novel | ナノ

私とユウキくんの仲は何なんだって、最近、いろんなひとによく聞かれる気がする。

それはたとえば、カナズミシティのトレーナーズスクールに通ってる仲のいい同い年の友達にだったり、フラワーショップの頼れる年上のお姉さんにだったり、勝手にライバル意識燃やしてくる鳥使いの男の子にだったり、はたまた…かの有名なオダマキ博士に、…だったり。

そういうときいつも、私は同じように答えてた。ただのお隣さんで、友達だよって。その答えを、なんにも気にしたことなんかなかった。


「ユウキ先輩!」
「……オレ?」


ワカシャモのトレーニングの帰りに、いつもみたいに偶然出会ったユウキくんと、軽口を叩きながらポケモンセンターまで帰る道すがら。

ひとりの見慣れない女の子が駆け寄ってきて、私たちは話を中断した。振り返ったユウキくんの銀髪だけが、私の目に映る。


「ああ、お前たしかカナズミの…」
「ユウキ先輩、すきです…!」


度胆をぬかれた。私も、もちろん遮られたユウキくんもだと思う。

だってここ道ばただし、人通りだって、…いや人通りはまだないけど、でもだって、とにかくそんな告白するような場所じゃない。

それに第一、ここに私っていう邪魔者がいる。


「な、何言ってんだよ」
「追いかけてきたんです!私、あのとき助けていただいてからずっと、あなたのことが忘れられなくて…」


彼女は思い出話と自分の思いをとうとうと語りはじめた。度胆をぬかれたのは最初だけだった。

その強い透明な気持ちに虚をつかれて、ユウキくんはともかく、私はいたたまれなくなる。ユウキくんの影でひたすらにうつむいてるのも心苦しい。盗み聞きしてるみたいで。


「…おまえ本当に、オレのことすきなの?」


それになんだか…なんでだろう、よくわからないけど、すごく嫌だった。 悔しい?ちがう、じゃあ悲しい?それもちがう。

とにかく嫌で、顔は見えないけどユウキくんのすこし照れたような声も、ちいさくてかわいい女の子の、甘えるような声も、急にいきいきと色づいて見えてくる、あたりの風景も。嫌で、嫌で。


「…わ、私、先に帰るね、バイバイ!」


ついにその場から逃げ出した。帰るねっていいながら、ヒワマキシティとは真逆の方向に。我ながら、バカ。

走って走って、みずたまりに気づかずにばしゃんと跳ね返した。しみ込んで冷たくなるランニングシューズも気にならないくらいに動揺してる私に、さらに動揺する。

友達に彼女ができるくらい、どうってことない。トレーナーズスクールで、ユウキくんとの仲を聞いてきた友達だってみんな、彼氏あるいは彼女持ちの子ばっかりだ。

むしろ、みんなしあわせそうでうれしいのに。なんでユウキくんのしあわせは喜んであげられないの、私…。

こんなの、変だ。 息が切れてきて、ついに私は足を止めた。いつの間にかぼやけてた視界に、なんだか黒い影が映る。

風が冷たかったのか、なぜかあふれてた涙を拭ってみれば、それは野生のアブソルだった。災いをもたらすという…。災い?災いってもしかして、このことかな。それとも私自身のこと?

アブソルはすこし離れた草むらから、赤い赤い瞳でじっと私を見る。魅入られそうになる。


「…ばかやろう!なにやってんだよ!」
「え、な、なに」
「ヌマクロー、みずでっぽう!」


ユウキくんが投げたボールから出てきたヌマクローがみずでっぽうを放つけど、アブソルはそれをひらりと避けて、走り去ってしまった。


「…やっぱり向こうのすばやさが高かったな」


つぶやいたユウキくんは、ヌマクローをボールに戻すとあらためて、と言うように私を見た。辺りは薄暗くなりかけてて、もう町に戻らないと野宿になってしまうのに。

なんでユウキくんが、ここに…?


「おまえな、アブソルが災いポケモンってことくらい、知ってるだろ!」


ぼーっとユウキくんを見ていたら、突然怒られた。それも、すごい剣幕で。一気に我に返った。


「し、知ってたけど、でも」
「でも、じゃない。知ってたならなんで身を守ろうとしないんだよ!」
「ご、ごめん…」


圧倒されて思わずひるんだら、それに気づいたようにユウキくんは怒鳴るのをやめる。やめたけど、でもまだ怒ってるみたいで口はへのじのまま、じっと見つめてくるからたまらない。

ユウキくんに怒鳴られてびっくりしたからか、走ったからか、まだどくどくいってる心臓を隠すようにうつむいた。あれ、ユウキくんのランニングシューズも、私と同じくらい泥だらけ…。


「……。帰るか」
「え?」
「日が暮れるとやっかいだろ」


言葉遣いはぶっきらぼうで、でもすこし機嫌が直ったみたいなユウキくんは、私の返事も聞かずにさっさと歩きだす。

大きなリュックをあわてて追いかけたらユウキくんはすこし歩調をゆるめてくれて、私が隣にならぶと突然、また口を開いた。


「…さっきの、さ」


どきりとした。まさかユウキくんから切り出してくるとは思わなくて。どうしよう、まだ覚悟が決まってないのに。


「……うん」
「断ったから」


どんどん苦しくなる肺をがんばって使って、こっそり息を吸って、……吐きだした。


「……は!?」
「はってなんだよ」
「え、だ、だって…えぇ!?」


流れとしては、付き合うんだって言うのかと思ったのに。だって、だいたい付き合わないんだとしたらなんで、私に。


「…おまえ途中まで聞いてたし、後味悪いから一応言っとこうと思ったんだよ」


ユウキくんはそっぽ向いたままだったけど、私が思ってることがわかったらしい。

月明かりを受けるユウキくんの銀髪がきらきらかがやいて、私の心臓は大げさなくらい大きく脈打つ。



(本当はオレにだって)(好きなやつくらいいる)


Thanks;逃避行
Happy Halloween 2010!

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