novel | ナノ

……。

オレは無表情、らしい。よく言われる。誰にって誰にでも言われるけど、特に言うのは昔からの幼なじみだ。

最近までは別に気にしてなかった。けどこの前久しぶりに会ったその幼なじみは、笑いながらオレの肩に手を回した。あいつはそれが昔からの癖だ。


『おまえさあ、あんま表情に出さないとなまえ心配するぜ?』
『…心配…』


オレはグリーンが気安くなまえ、と呼んだのが気に入らず眉根を寄せた、のだけど長年の幼なじみでもそれは読めなかったらしい。ほらそういうところだよ、と言って、意地の悪い顔でオレの頬をひっぱる。オレはそれを振り払った。


『……治るものなのか』
『あー…それは努力次第じゃねぇの?まあ表情に出す練習ってのも大変だからな、どっちかって言えば、思ってることを口に出す練習の方が効果的なんじゃねぇ?』


振り払われた両手を頭の後ろで組んだグリーンは、あっけらかんと言った。深く考えてないことは見え見えで、オレは深くため息をついた。

言われて初めて、自分の無表情を気にした。


「レッド、久しぶり」
「……ああ」


あれから数日。久しぶりに家に尋ねてきた彼女を前に、オレは少し困っていた。思ってることを口に出す?考えてみると難しい。

季節は春。と言ってもまだ肌寒い。彼女はまだ部屋にあがったばかりで、今、ちょうど巻いていたマフラーを取ったところだった。

彼女の家とオレの家とは遠い。オレはマサラタウンだし、彼女はシオンタウンに住んでいる。空を飛ぶポケモンがいるとはいえ、長いこと風に吹かれる点では、むしろポケモンに乗る方が辛いだろう。


「これに、かけて」
「ありがと」


ハンガーを渡すときに手が触れて、ちょっとはにかむなまえは、まだこういう関係に慣れないと言っていたのを思い出す。

付き合ってもうすぐ4ヶ月経つのに、と思って防寒具をすべて取ったなまえを抱き寄せてみれば、案の定彼女はちょっと抵抗した。ちらりと見えた横顔が赤い。

思わずくすり、と息が漏れた。


「なっ、何で笑うの?」
「なまえ、かわいい」


ぐっ、と抱く腕に一瞬力をこめて言えば、堅かったなまえの身体からはゆっくりと力が抜けた。


「レッ、ド…何、どうしたの?」
「……疲れた?」
「え?」


足の間に抱き込んだ彼女は小さかった。見えるのはさらさらの髪だけで、オレはそれに頬をあてて目を閉じた。


「私、そんなこと言った?」
「言ってない」
「唐突だね」
「………」
「レッド?」


すっかり忘れていた、グリーンの言葉が脳裏に浮かんで、オレはまた目を開いた。拍子に離れた頭がぐるりとまわって、なまえの横顔がまたのぞく。


「レッドも疲れてる?」
「どうして」
「ん…何となく」


そう言ってオレの腕から抜け出したなまえは、オレに向き合うと小首を傾げた。


「うそ。何か言いたいこと、あるでしょう?聞くよ?久しぶりに会えたんだし」


何となく、猫みたいだと思った。肌寒さは日に日に暖かい陽気へと変わっていく。

触れ合った体温が心地よく感じられる季節も、あと少し。オレは彼女に手を伸ばして頭を撫でた。気持ちよさそうに目を細めるなまえは本当に猫みたいだ。


「なまえ」
「なぁに?」
「かわいい」
「えぇっ」


細められた目が見開かれ、やっぱり顔が赤くなる。オレはまた笑った。

本当は、ありがとうとか、好きだよとか、そう言いたかったけど、やっぱり言えなかった。

ふと、グリーンは恋人に素直に言うタイプなのか、顔に出るタイプなのか、どっちだろうかと思ったけど、すぐに忘れた。


「……レッド」
「ん?」
「好き」


彼女はときにとんでもない爆弾を投下する。とっさに上手い反応を取れなかったオレを、なまえの頭に置いたオレの腕の下から見上げて、彼女は笑った。


「……オレも、好きだ」
「ふふ。伝わってるよ」


そういう彼女の頭をまた撫でながら、オレも自然とほほえんでいることに気付いた。

なまえの前でだけ、オレは素直で顔に出る人間になるらしい。





……
ほのぼのに挑戦…してみましたができてるかどうか…><
ちなみに私自身は顔に出やすいタイプらしいです(笑)

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