失恋したらいっぱい泣いて、泣いて、あとは次の恋を探すのがいいんだって。 せっかくそう言ってあげたのに、グリーンは興味なさそうにへーと一言だけ言って、季節はずれのアイスクリームをぺろりとなめる。 グリーンの明るい茶髪に、ミントのライトブルーはなんだかぜんぜん似合わないけど、傷心のグリーンには言わないであげようと思った。 「ねーグリーン、元気出しなよ」 「べつにもともと元気なくなんかねーよ」 「嘘、失恋したんでしょ?」 「してねーっつの」 なんで強がるのかなぁ、と思いながら私も、ミントをぷんぷん香らせるグリーンの隣に腰掛けた。さっきからこの繰り返しなんだ。 「ふられるのなんて、恥ずかしいことじゃないよ?」 「知ってるよ」 「なら素直に認めなさいってば」 「だからオレじゃないって言ってんだろ」 「グリーンが素直に認めたら、アイスやさんもクレープやさんも、どこにでも付き合ってあげるのに」 「……いらねーよ」 グリーンは何かいいたげな間をあけたけど、結局、認めようとはしない。とことん意地っ張りなこの性格、失恋してもグリーンは変わらないみたい。 じつはこれが原因なんじゃないのかなぁなんて思いながら、私はじーっとグリーンのアイスを見つめる。 トッピングのカラースプレーのきついピンクが、真っ青なミントにちかちかする。立ち聞きしたわけじゃなくて、うわさとして流れてきたんだ、グリーンが失恋したって。 学年一かわいくて有名な女の子、その子がフったんだって。 …なんでだろう…。グリーンはたしかに意地っ張りでオレ様だけど…でも。 「…あっ」 「あ?」 見つめてた先のカラースプレーがグリーンに食べられてしまってつい声を上げたら、グリーンはこっちを振り向いた。 あ、目が合った。今日ずっとこっちに向けられなかった、ぬくもりに満ちたオレンジの目は、疑心に満ちて私を見つめる。 なのに、心臓がはねた。 「や…べつに、なんでもない」 「何なんだよさっきから」 「さっきからって?」 「違うって言ってんのに聞いてねーし」 「聞いてるよ、信じてないだけ」 「なんでだよ」 「だってグリーンて意地っ張りだから。あ」 「な、今度は何…」 たらりとたれてきたアイスをすぐさま口で防いだら、グリーンににらまれた。 「おいなまえ、何勝手に食ってんだよ」 「えー、だってたれるとこだったから」 「…オレが意地っ張りなら、おまえは食い意地っ張りだろ、絶対」 「女の子に向かって失礼なっ」 そんなんだから、といいかけてあわてて口をつぐむ。グリーンはそんな私には気づかないみたいに、再びアイスにとりかかりながら意地悪く笑う。 「へえ、おまえ女だったのか」 「はぁ!?」 「わりー気づかなかった」 「グリーン、目だいじょうぶ?」 「なまえに心配されたくねーよ」 せっかく心配してあげて、アイスやさんにもついてきてあげたのに、おごってもくれないどころかこの扱いって、どうなの。 むかついて立ち上がろうとしたら、つんっと痛くない程度に髪をひっぱられた。 「…なまえ」 「何?」 髪をひかれるまま座りなおした膝のうえに放られたのはグリーンの黒いお財布。合皮なのにつやつやしてて、扱いがいいことを示してる。 「買ってくれば?」 「え、何を」 「アイス」 なんで突然おごる気になったのかわからなくて戸惑いながら、お財布を手に今度はきちんと立ち上がる。 グリーンはコーンにとりかかりながら、立ち上がった私を見上げて、いつもよりずっとやさしい顔で、笑った。 「今度はオレが待っててやるから、心配せず好きなの買ってこいよ」 なんでフったんだろう。グリーンはこんなに、やさしいのに。 急速に早くなる鼓動を黒いお財布で押さえて、グリーンに負けず劣らず意地っ張りな私は言い返す。もう傷心じゃないみたいだから。 「いつもそんなならいいのに」 「だから、オレはフった方だって…」 ……な!? 目を丸くした私の目には、ちょっと呆れたみたいなオレンジが映る。声に出せずにはいられなくて。 「…グリーンって学年一かわいい子フったの!?」 その墓には誰も眠っていない (オレにはもっとうるさくて、食い意地張ってて、ひとの話なんか全然聞かねーようなやつがいるから)(…だれ、それ?)(……) Thanks;逃避行 Happy Halloween 2010! |