短編 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 4/4

階段を下りる度、パンプスのヒールがカンカンなる。階段を降りながら携帯を開くと、インターネットには災害用掲示板がトップへ来ていた。
電話、繋がらないかも。そう考えながら、兄へ電話を発信する。
受話器からは、プッ、ツーツーツー。その後に機械的な音声が回線のパンクを伝え、災害用掲示板へメッセージを残すように勧めてくる。

(くそう。なんで・・・)

鼻を何度啜っても飲み込めない。涙が止まらない。
佐助さんが言っていた事は、どうせ最後だから、ただ寄り添っていたいだけの物。の様なのに。もしかして本心なの?と思うと、胸がキュンキュンと疼いた。
うそでしょ、ああ!私佐助さんに凄く惹かれた!・・・あの人をとても愛しいと思う。バカじゃないの!?

―カン、カン、カン!

やっと最後の一段。その出口を飛び出すと、外はビュウビュウと不安を煽る様な強い風が吹いていた。
空が白い。だけど、あたりはうす暗い。
早く、パパとママとお兄ちゃんがいる避難所に行かなきゃ。月が落ちてくる前に、最後は家族の元に帰らなきゃ。
線路沿いに走れば近道だ。2時間・・・。いや、1時間半で着いてやる!
自転車に鍵を差し込み、籠へ鞄を押し込む。片手でハンドルを握り、バランスを取りながら大通りまで自転車を押す。
もう片方の手は、何度もリダイヤルを押し、兄の携帯へ電波を飛ばし続ける。

(ああ、お願い!繋がって!)

受話器からは、ツーツーツーと、変な機械音。

「・・・・・・」

・・・私は、なんとなく後ろを振り返る。私の働いていた会社。あの5階の窓―・・・。

「・・・・・・佐助、さん」

5階の窓には、亡霊のような人影。明るい髪色の、あの人が私を見ている。

(―・・・!!)

目が合ったその時、携帯の電波が繋がった。リリリリ、と狂いそうな発信音が耳に残る。

『もしもし!?お前何処に居るんだ?!』

「・・・・・・」

―俺は迷わず、君のアドレスを聞いたよ―

君って私の事なの?こんな事が起きなくても、貴方は私をよく思ってくれたの?アドレスを交換して、仕事以外での再会を約束してくれるの?それを、信じてもいいの?!

『名前!?』

「お兄ちゃん、ごめんね」

あんな目するなんて反則じゃないか!そんな、悲しそうに、大事な物みたいに、私を見ないでよ!
私は電話を地面に落とすと、自転車を押し倒して、ビルの中へ駆け込んだ。5階まで休まずに駆け上がると、5階のフロアからコーヒーの香り。
・・・今日はなんて一日だ!

「さ、佐助さん!」

「名前ちゃんっ」

「ず、ずるいんですよ!今日だから、だと思うのに、あんな目するから!」

ゼイゼイと荒れる息を、なんとか落ち着かせようと息を大きく吸う。
すると、スーツのゴワリとした感触が頬に押しつけられた。うう、抱き締めるのも反則・・・。

「俺の彼女になってくれる?」

「・・・・・・」

「好きだよ、大好き」

「・・・私も」

全体重を、佐助さんに任せると、私の息はスウと楽になった。
恋人を側に感じながら、月にアタックされるなんて。なんか素敵かも。

「よかった、このニュース・・・今日知って」

「え?」

「じゃなかったら、会社に来ようなんて思わなかった。佐助さんに会えて、よかった」

「・・・俺も、会えて良かった・・・」

佐助さんの手の平が、首筋を撫でる。

「佐助さん・・・私」

「大丈夫。エッチしながら死ぬなんてちょっとカッコ悪いじゃん?」

「ウフフ」

佐助さんのネクタイにぐりぐりと額を押しつける。この人が私の、恋人。

「俺達。超プラトニックじゃん」

「すごいね、綺麗だよ」

窓の外が、どんどん白くなる、空気と床が小さく震えだした。

「名前ちゃん」

「ん?」

「チューしていい?」

「・・・うん!」

今日はいつもどおりに朝が始まった。だから今日も普通の一日。ただ、嬉しい事に彼氏ができました。仕事のストレスなんて、疲労なんて、吹っ飛んだ!
チラリと横目で空を見ると月が近い。

あ、空の月が、落ちた。
END
090420
10万HIT記念