学パロ かたん、とドアレールを踏む音がして、いつのまにやらぼんやりしてた私の意識が浮上する。 夕焼けに染まる窓の外にやっていた視線をめぐらせたら、ちょうど教室に入ってきたレッドくんとぱちりと目が合った。それに気がついたとたんに、はっきりと目が覚める。 どきり、と心臓が跳ねた。 「あ…レッドくん」 「……なにしてるの」 隣の席になってから話すようになったレッドくんは、基本的に自分からはあまり喋らない。 今回も、私が呼びかけてようやく口を開いてくれた。決して大きくはない、だけど静かでよく通るテノールが、私の鼓膜を揺らし、骨を響かせる。きれいな声だなって、実はこっそり思ってたりするんだけど。 「んー、友達待ってるの」 「…部活?」 「うん。私は今日休みだから…」 机の間を縫ってこちらに近づいてくるレッドくんから、私は窓の外に視線を戻す。グラウンドは今日、サッカー部と陸上部が使っている。 「ほら、あのハードル跳んでる子。わかる?」 私の隣までやってきたレッドくんは、なぜか自分の席じゃなく私の前の席に座って、私のことばにこくりとうなずいた。 「…グリーンもいる」 「えっ、どれ?」 「あれ」 そう言ってレッドくんは、グラウンドを走り回ってるサッカー部のひとりを指す。だけどあいにく今裸眼の私には、いちばん遠くにいるその人は豆つぶみたいにしか見えない。 とにかく頑張って目を凝らしてたら、とつぜん指差していた手のひらで視界を覆われた。 顔に触れるぬくもりにぎょっとするものの、顔を引いて離れようとしてもなかなかうまくいかなくて心臓が暴れだす。 「わっ、ちょっと、レッドくん!?」 「…やっぱり、見なくていい」 「え…っ、どうして?」 「………べつに必要ないだろ」 それは、そうだけど。自分で指差したくせに、レッドくんはよくわからない。 大暴れする心臓のせいで声が震えそうになりながら、視界を覆うレッドくんの手をどかそうと、今度は両手でぐいぐい引っ張ってみたけどびくともしない。 それがくすぐったかったのか、レッドくんが笑ったような吐息をもらしたのがわかって、びっくりした私の手から力が抜けた。だってすごく人気のあるレッドくんだけど、笑顔を見たひとは少ないってうわさだし、もちろん私も見たことはないから。 「…どうしたの」 「レッドくん、笑った?」 レッドくんは動きが止まった私を不審に思ったみたいだけど、尋ねた問いは無視された。でも沈黙はきっと肯定で、なおさら視界が奪われてるのが悔しい。 「レッドく〜ん」 「…何」 「何じゃなくて、手、離してよ」 「…いやだ」 無視された次は拒否されて、でもなんだかすねたみたいな声に思わず笑みがこぼれる。 大人みたいにクールで、成績はダントツのトップ。運動神経も抜群のレッドくんだけど、なんだか可愛いかもしれない。 耐えられなくて笑ってたら、とつぜん視界を覆っていたおおきな手がするりと外された。 両手を掛けたままだったから、私の両手もレッドくんの手と一緒に、机のうえに落ちていく。 「……なまえ」 「え?」 「仕返し」 視界が晴れた、と思った瞬間に目に移ったのは、レッドくんの緩められたネクタイ。 「…顔、真っ赤だよ」 咄嗟には何が起きたのかなんてわからなくて、だけど額にうっすら残るぬくもりに目を見開いたときには、レッドくんに十分すぎるくらい笑われていた。 さっきとは比べられないほどどきどきしている心音が、巧い具合に机のうえに押さえ付けられている両手から伝わっている気がして、ますます頬が熱くなるのを自覚した。 ……びーちゃんに捧げます! 遅くなってしまってすみません…! せっかくのレッドさん学パロなので、どうにか友達以上恋人未満の甘酸っぱさを出そうと…出そうとしたのですが……ぜんぜんほのぼのじゃなくなってしまいました…すみません(>_<) 夕暮れの教室にふたりっきりは、個人的になかなか好きなシチュエーションなのでこんなかたちになりました。 相互ありがとうございます!これからもよろしくお願いします(^^) 110202
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