novel | ナノ

「ほらバクフーン、こっちだよ」
「ぐるるる…」
「がんばれ!私だって寒いんだから」
「ぐぁう」
「あ、こらバクフーン!」


薄情な相棒は、寒そうに身体をまるめながら隙をついてボールに逃げ込んだ。ほのおタイプのオスのくせに、こんなとこに女の子ひとりにするなんて!ひどいと思う。

だってここ、あのシロガネ山の山頂付近なのに! たしかに、私がニューラ欲しさに勝手に登ってきたんだけども。でもパートナーなんだから、なにも見捨てなくても…。


「…とりあえず、登り切ろうかな。せっかくだし」


山頂は間近だし、何かあるかもしれないし。うん。

私はとっさの独り言に納得して、自分を励ましながら再び歩を進めた。さすがシロガネ山、雪が深くて、たった一歩がすごく億劫になってしまう。

でもそれを続けてると、あったかいというよりも、暑いくらい。ノロノロとした足取りで、ようやく最後の入り口をくぐった。


「着いたぁ!……」


ぱらぱらとあられの降る中で、大きな達成感を味わったときだった。あられの影響で白くぼんやりした視界の先に、鮮やかな赤い……人? まさか。

私はあわてて近寄った。やっぱりその赤は人だった。こちらに背を向けている。赤い帽子に、赤い服はなぜか半袖で、私は目を疑う。だってこんなに寒いのに!


「あの…?」
「…………」


恐る恐る話しかけると、その人は無言で振り返り、帽子のつばの下、黒い前髪の奥から、伺うように私を見た。

はっきり見えたのは、何も浮かばない、静かな赤い瞳。びくり、とした。この人、だれ…?ただものじゃ、ない。

ひるんだ私に、彼は無言のまま、モンスターボールを突き付けてきた。そしてそのまま投げようとする。私の硬直は、彼によってすぐ解けた。 …うん、やっぱりただものじゃない! 私は息をすぅっと吸い込んで、おもいっきり吐き出した。


「ちょっと待ったっ!!」
「! ……?」


今度は彼がびくり、として動きを止めた。

ボールを持った手を下ろし、ようやく顔を上げる。今度は、瞳に感情が戻っていた。不思議そうな面持ち。私より年上に見えるのに、私より幼い表情をしてる。

彼が止まったことにほっとするのと同時にたくさん疑問が湧いたけど、まずは一言、言ってやらねば!私は口を開いた。


「あなた、こんな山のてっぺんで半袖なんて狂気の沙汰です!下手すると死にますよ!」


ばしりと言ってやれば、彼は目を見開いた。何だか、初めて気付いた、みたいな表情に見えた。……気のせいだと思うけど。そうだと思いたい。

とりあえず、私はあわててリュックを探り、バスタオルを取り出す。


「こんなものしかないですけど、とりあえず羽織ってください」


私が差し出したタオルを、彼は最初の無表情に戻って、軽〜い会釈をして受け取った。まるで話したくないみたいな態度に、少し不安にもなったけど気付かないふりをする。

初対面で説教なんて、出すぎたマネしちゃったなぁ、なんて、……思わない。この人、どれくらいここにいるのかは知らないけど、このままじゃ絶対に凍死すると思うし。

むしろ感謝してほしいくらい!

素直にそれを羽織った彼は、ようやくこちらをまっすぐに見た。


「……バトルは」
「あ、私はポケモントレーナーですけど勝負専門じゃないので、バトルはまたの機会にしてもらえますか」


心配事はそれだけかい!もしかしてこの人、いわゆるポケモンバカってやつなのかな。…いや、でもいくらバカでも、雪山に半袖で登るほど、ポケモンにしか脳がない人なんていないんじゃあ…


「バトル、しないの」
「え?あぁはい、しませんよ」
「どうして」


理解できない、という顔をしてる彼に、私は確信した。

やっぱりこの人、ポケモンバカなんだ…。






(せっかく格好いいのに……)


……
出会い。HGSSで佇んでるレッドさん発見してちょっと思ったことです…つづきも書いてみたいとか思ったり←
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