ひゅうひゅうと木枯らしが吹いていて、さっきから寒い寒いと繰り返してばっかりのグリーンを笑ってたんだけど、急にそれどころじゃなくなった。 「おい、まじで大丈夫かよ…」 目を押さえて道端にうずくまった私に、どうしたらいいのかわからないらしいグリーンがおろおろと声をかけてくるけど、本当にそれどころじゃなくて何も言えない。 目に飛び込んできたのは恋のフェアリーでも大好きなフルーツパルフェでも、もちろんグリーンの浮気現場でもなくて、木枯らしに紛れて飛んできたちいさなゴミか何か。 異物の存在に敏感な涙腺が、さっきからたくさん涙を流すんだけど、なかなか流れてはくれなかった。 「なまえ、とりあえずベンチに座ろうぜ。危ねーから」 「う…」 「ほら、こっちだよ」 グリーンが私の肩を抱くようにして誘導してくれたベンチに腰掛ける。座るや否や、私はうつむいて大粒の涙をこぼす。もちろん、わざと。 泣き濡れてるように見えるだろう私の隣に座ったグリーンは、心許なさそうに大丈夫か、を繰り返す。 心配かけるのは不本意だから、必死でこくこくとうなずいた。 「だ、だい、じょうぶ…」 「大丈夫ってお前、ぜんぜん大丈夫じゃねーだろ」 「ん。痛、い」 「どっちだよ」 いつもの受け答えなのに、グリーンの声がびっくりするくらい優しい。とろけそうなふわふわマシュマロみたいな声。目と違って元気な耳がそれをとらえて、涙腺と違って元気な血管に、たくさんの赤血球が流れだす。 まばたいたらまたぽとりと雫が落ちた。 「…出たか?」 「…出ない〜…」 「見せてみろよ」 「やだ上向くと痛い」 「わがまま言うなって」 ほら、と顎をつかまれて上向かされ、ぐちゃぐちゃににじんだ視界はグリーンらしき色彩をとらえるだけ。 思わずまばたいたらまた激痛が走って、うつむこうとした動きは顎をつかんだ手に阻止された。新しく分泌された涙が頬を伝っていく。 「…右目か…」 「痛い」 「つぶんなって。開けてろ」 「むり…」 「つぶってたらいつまでも出てこねーだろ」 強制的にあっかんべーされる頬に抵抗してさらにきつくつぶったら、意地張んなあほ、とでこぴんされた。 「ちょっ…、私ケガ人!」 まさかでこぴんされるとは思わなかったから、びっくりしてかばっと両目を見開いた。その先でいたずらっ子みたいににやりと笑うグリーン。 涙の跡に風が当たって冷たいから、ごしごしと手のひらで拭いながら彼をにらむ。 「ほらな、取れただろ」 「え…あれ、ほんとだ!いつの間に」 「何言ってんだよ、でこぴんのおかげだぜ。オレさまの黄金の右手に感謝するんだな」 「えぇ〜…」 心底いやそうな声が出た私に、おかしそうにははっと笑ったグリーンは、その黄金の右手で私の左手を引っ張った。 促されて立ち上がったとたんに、ちょっと腰を屈めたグリーンの顔が近づいてくる。 ちょん、と右のまぶたに触れたグリーンのくちびるはすぐ離れて、それから空いた方の左手で、私の頭はわしわしと撫でられた。 すぐ傍の道路を車が走っていく。木枯らしは相変わらず吹いていたけど、それに吹かれたグリーンが寒いくせにさりげなく私を風から隠すように移動してくれたのは、きっと目を開けてたからわかったことで。 「…なまえ」 「ん〜?」 「目、閉じろよ」 「…グリーン、それって」 間近でグリーンがささやく言葉がさっきと真逆だよって注意しようと思ったのに、開いたくちびるはグリーンのくちびるで、目はグリーンの左手で塞がれてしまった。 グリーンの黄金の右手の指が、私の左手の指にするりと絡められるのは、目が開いてなくてもわかった。 101206 |