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何、考えてるの?…なんて、聞ければ良いのに。私は風に吹かれる茶色いふわふわ頭を見つめて唇を噛み締めた。

グリーンがマサラタウンに帰ってきてから数日が過ぎていた。彼が頂点にのぼりつめてすぐに、レッドが彼を打ち負かしたのだ。

実を言えば、なんとなく分かってたことだった。祖父であるオーキド博士だって言ってたし、私もグリーンを心配すると同時に、彼よりもポケモンを遅くはじめたレッドが、いつグリーンを抜くのかとひやひやしてた。

レッドには何か、超人的なものがあったから。グリーンが弱いんじゃない、レッドが強すぎるのだ。…なんて言っても、ただの慰めになっちゃうのは目に見えていて、だから私は彼に何も言ってあげられない。

でも何も、こんな最悪のタイミングで来なくてもいいじゃん、と私はもうひとりの幼なじみ、レッドに言いたくなる。


「グリーン…?」


あれこれと考えながら、まだかける言葉も見つからないうちに、結局私は声をかけてしまっていた。彼はゆるゆると緩慢な動作で振り向いた。


「……なまえか…」


のどかなマサラタウンの野原に座り込んで、ずっと弄んでいたモンスターボール。なんとなく、中身は連れ添ったフシギバナではないかと思った。わからないけど。


「となり、」


発した声は少し震えてた。バカみたいだ、私。彼が帰ってきてから、彼の様子を見て、絶対にひとりにしないと決めたのに。今朝から見当たらないグリーンを探して、ようやく見つけたのに緊張するなんて。

ほんとに、バカみたいだ。何しに来たんだか。目的を思い出せ、なまえ!


「座ってもいい?」
「……ああ」


グリーンは無感情に言って、前を向いた。

グリーンが断れないことを知っていた。彼は優しいから。身体中から、言葉とは裏腹の寄るなオーラが出てたけど、私はそれを無視して彼のとなりに腰を下ろした。しばらくそのままでいれば、彼の近寄るなオーラはだんだん薄れていった。

何も会話はしなかったけど、気まずくはなくて。のどかな代わりに何もないマサラタウンでは、静かに、ゆっくりと時は流れていく。


「……忘れてたな…」
「え?」
「…オレさ、言われたんだよ。じじいに。おまえには欠けてるもんがあるって。……だからおまえはレッドに……って、さ」
「…うん」


グリーンはようやく話しだした。なにかを押し出すような声。苦しそうで。私より大きな肩が震えて、私はそれを支えたくなる。思わず、何も考えずに彼の手を取って、握っていた。もう季節は春なのに、彼の手はやけに冷たかった。

グリーンはこちらを見なかった。それでも強く握った手を、彼はさらに強く握り返した。私の促しに、吐き出すようにまた口を開く。


「…最初はさ、何言ってんだって思った。孫が、…負けた、のに。…何も…ないのかって。……でも、分かったんだ。じじいは正しかったんだよな。オレが間違ってたんだ。……ここに帰ってきて、よかったよ」


グリーンは最後だけ、噛み締めるように言った。握った手にこもる力が一瞬強まったような錯覚に陥って、私は自分を恥じた。


「何言ってるの、グリーンが帰る場所は、いつだってここ、マサラタウンでしょ?」


彼の手に温かみが戻ってきていた。私が問うと、グリーンはちらっと私を見て、かすかに笑った。 ……ああ、グリーンは強い。そう思った。


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