で大きな草音。勢いよく振り返ると奥の草がゆらゆらと揺れていた。明らかに何かが通ったのだ。

(あの時の猿?!)

心臓がどきどきとなり響く。得体のしれない違和感に、わくわくが勝ってしまう。
もしかして今の草音は、昨日の!少しだけ、少しだけ。

(少しだけ見たら!…っ?!)

少しだけ行ってみて何かいたらすごい。何もいなかったらなーんだ。で戻ろとしたのに。
草陰に足を踏み込んだ筈なのに、その一歩に地面の感触がない。
驚きで声にならない叫びが喉でつまった瞬間、背中をざりざりと岩肌がこすった。






「――…えっ!!」

状況を把握できないまま、はっと気づくと目の前には青い空と白い雲が浮かんでいて、とても気持ちのいい空だ。

「ええっ私!」

仰向けの状態だと気付き、勢いよく体を起こすと。

「いって!」

ずくんと右の足首が強く傷んだ。
慌てて確認すると、両膝から血が滲んでいる。すりむいているようだ。

(え、ええ。どーゆー…!)

混乱した頭で回りを確認すると、背後には傾斜は滑らかだが登るには無理がある高い崖。
どうやら滑り台を滑るように、この崖を滑り落ちてしまったようだった。

「ええ、ぇええ…」

半べその声を震わせながら、とりあえず足首を動かしてみる。

「いたあぁ…」

両足首ともちゃんと動くが、右の方は完全にくじいてしまったようだ。どうしよう、どうしよう。私崖から落ちちゃったんだ。パパ!ママ!

「うっうぅ…」

ぐすぐすと泣きながら、ポケットをまさぐる。やばい、スマホはテントに置いてきてしまった。
遂に声を上げて泣き出した。不安で怖くて仕方なかった。
唯一の望みといえば、気を失って時間が経っている事。戻らない私を両親が探しているだろう。

「怖いよ…」

叫んでみようとおもったが、崖があまりにも高くて上まで届く気がしない。こだますれば誰かに届くかなと思ったが、今は恐怖で泣くために震える喉。

―ガサ!

すると突然だった!
大きく風が吹いたと思ったら、大きな影がバサ!と落ちてきた。落ちてきたというよりは、着地したかのようだった。

「や!」

驚きで肩を跳ねさせ、目を見開くと。

「……っ」

はらはら、と瑞々しい葉が舞う中、目の前に現れたのは赤毛の男の子だった。