novel | ナノ

ざあざあと雨は降っていて、額にはりついた前髪から伝う雫が気持ち悪い。

はじめて着たふんわりしたチュニックも、チェックのミニスカートも、合わせたレギンスやパンプスだって、何から何までびちょびちょだ。


「…なまえ、大丈夫か?」
「ユウキくんは?」
「オレは男だから平気」


夕立に男も女もないと思うのに、ふたりで逃げ込んだおおきな木の下で、ユウキくんはいつもみたいに笑う。

ユウキくんのシャツもびっしょり濡れてたし、髪の毛も水気をたっぷり含んですこし色が変わってるのに、ちっとも気にしてないどころか、どこか気持ちよさそう。


「男は雨に強いの…?」
「強いっていうか…オレは慣れてるし」
「雨に?」
「濡れるのに。暑いときなんか、わざと頭から水かぶったりするからさ」


わかる?とユウキくんは聞く。やっぱり気持ちがいいのは間違いじゃなかったみたいで、それがユウキくんらしくて、思わず笑ってしまった。

相変わらず上から下までぐっしょりで、持ってきたタオルも濡れてしまってて、状況からしたら最悪なはずなのに、さっきまでの不快感はもうなかった。

雨は、私とユウキくんだけを降り込める。今だけは、私は文字どおりふたりきりの世界にいるんだ。


「…なんか、ごめんな」
「どうして?」
「いや…まさか降るとは思ってなかったけど」


オレ雨男なのかもしれないんだよ、とすこし困ったみたいに首の後ろに手をやって、ユウキくんは空を仰ぐ。


「かもしれない、って?」
「そうは思いたくないし確証もないけど、可能性はでかい、ってこと」


ユウキくんは今度は、あっという間に水たまりのできた地面を見て、ため息を吐く。私は代わりに空を見上げた。


「でもユウキくんは、雨、嫌いじゃないんでしょ?」
「まあね」
「じゃあ、いいんじゃないの?雨男でも」
「でも、…ふつうならみんな嫌がるだろ」


言いながらユウキくんは、濡れていつもとはちがう髪型がうっとうしいのか、トレードマークのヘアバンドを外してしまう。

拍子に乱れた髪が気になって思わず手を伸ばしたら、ユウキくんがこちらを向いた。ばっちりと目が合ってしまって、私は、私たちは動きを止めた。

ちいさな雨の音にまじってどくん、どくん、と響くのが私の心臓の音なのか、それともこの世界にいるもうひとりのものなのかな…。

ぽちゃん、と頭上から雨粒が降ってきて、まばたきをした私はわけもなく焦った。


「……、私は雨、嫌いじゃないよ」
「……ふぅん」


あわてて顔をそらしたのに心臓はなんだかおさまりようもなくて、また空を見上げながら、私はつめたくなった両手を組みながら考えた。

雨が嫌いじゃないユウキくんが笑うと、私も笑ってしまうくらいには、私も雨がすきなんだ。ユウキくんが隣にいてくれれば。

…こんなこと、絶対に言えないけど。


「やっぱりなまえって、変わってるよな」
「ユウキくんだってそうじゃん」
「そうだけどさ。あんまりいないだろ」
「たしかにそうだけど…」


うなずいたら、ユウキくんは急に笑いだした。何がおかしいんだかわからないけど、だんだん私も笑いたくなってしまった。

Thanks;rim
101106

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