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※学パロ


ヒビキが振り返った。

あの超が付くほど真面目で、義務教育が始まってから今にいたるまで一度だって居眠りしたことのないあのヒビキが、授業中に…!

ぎょっとして、私は斜めふたつ前の幼なじみを見つめた。

私の真左にある窓からはあったかい太陽が降り注いで、ご飯のあとの古典は絶好のお昼寝タイムだからか、すでにそこここに机に突っ伏している人が多い。起きているのはこそこそと話をしてる人だけだから、この異常事態に気づいてるのは私だけみたい。

先生は何か喋りながら板書の真っ最中であられた……なんというタイミング!


なまえ


ヒビキは口パクで私を呼んだ。さらに目を丸くする私におかしそうに、声を出さずに笑ったヒビキは、ちらりと先生の様子を見てから、またこちらを見る。


なに?
なまえ、目が落っこちそうだよ。


口パクの会話を交わしながら、まだおかしそうにくちびるを歪めるヒビキがなんだか格好良くて、いつ先生が振り返るかわからないのがまたスリリングで、ばかみたいに心臓がばくばくする。


落ちるわけないじゃん!


ヒビキは首をかしげる。あまり長い言葉だと、口パクでは伝わらないみたいで、それがもどかしい気がした。


なにかあったの?
なにかって?
授業は?


また首をかしげるヒビキに、ひょいひょいと前を指し示してみせたらぎょっとしたように先生を振り返り、まだ板書してる先生をみとめてがっくり肩を落とした。

一連の流れがおかしくて、ついつい声を押し殺して笑ってしまう。

こっちに振り返ったヒビキが、若干赤くなった顔でむすっと私をにらんだ。ぜんっぜん怖くないんだけど…。


なにわらってるの
ごめん、つい
なまえのせいだよ
ごめんってば


顔の前で両手をあわせて謝ってみたら、ヒビキは肩をすくめた。


なまえって……よね
えっ?
だから、なまえって……


今度は私が読み取れなくて、首をかしげる番。だって長文なんだもん、と思いながら、またむすっとしてしまったヒビキにもう一回、と人差し指を上げたところで、先生がトーンを上げた。

やばいって顔をしたヒビキがあわてて前を向き、私も、いつもなら机に突っ伏していて当てられるのには慣れてるから、ぜんぜん動揺なんてしないはず、…はずなのに焦って席に座りなおしてしまう。

あ、まずいと思ったときには当てられていた。あわてて席を立ち、言われたところを音読する。

つっかえたり間違えたりするたびに、斜めふたつ前の肩が小さく震えるのが、いつもなら癪なのに……今日はなんだか、さっきまでのスリルのせいで…おかしい。仲間意識?

最後の一行を読み終えて私が座り、先生が黒板に向かったとき、またヒビキがこちらを振り返った。

いたずらっ子みたいな、滅多に見せない表情にどっきりしたなんて、…絶対に言わない。

授業が終わったらさっき何て言ってたのか聞こうと決めて、私はシャーペンを構えた。
101210

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