novel | ナノ

秋っていいよな、とユウキくんが言ったから、私はきれいな赤い葉っぱを探してた目をユウキくんに戻した。

一面に敷かれた落ち葉を軽く蹴散らすようにしてゆっくり歩きながら、ユウキくんはまだ足元に視線を落としている。なんだか子どもみたい。


「…ユウキくんは秋がすきなの?」
「まあ、嫌いじゃない…かな」
「あ、わかった!あれでしょ、食欲の秋!」
「…あのな〜…」



それはなまえだろ、と呆れたように言ったユウキくんが、ようやく顔を上げて私を見て、笑う。何か、からかうようなときの笑顔だ。


「お前の頭んなかって、そういうことしか入ってないのかよ?」
「そういうこと?」
「今日の夕飯なんだろうとか、」
「なっ、私そんなに食べもののことばっかりなんて」
「このへんの落ち葉で焼き芋やりたいとか」
「……」
「やっぱり図星か」


あ、いいかも、と一瞬だけ思った私をみとめて、ユウキくんは可笑しそうににやにやしながら私から目を逸らして、前方に向き直る。

秋にしては冷たい風が吹いて、足元の葉っぱが一斉に飛んでいった。してやられたことがくやしくて、ちょっと歩みを早めたユウキくんの後を小走りで追いかける。


「じゃあそういうユウキくんは、なんで秋が好きなの?」
「あのさ、オレはっきり好きとは言ってないから」
「えっ、言ったじゃん」
「言ってないって。ただ、秋っていいよな、って言っただけ」


似たようなものじゃないの?と首をかしげる私を横目で見て、ユウキくんは肩をすくめる。手はポケットに入れたままで、きっと私の手よりもずっとあったかいんだろう。


「…なまえは?」
「え、私?」
「秋、好きじゃないのか?」
「べつに…嫌いじゃないけど」
「真似してどうするんだよ」
「真似なんかしてないよ」
「……あ」


大人みたいに笑ったユウキくんが急に立ち止まって、私も立ち止まった。どうしたのかと思うまもなく、かがんで何かを拾ったユウキくんが顔を上げる。


「なまえ、ほら」


さっきまでポケットに入ってたユウキくんの手が、真っ赤な炎みたいな色の葉っぱや黄色い葉っぱを数枚、拾い上げていた。ちょうど、さっきまで私が探してたような葉っぱ。

冷たい風がまた吹いて、ユウキくんは寒そうに目を細めて私を見た。


「もったいないと思うけど?」
「…えっ!?」
「こういうの、燃やしちゃうのはさ。もったいなくないか?」


ユウキくんはその葉っぱを宙に放った。弱い日差しに、はらはらと秋が光る。鮮やかな赤、黄色、オレンジ。


「……。うん、そうだね」
「な、やっぱり好きなんだろ、秋」
「……うん」
「最初から認めればいいのにさ」


私の手を、葉っぱを手放して笑ったユウキくんの手がつかむ。

風にさらされたはずのユウキくんの手は、まだ十分にあったかい。


「氷みたいじゃん、お前の手」
「…ユウキくんのがあったかすぎるんだよ」
「葉っぱみたいに真っ赤な顔して、寒いくせによく言うよ」
「赤くなんかないってば」
「ふぅん…まぁいいや」


本当は私の顔は熱くて赤くなってるんだけど、そしてそれは確実にユウキくんのせいなんだけど、そのまま歩きだしたユウキくんが気づかないならまあいいかな、と思う。





……Thanks;xx
一部大幅修正
101118
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