novel | ナノ

※学パロ


はじまりは本当に偶然だった。

3日連続で寝坊したのも偶然だし、だから3日連続で飲み物を買うはめになったのだって、偶然だし。

だから3日連続で、学食の自動販売機の列がダイゴ先輩の前になったのだって偶然だ。

それに一昨日、おつりを取り忘れちゃって、それに気付いたダイゴ先輩が教えてくれたのだって偶然だし、昨日、財布を開けてからお金がないことに気付いたのだって、それを見ていたダイゴ先輩が、


『どうしたの?きみ、昨日の子だよね』
『あ、…すみません、今日は私諦めま』
『もしかしてお金、ないの?』
『………はい』
『いくら足りないの?』
『100円です…実は65円しか残ってなくて』
『はい、これ。よかったら、使って』
『! ありがとうございます!ちゃんとお返しします』
『いいよ、100円くらい』
『だめです!100円は十分高額なんですよ!!!』
『そうか…そうだね』


そう言ってくすくす笑いながら、ぴかぴかひかる100円を貸してくれたのだって、すべてすべて、単なる偶然だ。

だからつまり何を言いたいのかといえば。

昔から2度あることは3度あるっていうし、だから3度あることは4度目もきっとあるわけで、4日連続で自販機の列でダイゴ先輩に会ったのだって、偶然なんだ。

……ここまでくるともうだれも信じてくれないのかもしれないけど…。だって事実、うれしいのはうそじゃないんだ。


「……あれ?きみは…」
「あ、こんにちは!あの、昨日の…」
「うん。昨日の100円の子だね」
「…100円の子…?」
「いや、こっちの話。どうかした?」
「あの、100円、お返ししようと思って」


ダイゴ先輩の中で『昨日の子』から『100円の子』に変化したらしい私があわてて開いたお財布には、きらりと光る100円玉が3枚、500円玉が1枚、あとは10円やら5円やらがじゃらじゃら。

学生のお財布ってだいたいこんなものだと思うけど、それを見ていたダイゴ先輩は何やらくすりと笑った。


「昨日はありがとうございま…どうしたんですか?」
「いや、じゃらじゃらしてるなぁと思って」
「そ、そうですか?」
「ああ、悪い意味じゃないよ。ただ、可愛いなぁって」
「……!?」


まだおかしそうにゆがめたままの口から放たれたことばに、私は思わず、昨日くずした100円玉を手に固まる。

一方で頭のなかではすこし納得した。あぁなるほど、こんなんだからダイゴ先輩ってモテモテで噂の絶えないひとなんだなって。

もちろんルックス、スタイル、大会社の御曹司だっていう要因もあるだろうけど、その上でこんなセリフを平気で口にするんだから、うぶな女の子は一溜まりもない。

何が可愛い…んだかわからないけど、その単語自体にかぁぁ、と頭に血が上るのを自覚した。ざわざわとうるさい食堂の一角、自販機の列はいつの間にかどんどん進んでいて、もう次は私の番。


「いちごみるく、だっけ?」
「え、あ!先輩、私が自分で」
「一気に買っちゃったほうが早いから」


そういいながら先輩の長い指が、私がいつも押すボタンに触れる。がこんという音に続けて、もうひとつ。

私があわててそれを取り出してる間に、先輩はじゃらじゃらと出てくるおつりを取り出す。いつもいちごみるくを買っていることを知られていたんだと思うと、なんだか恥ずかしい。先輩が買ったのは、ブラックコーヒーの黒い缶。


「……すみません。あの、220円…」
「昨日の100円だけでいいよ。今日の分は、僕のおごり」
「えぇ!?どうしてですか」


ダイゴ先輩は私の手から黒い缶だけを受け取り、差し出した手から、銀色ににぶく光るコインをつまみ上げた。軽く触れるぬくもりに、思わず震えた手に気付かれたか不安になったけど、ダイゴ先輩は表情を変えなかった。


「その代わりなんだけど、今日の分のお金で明日も買いにおいでよ、いちごみるく」
「え、それは、どういう…」
「明日もこの時間に、ここに買いに来てくれればいいんだ。悪い取り引きじゃないだろう?いちごみるくちゃん」


ついに『いちごみるく』にまで変化したらしい私に、ダイゴ先輩があまりにきれいに笑いかけるから、私はうなずくしかなかった。

……やっぱりダイゴ先輩が女子に人気なのって、きっと、こうやってむやみに期待を持たせるのが上手だからだ。



(握り締めたら音を立てた)

Thanks;rim
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