novel | ナノ

※学パロ


ぐい、とマフラーがひっぱられて、完全に油断してた私は、カエルがつぶれたみたいな、おおよそ華の乙女とは呼べないような声を出して振り返った。

学校からの帰り道。並木道りの木々は色づいた葉っぱをはらはら降らせていて、そんな中でマフラーをしたつんつん頭が私を見ていた。あったかいオレンジの目に一瞬だけ、どっきりした。一瞬だけ。


「……ぷっ。なんだ今の声」
「な、グリーンのせいじゃん!」
「ちったぁ可愛げのある声出せよな〜」


面白くねー奴。とか言いながらけらけら笑ってるグリーンは、ことばと態度が一致していない。

面白くないなら絡まなきゃいいのに、私なんかに。…と思っても言えないのはもちろん、私の邪魔な気持ちのせいだ。だけど私は、少なくともことばと態度は一致させてる。

一致しないのは、両者に対しての本心。


「今日は何の用なの?」
「べっつに。ただ前方にこれがあったからひっぱりたくなってさ、」
「……嫌がらせ?」
「まさか」


そう言って完璧な笑顔を仕向けてくるグリーンはあくどい。だってグリーンは、自分がすごく格好よくてモテるってことを、よくよく自覚してるんだ。

ぐらり、と傾ぎそうになる、胸中に封印した根元をぐっとおさえつけて、私もにっこりと笑い返してやった。もっとも、私なんかの笑みが、グリーンのそれとおんなじ効果があるはずもないんだけど。


「…なんだよ?」
「いーえ、別に?」
「…なんか地味にむかつくな、お前のその顔」
「失礼なっ」


どうせ私は地味だしむかつく女ですよーだ。もしかしたら、もしかしなくても、グリーンには女としてさえ見られてないのかもしれない。

考えたら悲しくなって、ばかばかしくなって、だけどそれでも話せるのがうれしいんだから救いようがなかった。

くるりときびすを返して、また歩き始める。時折吹く風は、相変わらずたくさんの落ち葉を私たちの頭に振りかける。グリーンが、半歩遅れてついてきた。


「なまえ」
「何よ、まだ何か文句でもある、っぐ」


また後ろからマフラーをひっぱられて、今度はいくらグリーンと言えどもすこしイラついた。

ちょっと何なの、と言おうとして足を止め振り返ったちょうどそのとき、首の後ろを軽く抑えられるような違和感を感じた。


「あ、なまえちょっと待て動くな」


思わず目を丸くして固まった私の首の後ろで、グリーンは蝶のように結んだそれのかたちを整える。やっぱり、女の私よりも几帳面だ。


「…お前のマフラー、ひらひらしてっからひっぱりたくなるんだよな〜」


だから、ちゃんとこうやって結んでこいよ、とグリーンはからりと笑って、それから硬直したまま見つめる私の背中を、ぽんっと軽く押し出す。


「…行くぞ」


思わずよろけた私をさっさと追い越していくグリーンの耳が、落ちてくる葉っぱみたいに真っ赤なのは、風が冷たいから…?

……うん、きっとそうにちがいない。

Thanks;rim
101112

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