novel | ナノ


※学パロ設定


塾の帰り道は大きな通りで、金色に統一されたイルミネーションが幻想的な華やかさを演出している。

クリスマス当日だからか、そんな並木道を歩くのはあっちもカップルこっちもカップル、重たいカバンを持った独り身の私は完全に浮いていた。

好きなひとくらい、私にだっている。だから寂しくなるのは当たり前のことで、だけど聖なる夜にそんな卑屈な気持ちになんかなりたくないから、あえてしっかり前を見て、イルミネーションを楽しみながら帰路に着こうと決めたのはついさっきのこと。


「なまえ」


突然後ろから声がして、私は振り返った。じっと見下ろしてくる赤い目に、ついさっきまで私が眺めていたイルミネーションが映っている。

思いがけない好きなひとの登場で、心音がオクターブくらい跳ね上がった。


「レッドくん!こんばんは、珍しいね」
「…なにが」
「えと、…いつもグリーンくんと一緒にいるから」


すこし不機嫌になったように低く尋ねられて、私は内心焦ってことばをつなぐ。言ってから失言だったと気付いた。


「グリーンは、どっか行ってる。帰ってこないかもって」


帰ってこないかもって、あのグリーンくんが、家に?どうして?意味を取りかねて目を見開いた私に、レッドくんはナナミさんが言ってた、と補足してくれた。…結局、よくわからないけど。


「レッドくんは…えっと、ひとりなの?」
「……」
「え、何?」
「なまえだって、ひとりだろ」
「そうだけど…」


むっとしたように言われても、私はともかく、誰だってレッドくんがひとりでいるなんて思わない。

たしかにグリーンくんの浮き名はたくさん流れるのに対して、レッドくんのそういう話は聞いたことがない。けど、だからといって、学年を越えてファンの多いレッドくんに彼女がいないなんてことがあるわけないと思ってた…。

しばしの沈黙が気まずくて、なんとなく視線をレッドくんからイルミネーションに移した。移した先で、抱き合うカップルを見てしまってあわててレッドくんに視線を戻すと、レッドくんはどうしてか、めったに見せない笑みを浮かべていた。


「あの、レッドくん…?」
「なまえって、面白い」


面白い、私が?思いがけないことばに目を見開いた私をよそに、レッドくんは笑みを浮かべたまま軽く首をかしげる。


「塾」
「え、塾なの?」
「オレじゃなくてなまえの。あれ」


そう言ってレッドくんは私の背後を指差す。振り返ればレッドくんの指はたしかに、私の塾を指している。


「…帰るとこ?」
「うん。でもレッドくん、どうしてそんなこと知ってるの?」
「さっき見かけたから」


さっき?びっくりして目を見開いたら、またレッドくんは笑みを深くした。レアなレッドくんの笑顔をクリスマスにたくさん見れるなんて、なんだかすごくラッキーかもしれない。


「レッドくんは、これから誰かと待ち合わせ?」


さっきはひとりだって言ってたけど、レッドくんに限って独り身はないだろうとか、だけどこんな時間から会うっていうのもおかしいなとか考えながら聞いたら、レッドくんの笑みが急に引っ込んだ。


「……ふーん」
「え、え?」
「そういうこと言うんだ」


戸惑う私の腕を、レッドくんはつかんだ。あまりに唐突すぎて、塾で疲れ果てた脳みそがついていかない。


「なまえ」
「は、はい」
「今日はあと3時間しかないって、わかって言ってるの」
「それは、塾終わった時間だからわかるけど…」
「……じゃあ、鈍感なんだ」


レッドくんはひどく不本意そうに、つぶやくように言った。だけど私はあいにく鈍感なわけじゃなくて、ただ、レッドくんに彼女さんがいないなんて信じられないだけで。

レッドくんのつぶやきに、あり得ない考えが浮かんで、その期待の大きさに私は思わず震えた。だめ、それ以上いったら戻れなくなる!


「寒い?」
「さ…むくなんか、ないよ」
「…意地っ張り」


くす、とまたレッドくんは笑う。一度腕を離して、自分が巻いていたマフラーを外して私にぐるぐると巻き付けてくれる。手つきが優しい。

ふわりとレッドくんの匂いがして、だめだって言い聞かせても隠せないくらいの鼓動が、熱くて熱くて泣きそうになった。

話題、話題を変えなくちゃ。声も足も、寒さではないもので震えたまま、治らない。


「…レッドくんは…、何してたの?」
「……」
「…。レッドくん?」
「やっぱり、鈍い」


重ねて尋ねたらレッドくんは短くぼそりと答えた。離れていた手がすとんと下りてきて、すっかり力の抜け切った私の手をつかむ。

不意に包まれたぬくもりに、勝手に身体がびくりと跳ねた。レッドくんに笑われるかなと思ったけど、意外なことにレッドくんは何も言わなかった。だんまりに戻ってしまったレッドくんが、私の手を引いて歩きだす。

あったかいレッドくんのマフラーにすこしだけ顔を埋めてみた。もう、にぎやかな並木道に浮いているなんてちっとも思わなかった。思うはずもないのだけど。

Thanks;xx
101225

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