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―ジリリリリリリリ!!

「うう〜・・・」

目覚ましを止めて、ベッドからゾンビの様に這い出る。ああ、朝が来ちゃった・・・。憂鬱。カーテンの隙間から見える空は白い。曇りかあ、雨、降らないといいなあ。
いつものように慣れた感覚。リズム正しい、朝の習慣。眠い頭と疲れた体。
洗面台にフラフラと入って顔を洗い、歯を磨く。

―トゥルルルルル

(?)

すると、こんな朝から珍しく、あまり使わない家の電話が鳴った。慌てて口を濯ぎ、電話の受話器を取る。

「もしもし?」

『―名前!?』

「あ、お兄ちゃん〜・・・。どうしたの」

電話の向こうは、ひとつ向こうの駅に住む実の兄からだった。兄は元々私の身を案じて、横の駅に引っ越して来たのだけど、最近・・・多分ここ1カ月は会っていなかった。
こんな朝から電話してくるなんて、ちょっと迷惑。

『なんで携帯でねーんだよ!』

「あ、ごめん。常にマナモだから・・・」

そういえば、ここ最近メール溜めてたな。返信しないと。

『バカ!だからお前はいつも抜けてるっつーか!』

兄は少し動揺しているようで、落ち着きがない。・・・どうしたと言うのだろう?もしかしてパパかママに何か・・・。

『お前、今日どうするんだ?』

「え?」

『恋人と過ごしたいなら、俺はそれでいいと思う。無理に反対はしない』

「・・・は?私、未だにフリーですが・・・」

一体何なんだ?!お兄ちゃんどうしちゃったの?

『なら一緒に避難所に行くか?俺は親父達と避難所へ行く。お前も来い』

「・・・?え?なんの事?一体何・・・?」

『名前?』

「避難所って何?」

いつもと変わらない朝。少しだけ落ち着きのない兄からの電話。普通の会話、な筈。

『お前知らないのか?今日、地球は滅びるんだぞ』

一瞬、頭の中がフリーズした。会社の古いパソコンみたいに。

『なんか月がもの凄い速さで地球に向かってるんだと、NA○Aが先週このニュース発表しただろ?』

お兄ちゃんの声は、いつもと一緒。いつもと。

『お前、テレビ見てないのか?新聞は?ラジオは?携帯のニュース位見るだろ!?』

頭をくしゃりとかく。なんだこれ、なんだこれ、今日って4月1日?

「お兄ちゃん、吐くならもっとマシなウソ吐いてよ。朝から迷惑ですよー?」

『バカ!!いいからテレビ付けろ!』

「・・・・・・」

現実味がない電話の内容に、疑心が湧く。
テレビ・・・。最近忙しくて全くテレビを見ていなかった。見たいバラエティーや音楽番組の時間は会社だし、ドラマは見ると毎週見たくなるから見ないようにしていた。
久しぶりに、テレビに火が付く。

『国会は、すみやかに自治体の指示に従い、最寄の避難所へ避難するようにと―』

(・・・・・・)

チャンネルを変えてみる。

『決して自暴自棄にはならず、強盗、殺人、空き巣、強姦などの行為に走らぬよう―』

「う、そ」

チャンネルを回しても回しても、同じニュース。アナウンサーの後ろには月が地球へ向かってくる、白黒の衛星写真の映像。
世界各地の暴動や、宗教の礼拝映像。あ、このチャンネルはもう放送しませんだって。

『分かったか?』

「・・・・・・」

仕事が忙しくて、テレビも新聞も後でいいやって遠ざけてた。まさか、うそだ。
もしかして、コンビニが閉まってたのも、会社の人が減ったのも、珍しい朝礼も・・・。

(今日も、いつもどおりの朝だったのに)

だからかも知れない。今知ったから、いつもどおりに疲れた朝を迎えたから。驚く程私は落ち着いている。
もし、このニュースを前から知っていたら、私発狂して逃げ回ってたと思う。

「お兄ちゃん・・・。私どうしたらいい?」

『・・・・・・』

胸が苦しい。静かに、胸が締め付けられる。

「お兄ちゃん、パパとママと避難するの?彼女いたよね?」

『あいつ、俺より家族と過ごすってさ』

「・・・・・・」

『避難なんてしても意味がない事は皆わかっている。だからこそ、最後だから、自分が一緒に居たいと思う奴と居ろ』

「・・・・・・お兄ちゃん」

『今日は電車動いてない。俺は親父達拾って○×市の避難所へ向かう』

「○×市・・・」

そこは私が育った町。小学生、中学生と過ごした町だ。私ったら、大学卒業したからって、大人になったって見栄張って。
自立したと思いこんで、あの町を飛び出した!

『名前、待ってるからな』

「・・・うん」

○×市は自転車を漕いで行ったら2時間はかかる。会社に近いからって、こんな町に越してこなければ。

(・・・・・・)

私にとって、今日はいつもどうりの朝なんだから。