novel | ナノ

眠れない日、っていうのは誰にでも一度はあるものだと思うけど、それが私の場合は雨の夜だった。それも、春から夏にかけての暖かく木々を元気にする恵みじゃなく、秋から冬にかけての、冷たい冷たい雨の日だ。

ぽとぽと、ばたばた音を立てて窓をたたく雨を、ベッドの中から聞いていたのだけど、今日も一向に眠れそうにない。

のそのそベッドから這いだすと、フローリングにカーペットを敷いただけの夜の冷たさが、全身を刺した。それに耐えつつ、窓辺に近寄る。

まっすぐ前にある、隣の家の窓にはやっぱりまだ、明かりがともっていた。カーテンはやっぱり閉まっていなくて、ひとり窓際に置かれた机に向かう人影が、ひとつ。

窓に張りついた水滴が流れ落ちていく中でよく見えないのに、何やら作業してたらしいグリーンがふとこちらを向いたのは、視界が良好じゃなくたってわかった。


「あ」


思わず声がこぼれ出て、私は窓を開け放った。ひゅうっと吹き込む冷たい風と、それに乗ってきた氷みたいな雨粒が、顔面にばしばしと当たった。


「やっぱ今日は無理だ、なまえ、閉めろ!」


顔面ずぶ濡れになりながら、向こうの開け放った窓からグリーンが叫んだ。だから、開けないほうがよかったのに…先に窓に手を掛けたのはグリーンなのに。

思わず窓枠をぎゅっとつかんだ。このままじゃ部屋がびしょびしょになってしまうと頭の片隅ではわかってるけど。

動けないでいる私を見て、グリーンは自分も窓を閉めようとはしなかった。いつだってグリーンは、私が窓を閉めてから自分が閉めるんだ。開けるのは先のくせに。


「どうせ眠れねえんだろ?電話してやるからとにかく閉めろ」


雨を防ぐために細めた視界の中で、グリーンが見慣れた黒いケータイを手に持って振ったのが見えた。

次の瞬間には目に勢い良く雫が飛び込んできて、たまらずに窓を閉める。

傍らにあった自分用のバスタオルで顔を拭いたとき、閉めきった冷たい部屋に着信メロディが流れだした。バスタオルを頭から被って、私はケータイを開く。

お前が寝るまでだからな、とグリーンが笑う向こうで、イーブイのじゃれつくような声が聞こえる。

Thanks;曖昧
101214

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