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「きゃあ!また遅刻!!」

私は自転車の籠に鞄を押し込むと、パンプスを履いた足でペダルを踏み込んだ。会社までは自転車で30分。1分も無駄にはできない。
私が何故、遅刻をしそうかと言うと、いつもギリギリまで寝ているからだ。原因は疲労。
今年の4月に入社して早2ヵ月。覚える事も多いし、中小企業である私の会社は人手も少ない。新卒の私に、これでもかと仕事が回ってくる。
6月の今は銀行の決算があるせいか、とても忙しい。日付が変わる頃に帰宅して、家でも体力の限界まで仕事。
休日だって返上で、パソコンと電話と仲よし子よし。

(今日も4時間しか寝れなかった・・・!もう!)

睡眠不足の体に、自転車を漕ぐ行為はとてもキツイ。朝日が眩しい、とりあえず会社に着いたら大嫌いなブラックコーヒーを飲まなければ。
社会に出るって、こんなに忙しくて目の回る物なのだろうか?入る会社を間違えたんだと思う。あーー!早く夏休みにならないかな!!!

「おはようございます!!」

「あ、ああ、おはよう名字さん」

「・・・?太南下さんと素頭木さんは?」

「ああ、休みだよ。・・・ほら、ね?」

「はあ?」

駅前の小さなビルの5階。そこが私の会社。エレベータを下りると、すぐフロアが広がるのだけれど、今日は何かがおかしい。人が少ない。
同期の太南下さん、休みなのか・・・。しかもエンジニアの素頭木さんまで休みなんて!一体何を考えてるんだ!私の仕事増えるじゃないか!

(もう〜バカバカ!)

半泣きになりつつ、パソコンで打刻を打つ。周りなんて気にしてらんない、今は集中して自分の仕事を片づけなきゃ!
私は段取りが悪いと言うか、人で言うおっちょこちょいの部類に入ってしまうので、かなり仕事の進みが遅い。だから仕事が溜まる。だから日々、ストレス。
ああ、学生時代が懐かしい。早く結婚して退社したいな、だけど私恋愛偏差値低いからなあ。いつになるやら。

「名字さん。こんな時も元気だねえ」

戦力にならない、おじいちゃんな課長が栄養ドリンクを私のデスクへ置いてくれた。キーボードを打つ手を止めて、その栄養ドリンクを一気に飲み干す。

「こんな時だからですよ。私仕事遅れちゃってるんで・・・」

「はは・・・」

課長は力無く笑う。去年奥さんに逃げられたんだっけ?うう、かわいそうだ。生気のないオーラに納得。
課長は一番奥のデスクへ戻ると、ぼう、とパソコンを見つめているだけだった。・・・働けって。

『次のニュースです。N○SAは・・・』

誰かがテレビをつけたみたい。ああ、もう、集中が途切れちゃうじゃん!バカバカ!
必死にパソコンの画面に噛り付いて、データ入力を進める。ああ、この調子だと今日も残業だ。ああ。







「ああ!疲れた!!うわーん!!」

パンプスを脱ぎ捨てると、スーツのままベッドにダイブ。
携帯の時計はなんと24:00。自転車で通える距離なせいか、ビルの電源が全て落ちるぎりぎりまで残業できてしまう。
・・・自転車通勤でよかった。きっと電車通勤だったら、私絶対電車にアタックしてた。

「シャワーして・・・なんか食べて早く寝なきゃ・・・」

うう、足むくんでるなあ。



―ジリリリリリリリ!!

「・・・・・」

聞き慣れているのに、今だイラ、とする目覚まし時計を止めて、7時半。全く狂う事なく、何時も通り起きて直ぐトイレへ行き、顔を洗って化粧して。
テキトーにご飯食べて服を着替えて、マンションの階段を駆け降りる。
携帯電話にはメール受信の文字。相手は友達だった。返事は何時でも出来る、それより会社に行かなきゃ。

(今日はいつもより早く出れたな・・・コンビニでもよってこ)

キイキイと自転車を漕いで、家から一番近いコンビニへと向かう。

「って、あ、あれ?」

行き慣れたコンビニ。なのに、今日はシャッターが下りている。

「えーうそ」

全国チェーン年中無休のコンビニが、・・・休みなんて。ありえないよー。
はあ、不景気だもんね。そういえば最近あちらこちらで、お店がシャッター閉めているなあ、近くの商店街も閉める店増えたし。
会社の自販でパンでも買おう・・・。ついてないなー。

「おはようございま〜す」

「おはようー」

「・・・?」

会社へ入ると、直ぐに異変に気が付いた。・・・なんかまた、人減ってない?気のせいかな。それとも外回りにでも行ってんのかな?
社員のスケジュールが書いてあるボードを見ると、なんだか真っ白。・・・何人か出張でもしてるのかな?

(ま、いいか)

それより仕事仕事。夏休みに絶対仕事したくないから、ちゃんと片付けないと。
パソコンのスイッチを入れて、会社のスケジュールを確認する。

(あ、明日。バサラ商事と会議かあ・・・コーヒーの粉残りどれ位だっけ・・・)

バサラ商事はうちと同じ中小企業。今かなり成長してる会社だと聞いた。新人の私はこーゆー会議のお茶酌みも仕事の一つ。うう、ちょっとめんどくさい。

「えーそれでは、朝礼を始めます」

朝礼?めずらしい。
ふとフロアの奥を見ると、部長が奥に立っていた。社員は皆、部長を見ている。

(それより仕事仕事)

部長が何かを言っている。もしかしたら重要な事かもしれないけど、睡眠不足で回らない脳みそは、パソコンの画面にしか集中できなかった。
部長の声を右から左に受け流す〜。

―パチパチパチ

(?)

部長の朝礼が終わった様で、社員から小さな拍手が上がった。
・・・なんか凄くいい事でも言ったのかな?聞いとけばよかった。ま、いっか。
私は腕をグイ、と回してキーボードを打ち始めた。