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ありがちなお話。
知り合いの伝手で紹介して貰った小十郎とは、トントン拍子に事が進んで・・・メールして電話して二人で出かけて。
お付合いを始めたら当たり前にキスもしてエッチもして、クリスマスも正月も誕生日も一緒に過ごした。

『一緒に暮らそうか』

交際を始めて一年と半年。
同棲なんて少し早すぎると思ったけれど、私は小十郎と少しでも生活を分かち合えるならって嬉しかった。

―ガチャ、リ

玄関の重いドアがゆっくりと開いた音。

「ただいま」

「あ、おかえりーご飯は?」

「食ってきた。・・・寝る」

「・・・・・・」

私はそう、わかった。と無言で返事を返す。声に出さないのは、面倒くさいから。いちいち返事をしたって何にもならないのを知っている。
私もそろそろ寝よう、と口に咥えた歯ブラシをシャコシャコと動かした。

(もう2年か)

ぼんやりと見つめた先には、無料で貰った犬の写真のカレンダー。
今日で、私と彼は同棲を始めて2年になった。
男友達から紹介してもらった小十郎は、年相応の真面目な所と男らしい包容力抜群な所が素晴らしい人だ。強面だけど優しいし、なによりカッコいい。
ああ〜、初めてのデートやらキスやらが懐かしい。懐かしすぎて、もうセピア色だ。セピア色の筈なのに、記憶の中ではキラキラと輝いている。

「あ、明日燃えるゴミだ」

歯ブラシを咥えながらリビングのゴミ箱を持ち上げる。ドアの隙間から寝室を覗くと、既に寝息を立てている彼の背中。
この同棲生活にゴールはない。あるとするなら別れだと私は思っている。結婚したっていいけれど、慣れ過ぎてしまった私達は結局、結婚してもこんな風に冷めた関係になるのだろう。
たかが2年、去れど2年。私と彼は高揚感たっぷりな時期を超えて、普通になってしまった。倦怠期ってやつなのかな。
一緒に暮らす前は、同棲がこれ程神経を擦り減らす物だとは思わなかった。
最初の頃は彼を恐怖と思うほど、彼の前では上手く話せなかったし、必死に女らしくしていようとしていた。ああ、慣れって怖い。私は彼に慣れ過ぎた。
・・・子供でも出来れば、私も彼も変わるのだろうか?2年前に戻れるのかな。

(潮時?)

まさか!嫌いになったわけではないし誰よりも信頼している。情がありすぎて、もし別れたら私は立ち直れない。

(何か起こって、・・・だけど何も起こらないで)

そんな矢先だった。
何時も通り、大した会話も無い朝食時はカチャカチャと食器の鳴る音だけが響いていた。

「・・・なあ」

「ん?」

味噌汁を啜りながら、ちらりと視線を合わせてあげる。大抵彼から会話を持ちかけてくるのは、来週出張だからとか、今夜会社の同僚がうちに来るからとか。そんな事。
小十郎は新聞を机に置き、箸も置く。

「なに?」

「今夜、少し話がある・・・」

「今夜?ごめん今日は遅番だから帰るの遅くなる」

「・・・そうか。なら今度でいいんだ」

「?」

小十郎はもう行くと、鞄を抱えてさっさと出て行ってしまった。
・・・話ってなんだろう。嫌な予感が胸を過る。もしかして、別れ話?こんな唐突に?

(・・・・・・)

胸がざわざわと騒ぐわりには、意外と私の頭の中は冷静だった。
今夜デートにでも誘ってくれる気だったのかも。ここ半年はまともにデートしてなかったし、クリスマスも正月も仕事で予定が合わなかった。
ほら、私の頭の中は意外と冷静だ。小十郎が別れようなんて、言うわけがない。
彼の事、この同棲生活の中で沢山知った。だから彼が何を考えて居るかなんて、次にどんな行動を起こすかなんて、私は簡単に予想できてしまう。
ざわざわと騒ぐ心臓が次第に冷めて行く。きっと私の考え過ぎだ、気楽にそう思える位、私は彼に慣れてしまっていた。

「さて、洗濯物でもやっとこうかなっ」

私は食器を片付け、洗濯籠を持ってベランダへ出た。よかった、今日は晴れてる。
青く晴れた空には、真っ白なタオルが良く似合う。小十郎の下着を適当に広げて洗濯バサミに吊り下げる。
そう言えば、一緒に暮らし始めたばかりの頃は彼の下着を洗う度に一人で照れていたっけな。

(私は)

あと何回洗濯物を干せば、何枚洗濯物を畳めばこのもやもやとした気持ちが晴れるんだろう。この泥沼の様な日々から抜け出せるんだろう。
洗濯は永遠に終わらない。そんな人生だってわかっているけど、なんか嫌だ。
青い空に白いタオルがフワフワとなびく。有り触れた日常風景に、何故か感傷的になって鼻の奥がツン、と痛んだ。