novel | ナノ

おかしいなぁ…と思ったけど、いくらまばたきしても、目を擦っても、ほおをつねってみたって、レッドはいなくならなかった。


「…なまえ、だれとにらめっこしてるの」
「にらめっこなんかしてないよ」
「…じゃあ、百面相?」
「百面鳥?」
「……。なまえって、ばか」


表情ひとつ変えずに言われて、すこしショックを受けた。せめて笑いながら言ってくれたら冗談だって笑えるのに、真顔でばかって言われると結構、つらい。


「だって、レッド、なんでいるの?」
「オレがいたらいけない?」
「や、そうじゃなくて…」


ずっとずっと帰ってこなくてみんな心配してたら、あるときグリーンが、あいつは山にこもってて当分帰ってこないってさ、って言ったから。


「もうしばらくは、帰ってこないと思ってた」
「なんで?」
「だってグリーンがそう言ってたよ」


トキワシティのポケモンセンターに突然あらわれたレッドは、幼なじみの名前を聞いてなぜか不快そうに眉根を寄せた。いつも肩にのってたピカチュウが見当たらない。


「グリーンと話したの」
「え…ふつうに?」
「ふつうにって、どれくらい」


どれくらいって…どれくらいだろう。たしかに私はグリーンよりはレッドと仲が良かったけど、でもグリーンとだって話さないわけじゃなかったし。


「…あいさつ程度、…かな?」
「あいさつ?」
「うん。あ、でもレッドのことはたくさん聞いたよ」
「オレの?」
「不便だからポケギア持たせた、とか、明日食料届けにいくとか。うれしそうだった」


何だかんだで仲が良いんだ、グリーンとレッドは。幼なじみだから当たり前なのかもしれないけど、私には不思議に見える。


「グリーンには会った?」
「まだ」
「じゃあ会ったほうがいいよ。よろこぶよ」
「…べつに、グリーンによろこばれてもうれしくない」


なんだかレッドはすこし不機嫌になっちゃった気がする。ふいとカウンターを振り返る横顔はあんまり変わってないけど、雰囲気が堅くなっちゃった。こうなるとなんだか、話しかけづらい。

しばらく会ってなかったから、さっきから会話もぎこちない気がする。私だけかもしれないけど。


「なまえ」
「ん?」
「ポケギア」
「…ポケギア?」


ポケギアがどうかしたの、と私が聞く前に、ちょっとむっとしたような顔のレッドが振り返る。


「ポケギアの番号。なまえの」


教えてよ、とつづけるレッドはなんか、前にも増して本当にわかりづらい。カウンターの向こうでピカチュウの黄色がちらりとゆれた。





Thanks;rim

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -