novel | ナノ

ここ最近ずっと秋雨が続いてて、ようやくぽっかりと晴れた、あったかい日差しの降る秋の午後。

久しぶりの晴れ間がうれしくて、相棒のスバメと一緒にちょっとコガネまで買い物に出てきた。

ずっと昔、お父さんがホウエンまで出張してきた帰りにつれてきてくれた小さな相棒は、買い物を終えてくたびれたのか、日差しを気持ちよさそうに浴びながら、肩でうつらうつらしている。

抱えた紙袋の重みが心地いい。中には切らしていたお気に入りのラズベリージャムをはじめ、美味しそうなオレンジと黄金色のりんごジュース、焼きたてのクロワッサンなどなど、それからスバメ用のちいさな止まり木も入ってる。

いつ行っても人でごったがえしてる百貨店を出たら日はすこし傾いていて、蒸発していく水分を含んだ、涼しい風がさらりと私たちを撫でた。


「なまえちゃん」
「…あ、マツバさん!」
「買い物?」
「はい、ちょっとスバメと一緒に」


リニアの架線下でばったりと出くわしたマツバさんは、私の肩で寝ているスバメを見て、ふんわりと笑った。

コガネシティを抜け、自然公園に向けて、私たちはゆっくり歩いた。途中、顔馴染みのマイクさんたちは手を振りながら、マツバさんのすこし後ろを歩く私を不思議そうに見る。

あぁ、今度の電話ではいつも以上に質問攻めなんだろうなぁなんて心の中で苦笑しながらも、缶詰めだった家から出たその日にマツバさんに会えたことが、私には何よりもうれしいんだ。

自然公園の色づいた葉っぱをさくさく踏みしめながら、こちらを振り返りはしないけど私の歩調にそれとなく合わせてくれるマツバさんの髪も、きれいな色に輝いている。

それをぼんやり見るとでもなく見つめていたら、急に振り返ったマツバさんとばっちり目が合ってしまった。

内心どきまぎする私なんか気付いてないみたいに、マツバさんはやさしい笑顔で口を開く。数日ぶりのマツバさんはなんだか、私の心臓をとても切なくさせる。


「やっと晴れたね」
「そう、ですね」
「…なまえちゃんは、たとえば昨日までみたいに雨の日が続いたら何をするの?」
「えぇっと…寝てました」
「…寝てたの?」


私の情けない生活にも、本当に純粋に驚いた顔をするマツバさん。


「はい。…スバメと、ご飯食べて、寝てました。…外に出れないから」
「雨は嫌いなんだね」
「秋の雨は、冷たいから…」


答えながら、また歩きだすマツバさんに従う。今度は話しながらだから、自然と隣に並ぶ。


「たしかに僕も、冷たい雨はあんまり好きじゃないな」
「やっぱり、」


そうですよね、と私が続ける前に、横からのびてきた手が、私の抱えた紙袋をいとも簡単に奪っていく。


「……あ、」
「でも、雨上がりは冷たい雨のほうが気持ちがいいかもしれないよ」


重たいものばかり買ったのに、マツバさんはそれを片手で軽々と持つ。
林道の水気をたっぷり含んだすこし寒いくらいの空気が、マツバさんにすごく合ってる気がした。


「マツバさん、それ」
「それ?」
「その、私の紙袋…」
「ああ、これか」
「私、持ちます」
「持ちたいの?」


横目で私を見るマツバさんにうなずけば、マツバさんは何がおかしいのかくすりと小さく笑う。

肩で、まどろみから覚めたらしいスバメがひゅうっと飛び去って、ようやくエンジュまで帰ってきてたことに気がついた。


「なまえちゃんの家は、こっち?」
「あ、いいですよここまでで…マツバさん?」
「きみのスバメが案内してくれるみたいだし、ついていってみようかな」
「でも」
「なまえちゃんが迷惑なら、やめるけど」


あくまでもやさしいことばを、会うたびにマツバさんはいつも私に向けてくれる。


「……迷惑な、はずがないです、けど」
「なまえちゃん、僕はね、したくないことは申し出たりしないよ」


もちろん断られたって付きまとったりしないからだいじょうぶだよ、なんていうマツバさんは、別名のとおり、なんでもお見通しみたい。

スバメに導かれるマツバさんの、ずっと高い位置にある薄い金髪が、日に透けてきらきら光る。



(付きまとわれても嫌じゃない、なんて)(私がヘンタイみたい…)
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