すこし冷たい風が気持ちよくて、太陽はあったかく降り注ぐ。 さわさわと草木がゆれる芝生にふたりで座り込んで、私はもう何度目かの、おおきな深呼吸をした。 となりに座って空を見てたレッドが、おおきなあくびをする。 「レッド」 「?」 「眠い?」 さっきから何も言わずに空を見上げてるレッドに問いかければ、レッドはちょっと考えるようにまばたきをして、こくりとうなずいた。赤い瞳は、すでに眠たげにとろんとしてる。 「暇?」 「暇…というか……」 つぶやくように答えたレッドは、また空を見上げながら首をかしげる。 「眠い。あったかいから」 ぽっかりと、木々がわざとあけたような穴から差し込む日の光だけが、私たちを包み込んでいる。 すこし離れた木の上で、レッドのピカチュウと私のポッポが、どこかから見つけてきたらしいりんごを食べている。 ぼーっとそれを見ていたら、今度はレッドが声をかけてきたから、私は視線を戻す。 「…なまえは」 「ん〜?」 「なまえは、つまらない?」 そんなはずない。私がレッドに会えて、こうしていっしょにいられるのがどんなに幸せなのか、レッドには伝わってないのかな。 透き通るような太陽の音がまぶしいらしく、レッドはかすかに赤い目を細めて私を見つめた。それにどんなにどきどきしていることか。 「つまらなくないよ」 「じゃあ、微妙?」 「…どうしてそんなこと、知りたいの?」 「知りたいから」 今までレッドとこうして何をするともなく過ごしたことはあった。でもこんな質問をされたのははじめてだった。受け答えはさっき既出済みだったけど。 レッドの赤い目は真剣で、なんだか不思議な気がする。レッドは他人に興味を示さない人なんだと思ってたから。 「楽しい、よ」 「…楽しい…?」 「うん」 なんだか照れ臭くなってまたポッポたちに目を戻したら、りんごを食べ終えた彼らは体を寄せて目を閉じていた。 ポッポにとってタイプ相性が悪いはずのピカチュウだけど、しっかりしてるレッドのピカチュウは私のポッポにいつも優しくて、だから今ではすっかり懐いてる。 穏やかな光景に思わずほおがゆるんだとき、体の左右に突いていた手にぬくもりが触れて、かぶさってきた。 それと同時にぐいっと肩を引かれて、耐えきれず私は仰向けにひっくり返った。 「…なっ!!?」 ぐるん、と勢い良く反転した視界にぎょっとして目を見開いて、私はレッドをにらむ。レッドもまた、私の隣で芝生に寝転んだまま、私を見ていた。 「いきなり何するの!」 「芝生、気持ちいいよ」 まるで無邪気に、目を細めて見つめられて、怒りが急速に溶け消えた。近くなった地面の香りに目を閉じてみる。 つながれたままの手がゆるりと動いて、指と指が交互に絡まった。ぬくもりが、近い。 「……ほら、ね」 くす、とレッドが笑ったのを、まぶたの裏までひたす光の中に感じる。 Thanks;逃避行 101113 |