novel | ナノ

※学パロ

目的は純粋に勉強会だった。…って言うと語弊があって、まさか私だってそこまで勉強が好きなわけがないけど、でも最初は、本当にただ、純粋な気持ちだったんだ。

だって、レッドにバカにされて悔しかったから。

私がレッドに勝つはずがないことくらいレッド自身も分かってたんだろうし、もちろん万年2位を取り続けてる私がいちばん、痛いくらいわかってたんだけど。


『いつも必ず1問だけ間違えるって……わざとやってるの』
『そんなはずないでしょ!私だって、今回こそはって思って…!』
『それ、毎回言ってる』


レッドは100のならぶ成績表を手に私をまっすぐに見つめる。私も負けじと見返すけど、それは見かけだけで、頭の中には9とか8ばっかりの成績表が焼き付いて離れない。

悔しい。悔しい。いつもテストの1ヶ月前から、やった範囲のことはすべて覚えてるのに、どうして。


『…どんな風に勉強したら…』
『なに、聞こえない』
『どんな風に勉強したら、レッドみたいになれるの?』


恥を忍んで尋ねた私に、頂点の別称を持つ、中身も外見も恵まれた私の敵は、ふだん滅多に崩さない表情を不敵にゆがめて笑った。その表情に、不覚にもどっきりするくらい。

じゃあ、見てみる?って。


そうして今に至る。わけだけど、誰もいない教室でふたりきりになんてなったことなかったから、さっきからなんだかやけに落ち着かなくて、私はそわそわとレッドを、じゃなくてレッドが勉強をしてるのを見てる。

くるくると、レッドの長い指の間で銀色のシャーペンが回る。赤くてきれいな目はまっすぐに問題集に向けられてて、無表情なのにはっとするくらい整った横顔はいつもと変わらない。


「…なまえ」
「……」
「なまえ」
「…は、はい、私!?」
「何回も呼んでる。なまえの他に誰がいるの」


呼んでるとかいいながらレッドの目は未だに問題集に釘付けだから、全然、気づかないのも無理はないと、思う。


「だってレッド、問題集見てるし…」
「何。勉強会じゃないの」
「そうだけど…レッド、話すならちゃんとひとの目を見て話しなさいって教わらなかった?」
「知らない」


相変わらず問題集に視線を注いだまま、レッドはばっさりと切り捨てた。それさえレッドらしくて、何も言えなくなる。

そういえば頂点って成績のこともあるけど、いちばんの意味は、自分からは誰とも仲良くしようとしないからだって、誰がが言ってた。つながらない、孤立した点のことらしい。


「じゃあ、この問題」
「えっ、どれ?」
「45ページ、問3」


すっ、とレッドはさっきまで読んでいた問題集をこっちに向けて滑らせてくる。開かれたページに広がるXZY軸に、思わず眉を寄せてしまった。


「空間…」
「ベクトル。解ける?」
「私の間違いはケアレスミスなの!」


解けます、という意味で言ったのに、レッドはさっき問題集に注いでた真剣な目を、今度はじっと私に向けてくる。黒い前髪の奥の、赤い瞳に射ぬかれたみたいに動けなくなる。

心臓が止まりそうになった。何も話さないで見つめるなんて、…ずるい。


「なまえは、知りたくないの」
「…何を…」
「勉強法」
「……知り、たい…です」


く、悔しい。

弱みを握られて反論のできない私に満足したように、レッドはうなずく。その口角はまた珍しく持ち上がってる。しかも何だかすごく楽しそうだ。不規則に心臓が跳ねて、今度は止まりそうになったのが嘘みたいに勢いよく動きだす。


「解いてみて」


なんだか塾に来てしまった気分だけど、見慣れない表情にあっけにとられた拍子に反論のタイミングを逃してしまって、結局私は真面目に紙に取り組むことにした。

問3は発展みたいで、数分では片がつかなかった。 ようやく解けたところで顔を上げた先では、レッドがつまらなさそうに銀色を弄んでいた。


「…解けた、けど…」


その雰囲気がいつもと違って、思わず遠慮がちになってしまったけど、それがいけなかった。

手元のシャーペンから顔を上げたレッドと目が合った瞬間、おさまっていた鼓動がまた暴れだしてしまった。…なんかおかしい。だってレッドは、私の長年の敵…


「…見せて」
「あ…うん」


解き終えた紙を手渡しながらも私はレッドから目を逸らすことができなくて、でも認めたくない。


「合ってる」
「ほんと?」
「うん」


そう言ってうなずいたレッドがまた私を見て、今度こそ本当に、びっくりするくらい優しく笑った。それはもう、自覚するのにも自惚れるのにも十分すぎるくらい。


「質と、タイムプレッシャー」
「タイムプレッシャー…?」
「そう」
「何が…」
「オレの、方法」
「方法…勉強の?」
「それもあるけど、違う」
「違うの…?」
「なまえ、」


唐突に名前を呼んで、覚悟してて、なんて意味ありげに付け加えたレッドがさっさと教室を出ていくのを、首をかしげながら見送ってた私に、レッドの考えてることなんか分かるはずもない。

張り巡らされた見えない糸に引っ掛かってしまったことなんて、早い心音を自覚しても、気づけるはずもなかった。







(ほしいものは)(必ず手に入れるから)





あーちゃんに捧げます!

む、難しい…!レッド同級生の学ぱろ難しいです(>_<)リクにお応えできてるかすごく不安ですが…あーちゃん、こんなのでいかがでしょう…?
もちろん書き直し承りますので!

相互ありがとうございます(^^)これからもぜひよろしくお願いします!

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