そうだね、とマツバさんはよく言う。 それは、私よりずっとずっと大人なマツバさんが、マツバさんよりずっとずっと子どもな私をなぐさめるようなときに。 そうしてたくさんの楽しいこと、たくさんの悲しいことを乗り越えてきた微笑みを口元にうっすら浮かべて、マツバさんは今日もまた、そう言った。 自然公園のベンチの上に広がる空はばかばかしいくらい青くって、マツバさんの金色の髪は、ほとんど淡くてよくわからない色にしか見えない。 マツバさんの味方は夜で、月だ。太陽のエネルギーは強すぎる気がする。 「なまえちゃんは、太陽みたいだね」 「…私が、ですか?」 「そう。だから、昼がいちばん似合うんだね」 そう言って青空の下、マツバさんは私をまぶしそうに目を細めて見るけど、もしそうなら、私はマツバさんには合わないってことになるのかもしれない…。 「…どうしたの?」 「マツバさんは、…夜が似合いますよね」 「よく言われるなぁ、それ。ジムが暗いからかな?」 「ちがいますよ、マツバさんの髪が、月明かりにあたるときれいだから…」 もちろん太陽にあたって、風に吹かれてる今も、息を呑んでしまうくらいきれいだけど。私がそれに見とれてることなんか知らずに、マツバさんは苦笑する。大人だけに許された笑い方だ。 「太陽には合わない?」 「あ、いえ…そういうわけじゃ」 「でも僕は、月よりも太陽のほうがすきなんだけどな」 「そうなんですか?」 初耳でびっくりして聞き返したら、マツバさんはなぜかうれしそうにうなずく。 「好みと似合うものって、やっぱりなかなか合わないね。なまえちゃんは、月と太陽、どっちがすき?」 「…月です」 「やっぱり」 そういいながらマツバさんはさらにうれしそうに笑う。あの大人っぽい、どこか淋しそうな笑みじゃなくて、もっとあけすけな笑顔。 「いいよね」 「えっ、何がですか…?」 「まだ、こういうのも」 こういうの…?マツバさんって公園すきなのかな…初めて知ったかもしれない。 初めてマツバさんが大人じゃなく子どもみたいに無邪気に笑うから、私もうれしくて、それならばとすこし大人ぶってマツバさんより先にベンチを立ち上がった。 「…じゃあ、また来ませんか?」 「…そうだね」 立ち上がったマツバさんは、やっぱりなぜか苦笑していた。 日常コントラスト
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