novel | ナノ

ぴよっ、と鳥の声のようなものが、すこし遠くから聞こえた。と思ったら、今度は間近すぎるくらい間近に、何かが当たる音。

最初はかつん、つづいて、今度はコンコン。

これは明らかに、ベッドの傍らにある窓をノックしてるような音だ。なんだろうとまどろみの中で思って。


「〜〜…!?」


思ってる間に目が覚めて、私は飛び起きた。起きた拍子に、勝手にボールから出てきて人のお腹の上で寝てたらしいフシギダネが、寝ぼけてなにか言いながら転がり落ちる。

…まさか、この子のせい…?と、一瞬だけ思った。またコツコツと音が聞こえ、私は床に転がったフシギダネから、逆側の窓へ目を移す。

すこし困ったように首をかしげたポッポが、朝日を背にして私を見ていた。


「ぽ〜」
「……ポッポ…?」
「ぽっ」


うすいガラス越しになんともまぬけな会話が交わされる。ハヤトならきっと、見ればわかるだろ、と一蹴するんだろうな。

幼なじみの渋い顔が浮かんで、朝っぱらから不快になった。きっと鳥ポケモンのせいで思い出しちゃったんだ…。うん、そうと決まればさっさと話を進めちゃおう。

そう思って、からりと窓を開けたとたんに、ポッポはばさりと飛び立った。

あ、と声を上げる間もなく、目で追ったその姿は宙で旋回して、…こんな朝早くから私の家の前に立つ人、たぶんポッポの主人の肩におさまった。


「……はよ」


対して大きくもない声なのに、ハヤトの声はよく聞こえる。いつもジムにいるときの袴姿じゃなくて、それがなんだか不思議で、だから返事が一瞬、遅れた。


「…な、に?こんな朝早くに…非常識だよ…?」
「非常識も何も。昔だってよくこの時間に起こしただろう」


言われて考えてみれば、小学生の夏休み、朝のラジオ体操だとか言って、始まる1時間も前に起こされたりしたこともあれば、中学の部活の朝練だとか言いながら、まだ門も開いてない時間に起こされたりしたこともあった。

ここ最近そういうのがなくて忘れてたけど、全っ然いい思い出がなくて、さらに不愉快になった私は思わず渋面をつくってしまう。


「……今度は、何の用なの…」
「すごい顔だな」
「だれのせいでしょうね…」
「自分でそういう顔してるんだろう」
「寝不足なの〜」


だれかさんのせいでね、とたっぷり皮肉をこめたはずなのに、眠気のあまり間延びしてしまうそれを、ハヤトは呆れたみたいに肩をすくめて受け流す。肩のポッポが一瞬、びっくりしたみたいに羽をひろげた。


「…とにかく、降りてこいよ」
「どうして〜」
「いいからさ」
「やだ…、まだ寝れる時間だし…」
「寝るなよ、せっかく起きたのに」
「起きてません…、まだ半分は寝てます〜」


だねぇ?と後ろから小さな声が聞こえて振り返れば、ねむたそうに目をしょぼしょぼさせたフシギダネが、またベッドによじ登ってきたところだった。

そうしてよじ登った先で、また眠りだす。しあわせそうな寝顔に、こっちまでうとうとする……


「……仕方ないな」
「え…、なに」


ハヤトが目下でため息とともに吐き出した声に、なんとか振り返った私は、とたんに眠気が吹っ飛んだ。


「ハヤト、それ…!」
「そうだよ。ほら、来いよ。乗せてやるから…」


小窓いっぱいに広がる、ふつうよりも大きなピジョットの背から、ハヤトがこちらに手を差し出す。

天敵のひこうタイプの羽音でついに目を覚ましたらしいフシギダネが、あわてて後ろに隠れるのを視界の端にとらえ、私はフシギダネを抱き上げた。

だ〜ね〜、と腕の中でちぢこまる存在をぎゅっとだきしめて、またハヤトを見る。肩越しの空はもう光に満たされて青い。

守るようにフシギダネを抱いたまま、私は空いた手を、おそるおそるハヤトの手にのばす。ハヤトはそれを、しっかりとつかんだ。


「大丈夫だ。怖くないから」


返事をする間もなく強い強いちからで引っ張り上げられて、気付いたときには、頭上に朝方のミルキーブルーが広がっていた。寝癖がついたままの髪が風でめちゃくちゃにされて、それが後ろにいるハヤトに当たるらしい。

お腹に腕を回されて、あ、と思う間もなくぐいっと身体を引かれて、私の頭はハヤトの、意外としっかりした胸板に押しつけられる。


「…朝の飛行がいちばん、気持ちいいんだよ」


だから起きろって言うときは起きろよ。ハヤトはぽつりと、耳元で言った。私はかすかにうなずいた。腕に抱えたフシギダネはびゅんびゅん吹き付ける風に目を細めてるのに、私はお腹に回された腕が気になって仕方ない。



(いつ進化したの?)(………昨日)
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