novel | ナノ

学パロ

ひとつの紙をふたりで見ながら、カフェの窓際の席で勉強を教わってるなんてまるで恋人同士みたいだけど、私たちは全然、そんなんじゃなくて、…少なくともレッドくんには全然、他意はない。


「ここは、x=7」
「え、なんで…」
「この式と、これを連立させるから」


さらさらと心地のいい音を立ててノートの上をすべるシャーペンが、長細くてきれいな文字をあとに残していく。

はじめて見た、まるでレッドくんそのものみたいな文字を、私はじっと見つめる。

学年は同じ。朝の通学時刻も同じで、だから乗る電車もおんなじ。もちろん車両も。

だけど今日、はじめて知ることがたくさんあって、そしてやっぱり私とレッドくんは全然違うんだなぁって思った。もちろん最初から、他校生なんだし、わかってたことだけど。


「…あ!」
「わかった?」
「うん、…たぶん」
「なまえ、」
「はい」
「たぶんだと、数学は解けるようにならないよ」
「…ごめんなさい」


すこしため息をついたレッドくんは厳しい。厳しいけど、それは私がきちんと納得できるまで教えてくれる、そんなレッドくんが優しい証拠でもあるんだ。

レッドくんと知り合えたのも、レッドくんの学校と私の学校の定期試験がずれてたのも、すべて偶然。偶然に偶然が重なって、私はこうして今レッドくんに苦手な数学を教わってる。

いつも駅でさよならしてた毎日とは違うんだ。今だけは、テスト勉強っていう立派な理由が私の味方だから。

ひとしきり説明してくれたあと、レッドくんは唐突に聞いた。


「なまえの学校は、まだ軌跡に入ってないの」
「…奇跡…?」
「…やってないんだ」


進みが違う、とつぶやいたレッドくんは、私のよりもレベルの高い学校で学年トップを保ってるらしい。

進みが違うとか関係なく、たぶん私の脳みそとレッドくんの脳みそは、根本的につくりが違うんだと思うけど…私はそんなことよりも、さっきの単語が気になる。


「ちょっと待って、レッドくん、奇跡って何?」
「奇跡、じゃなくて軌跡」


シャーペンをくるくると回してたレッドくんは、さっきまで数式を書いてた紙のはしっこに、ちょこちょこと軌跡、と書いてくれる。

レッドくんと出会えたのは奇跡な気がする……とかそういうことを期待してたわけじゃ、ない。絶対そんなんじゃない、だってレッドくんのイントネーションが明らかに違うことくらいは、私でも分かってた。

くるりとその文字を丸で囲んでからふと顔を上げたレッドくんの、きれいな赤い目がじっと私の目を見つめてくる。

レッドくんは初めて会ったときから、いつもこうやってまっすぐに見つめてくるから、私はなんだか落ち着かなくなるんだ。


「…レッドくん?」
「なまえの学校って、女子校?」
「え、ち、違うけど…レッドくんも、共学だよね?」
「うん。でも、」


これ、と言いながら、向かいの席から急に左手を伸ばしてくる。びっくりして思わず身を引いたら、その手は胸元、リボンに伸びてきてそれをそっとつかんだ。

どくん、とその下で、心臓が跳ねる。


「オレの学校の制服には、ない」
「ないの?」
「女子もみんな、こっち」


そう言ってレッドくんは、私のリボンを離して自分のネクタイを示してみせる。

離されてすとん、と胸元に落ちてきたリボンが、なにも変わらないはずなのになんだかすごく大切なものになった気がした。

そのままレッドくんを見ていたら、レッドくんはふと何か思いついたみたいに視線を和らげた。それがあまりにもやさしくて、レッドくんはきっと、自分がどんなに格好良いか何も分かってないんだろうけど、私には鼓動を抑えるのがしんどいくらい。


「なまえ」
「なに?」
「貸して」
「…リボンを?」
「うん」


まさかレッドくんがつけるわけじゃないよね、なんて思いながらリボンを外して手渡したら、レッドくんはしゅるんと自分のネクタイを外して、まるで代わりみたいに、それを私に差し出してきた。

ワイシャツだけのレッドくんが新鮮で、また鼓動が騒ぎだす。…なんだか変態になった気分がする。


「…え?」
「つけてみて」
「ネクタイを…私が?」
「嫌なの」
「嫌、じゃない、けど、」


結び方分からないし、というよりも前に、レッドくんはさっきまで教えてくれてた問題集をスライドさせて、私に開いてみせた。

さっきまでやってた問題に似てる。たぶん、類題だ。


「じゃあ、これ」
「これ…?」
「この問題解けたら、外していいから」
「でも結び方が」
「簡単だよ」


それは結び方がなのか問題がなのかよく分からなくて、でも結局、レッドくんの手のなかにあるネクタイを、私は受けとる。

勉強を教わるみたいにネクタイの結び方を教わって、苦戦しながらようやく結び終えたら、レッドくんは今まで見たことないくらい優しい赤い色の目で、私を見ていた。


「同じ学校、みたいだね」


恥ずかしさも、テーブルの上の苦手な数学も何もかもが消えてしまって、代わりに鼓動がゆっくりと、でも確実に早まっていく。






(このまま解けなければいいのに、なんて)(願ってみたりして)





……あーちゃんに捧げます!

他校生でやってみちゃいました。個人的に学ぱろではネクタイの着け外しにどっきりしちゃいます…変態かもしれない(>_<)←
しかし勉強あんまりしてませんね…すみません。

相互ありがとうございます(^O^)これからもよろしくお願いします!

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