novel | ナノ

周り中が浮き足立ったように見えたクリスマスも、もう終わった。

イブはもちろん当日だって、時計の針がぴったりと揃うその瞬間まで、もしかしたら何か、漫画みたいに素敵な何かが起こるんじゃないか…なんて、こころの片隅でも全く思ってなかった、と言ったら嘘になる。私だって、女の子なんだ。

だけどそんな淡い夢物語が現実になるほど世の中は甘くないわけで、気が付いたら年末が押し迫っていた。

ミラクルが起きなかったどころか、今年はむしろよくない年末かもしれない。準備をはじめるのが遅かったから年賀状が間に合いそうもないなんて、夢なんか見てないで手を動かせ!と怒られてしまいそう。

もうあとは来た人に返せばいいや〜なんて半ば投げやりになりながら、とりあえず特別お世話になった人に書いた年賀状を出すために家を出た。

冬休みにしては早めに外に出たからか、日は登っているのに辺りは怖いほど静かだ。まどろむような太陽の光がまぶしくて、歩き慣れた道が普段よりきらきらして見える。


「あっ!」
「お」


そんな空気が、なんとなくはちみつみたいだなと思いながら赤いポストのある通りに出たとき、ちょうど角を曲がってきた人にぶつかりそうになって、私は思わず声を上げた。


「す、みませ」
「お前、なまえだろ?」
「え…あれ、グリーン!?」
「よ、久しぶりだな」


グリーンのきれいな茶髪がはちみつの光に透けてきらりと光る。まぶしいのは別に、私の胸の高鳴りのせいじゃなくて、ただグリーンの真後ろに太陽があるからってだけで。


「久しぶり…何してるの?」
「ん?いや、ちょっとあいつに用があってさ」
「あいつ?」
「ほらあの、赤いの」


一瞬レッドのことかと思ったけど、親指でくいくいっと通りの向こうを指すグリーンに、なんだおんなじ理由か、と少しうれしくなる。


「…グリーン、年賀状書くんだね」
「どういう意味だよ?」
「いや、意外だなあって」
「…お前なあ…」


内心恥ずかしくなって茶化すように言ってみたら、やっぱりグリーンはげんなりした顔をした。

元々、私とグリーンはこういう仲なんだ。わかってる、クリスマスイブを迎える前から、こんな気持ちを抱えてるのは私だけ、ってことくらい。


「何笑ってんだよ、お前だってどうせ今書いたんだろ」
「そうだけど…ふ、ほんとグリーンって面白い」
「うっせー、オレだって年賀状くらい書くっつーの!」
「そうだよね、女の子たちからたくさんもらうんだもんね?」


からかいの口調で、ずきりとする心臓を隠す。我ながら可愛くないとは思うけど、グリーンの前で可愛くないのは元からだ、と素直じゃない自分から無理やり目を背ける。

自分で聞いたのに聞きたくもないグリーンの返事が、私の頭に落ちてきた。


「…別に、オレからは出さねぇけどな」
「…はい?」


優しいがゆえにタラシなグリーンから放たれた言葉が信じられなくて、私はグリーンを凝視した。まぶしくて表情がよく見えない。
それに気を取られた一瞬だった。グリーンが流れるような動作で、私の持っていたハガキを抜き取ったのは。


「ちょっ…グリーン!」
「お前、たったの5枚かよ」
「返して!」


結構長いことグリーンを、グリーンの後ろの太陽を見ていたのが徒になったみたいで目がちかちかする。

だからよく見えないけど、グリーンは私のハガキをじろじろと無遠慮に眺め回してるらしい。大したハガキじゃあない、とりあえず特別親しい友達にだけ書いたハガキ。

だけど恥ずかしいのに変わりはなくて、かっと勢いよく頬に血が上ったのを自覚した。


「グリーン!」
「落ち着けって、ホラちゃんと返すぜ」
「なっ!?」
「なんだよ」


なんでもない、と首を振ってハガキを受け取る、その手が震えるのがなんだか悔しかった。急にあっさり返されたりすると拍子抜けするじゃん!…なんて言えるはずもない。

その日、そのままろくな話もしなかったグリーンが私のハガキなんかで何をしてたのかわかったのは、年明けの朝、郵便ポストから束ねられたハガキの山を仕分けたときの話。
20101229

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