novel | ナノ

※もしRSの女の子が、引っ越してきてすぐ町を出てなかったら、という捏造設定。

私は一人っ子だったから、引っ越してよかったのかもしれない。

もちろん住み慣れた土地を離れるのも、親しんだ友達とさよならするのもすごくつらかったんだけど、こう思えるのはたぶん、お隣に同年代の男の子がいたからだと、思う。


「なまえはさ、」
「?」
「ジョウトのポケモン、よく知ってんの?」


うちの食卓で、つるつるとラーメンをすすりながら尋ねられた問いに、私はそうめんをすすりながら首をかしげた。

ユウキくんはこうしてよく、うちにやってきては私に質問を投げ掛けていく。それが今日みたいにお昼ならお昼ご飯を、三時ならおやつを、夕方なら夕ご飯を一緒に食べながら。

お母さんももうそれに慣れてしまって、あらかじめご飯を一人分、多く用意するようになっていた。

だからよかったのかもって思う。向こうにいた頃、男の子とこうして話すことなんて滅多になかったから。ユウキくんのおかげで、私の男の子に対する恐怖感は治ったんだ。


「知らない、わけじゃないと思うけど…」


私は言葉を濁す。ジョウトのポケモンを知らないわけじゃないと思う。思うけど、如何せん私はホウエンのポケモンを知らないから、何をもってジョウトのポケモンとするか分からない。


「例えばどんなのがいた?」
「例えば…コラッタとか…ポッポとか」
「ポッポ?」
「うん。あと、マダツボミ」


私がうなずくと、どんぶりから顔を上げないまま、ユウキくんはふぅん、とつぶやいた。聞いたくせに反応が悪い。それもいつものことだけど。


「…全然、知らないな」
「え、」


ユウキくんが知らないとは思ってなかった。たしかにこの辺に来てからは、朝にポッポの鳴き声も聞かないし、コラッタが走る姿も見ない気がするけど…。

でも博士の息子さんだから、知識としては知ってるのかと思ってた。びっくりしてたら、私の反応が気になったのか、ユウキくんが顔を上げた。なんだか憮然としてる。


「なんだよ」
「めずらしいなぁって、思って…」
「なんだか失礼な言い方だな。オレだって全知全能じゃないんだよ」


悪いか、とかつぶやいて、また視線を落としてしまったユウキくんのラーメンはもう、ゆらゆらとスープだけが湯気を発している。


「ユウキくん、食べるの早いね」
「なまえが遅いんだろ」
「そんなことないと思うけど…」
「遅いんだよ、おまえが」


勝手に決め付けて、ユウキくんはがたり、と席を立つ。私がそうめんを口に運びながら目で追えば、ユウキくんはきれいに食べ切ったラーメンどんぶりをそっと流しに置いて、突然私を見るものだから、ばっちり目が合ってしまった。

別に、話すときだっていつも目は合っているはずなんだけど、……なんだか恥ずかしくてあわてて目を逸した。

私が恥ずかしさのあまり、そうめんに躍起になってるように見せかけようとしてる間に、もう一度正面に座りなおしたユウキくんは、おもむろにまた口を開いた。


「……なまえ」
「ん、何??」
「そういえばさ、おまえまだポケモン持ってないんだっけ?」
「うん、そうだけど…」
「オレが捕まえてやろうか?」


びっくりして、私はそうめんを食べるのをやめて前を見た。少し目の泳いでるユウキくんにますます混乱する。


「何で…」
「何でって……。…あれだよ、おまえにホウエン地方のポケモンを見せてやろうと思ってさ」


ようやく定まったらしい目を私に向けて、今度ははっきりと、ユウキくんは続ける。


「そのポッポってやつよりずっと強いやつを絶対見つけて、一番におまえにやるよ」


オレ結構いろんなとこ行くからさ、とユウキくんは付け加えるように言って、さらに。


「…だから、オレ以外の誰からも、最初のポケモンは受け取るなよ」


な?と答えを促すユウキくんの、少し真面目な眼差しに呆気にとられてた私は、あわてて首を振るしかなかった。

もちろん、縦に。


「じゃあ、約束な」


満足気にユウキくんは私に念押しして、なんだかやけにさっさと家を出ていった。残されたのはつゆを吸いすぎたそうめんと、どきどきと早鐘を打つ心臓を埋め込まれたまま硬直した私だけ。







(結局私は町を出れない)





……相互記念に、田所さまに捧げたものです(^^)


最初の頃、ちょっと先輩ぶってるユウキくんが、はじめの頃こそムカつきましたが、今になってみると可愛い…という(問題アリな)出来心から生まれました←
ユウキくんにはじめのポケモン捕まえてほしかったなぁ…(ごめん博士)

なんだかまた無駄にぬるいものができました…
田所さま、相互ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -