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心臓がバクンバクン言ってる。何故って、今、私は、なんと志波君と同じ教室にいるのだ!

「はあ〜補習めんどいなあ〜」

「そうだね。あ、ハリーがいるよ!」

「ハリーはいつも赤点やで!」

ハリーを見つけると、はるひのテンションが上がった。はるひも補習の常連らしく、なんだか慣れた様子。
放課後、指定された教室で補習が行われる。教室には様々なクラスのおバカさん達が入ってくる。
私とはるひは一番後ろの席に座る事が出来た。一番前の席には、志波君とハリーの姿。

(わーい。志波君の背中見ながら出来る!)

志波君は背が高いので、間に他の子が座っても頭一つ分飛び出していた。ああ、幸せ!同じ空間にいれるだけで、私もう幸せ!

「はーい、補習を始めますよ。各教科のプリントをやって出来た人から帰って結構です。教科書を見ても結構。終わったら職員室へ提出に来て下さい」

先生は始まって10分もしない内に、教室から出て行ってしまった。一番最後の人は電気を消して帰るように、だってさ。

(志波君が終わる時、私も終わろうかな)

教科書を見てもいいので、他の子達は始まって20分もすると、徐々に教室を出て行った。
前をチラリと見ると、志波君はまだペンを動かしている。私は志波君と提出が被るように、先にプリントを終わらせようと必死に教科書をめくって公式を探す。

「なあー名前。ここの問題答えわかる?」

「あ、ここは多分ね」

様々なクラスの子達が集まっているせいか、比較的教室は静かだ。時々誰かの笑い声や、はるひの声。

「おい、志波あー終わったか?」

「?!」

耳が志波と言う名を素早く拾う。え、志波君終わったの?!待って、まだ終わらないの!
前を見ると、ハリーが志波君の机に縺れかかり、プリントをヒラヒラと振っていた。ってかハリー終わったの?!早いよ!

「終わったのか、針谷」

「こんなんテキトーでいいんだっつーの」

「・・・こりゃ酷いな」

「この後バイトなんだよ、俺もう行かねーと」

志波君はハリーのプリントへ視線を移すと、呆れたように溜息を吐いた。どんだけ適当に答え書いたんだろう、ハリー。
すると横に座るはるひのペンが、急にスラスラと動きだした。・・・どうやら、はるひも私と同じ事を考えてたみたい。

「名前!」

「うん。わかってるよ、私まだ終わらないから先帰っていいよ。バイバーイ」

「悪いな!ほなな!」

ハリーが教室から出て行くと、はるひは慌てて教科書やペンケースを片付けた。はるひも答えをテキトーに書いたみたい。
はるひは走ってハリーの後を追いかけた。廊下から「ハリー!一緒に出しに行かん?」「おういいぜ」とはるひとハリーの声。二人の声は廊下に響いて、遠ざかった。

(・・・・・)

志波君がまた、ペンを動かしだした。私も釣られてペンを動かす。あと、2問。
静かな教室に、時計の針の音がやけに大きく聞こえた。

(よし、終わった!志波君は・・・)

前を見ると、志波君はまだプリントと格闘中のようだ。教室からどんどん人が居なくなる。
あー。志波君の背中ってやっぱり広いな、カッコいいな。私は今、とても幸福な時間を噛みしめていた。

(・・・・・)

志波君、まだ終わらないのかな?もうそろそろ帰りたいんだけどな・・・。
教室には目を突き刺すような、オレンジ色の夕日が射しこんでいた。気付くと、教室には私と志波君ともう一人の知らない生徒。

(志波君、・・・遅い)

すると、とうとう私達以外の最後の生徒が、教室を出て行ってしまった。教室には私と志波君だけ。
そう思うと心臓が奇妙なドキドキを騒ぎたてる。いつもと違う、まるで気味が悪い不安で緊張した胸のざわめき。

(志波君、まだ、終わんないの?!)

胸がきゅうきゅう苦しくなって、オレンジ色の空とピンク色の雲がやけに緊張を掻き立てる。
二人きり・・・。この空気って気まずい。紙ずれや、時計の音がやけに大きく感じる。こんな時に限って、吹奏楽はス/ターウォーズのダ/ースベーダーのテーマを奏でる。
グラウンドから、運動部の掛け声、ボールを蹴る音、ホイッスルの音、部員の笑い声。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

志波君だって気付いてるはず。二人きりしかこの教室に居ないって事。そして、一番うろの席に私が座っている事。
元クラスメイトなんだから、何か話しかけた方がいいの?無理無理!そんなの無理!緊張しちゃって上手く話せる気がしないよ。
もう帰っちゃおうかな!でも、今、私、志波君と同じ教室にいて、同じ空気を吸ってる。中毒になりそうな甘い緊張、本当は喜んでる!

(あーあ。ドラマの再放送終わっちゃうな・・・)

あ、志波君も今終わったの?私も。じゃあ一緒に提出しに行こうよ!あ、私は帰り道こっちだから、じゃあね、バイバイ!
これがあと一時間以内には起こるんだ。それだけで私は幸せで、ドキドキで、ああもう、志波君って本当に世界一カッコいいよ!
胸が潰れちゃいそうな、そんな緊張感と高鳴りがやけに幸せだった。

「・・・・・」

「・・・・・」

さっきまでオレンジ色の液体の中みたいだったのに。今では日も沈みかけ、オレンジに黒を混ぜた色がこの時間を包む
時計を見ると、針はもう6時を刺そうとしていた。・・・・遅い、遅すぎる志波君・・・。下校時刻になっちゃうよ。

―キーン!

あ、野球部、ホームラン。そう思った瞬間。

そのホームランを合図に、志波君がガタリと椅子から立ち上がった。その音がやけに大きく聞こえて、心臓が大きく跳ねた。
あ、志波君、プリント終わった・・・?ってあれ?
なんと、志波君は鞄を掴むと、教室から出て行こうとはせず、こちらへ向かってくるじゃありませんか!

(え?え?ええ?!)

長身の志波君が、こちらにズンズンと迫り来る様は、まるで壁の妖怪みたいだ。

「おい」

「え、う!はい?!」

うわ、どうしよう、話しかけて来た!どうしよう!慌てちゃ駄目だ!ボロが出る!え?何か用、志波君?そう言わなきゃ、そう言わなきゃ!
志波君が私の机に手を付いた。ひ、ひえ。

「まだ終わらないのか?もう6時だぞ」

「え」

頭がぐるぐると混乱して言葉が見つからない。プリントなら、とっくに終わってるけど!
志波君が私のプリントを覗き込んだ。え?い、いや!終わってるのばれちゃう!志波君が終わるの、待ってたってばれちゃう!

「・・・。んだよ、もう終わってるじゃないか」

「え、えっと。あの」

「バカみてえ」

すると、志波君は少しだけ頬を赤く染めて、窓の外へと視線を流した。・・・え?

「し、志波君・・・?」

「これ」

私のプリントの上に、志波君は自分のプリントを重ねる。思わず覗き込むと、志波君のプリントは、私と同じ様にすでに解答欄が字で埋まっていた。
・・・志波君も全部終わってる。えっと、これってつまり・・・・。
お互いとも、同じ事を考えていた様で。

「待ってた、お前が終わんの」
END
090420
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絶望色の続きです