novel | ナノ

灰色眠さんのサイト「星喰い」さんの長編、「Stardust War」番外編に当たる作品ですので、そちらを先に読まれることをおすすめいたします。



夏休みの宿題に、一科目だけで辞書並みの宿題を出してくる教師たちの気がしれない。一学期終業式に渡された、宿題の多さは絶対異常だった。夏期課外もあるのに、この量かよ、とたくさんの生徒がブーイングを上げていたのが懐かしく感じられる。
夏休み後半、大体の真面目じゃない子供が宿題という恐ろしいものに追われる時期だが、わたしは真面目にやってもやっても余裕で追われていた。毎日何十ページと問題を解いたり暗記したりしているにも関わらず、宿題が減らない。本気でわけが分からない。
で、どうしようもなくなったわたしは、とりあえず避暑地に逃げる事にした。もちろん、図書館である。そして、結局勉強するのだが、家はなんとはなくクーラーがつけられないので、図書館で勉強すると、とっても快適だった。
まあ、宿題の方はやってもやっても終わる気配がなかったのだが、やらなければ二学期始まった時ついていけないはずなので、頑張った。しかし、頑張れど、終わる気配のない宿題。どうしよう、面倒くさい。と、思いながら数学を解いていた時だった。


「あれ、なまえも図書館で勉強?」
「うわ、…って何だグリーンさんか」


突然声をかけられて、びっくりしながら振り返るとグリーンさんが立っていた。制服じゃなくて、普通の私服だ。前も見た事あるけど、やっぱりお洒落なんだな、としみじみ思う。
そんな事を思っていると、グリーンさんがそのまま隣に座った。鞄の中から宿題らしきものを出している。


「何さらりと横座ってるんですか」
「え、ダメだった?」
「いえ、別に大丈夫ですけど…」


以前と違って、うぜえとか思わないけど、無駄に爽やかだと何となくむかつく。多分、わたしの性格が問題なのだと思われる。


「グリーンさんも宿題ですか?」
「ううん、三年生からは宿題がないんだよ」
「じゃ、何を勉強してるんですか?」
「二次対策と、センターの問題、とか」
「ふーん。受験生って感じですね」
「なまえもあと二年でこうなるんだよ」
「嫌な事言わないでくださいよ…」


なんか、グリーンさんを見てたら余裕そうに見える。だけど全国の受験生は、もっと死ぬ気でやってる人の方が圧倒的だろう。憎たらしいな、あとで一発殴らせてもらえないかな、と物騒な事考えてると、グリーンさんがちら、とわたしのノートを見てきた。


「あ、間違えてるよ」
「え?」
「ほら、ここ」
「………あ、本当だ」
「多分、xを代入したときに答えが違ってたんじゃないかな」
「………、何でちょっと見ただけなのにそんな事分かるんですか」
「見たら分かるよ?」
「分かんないです」


何至極当たり前そうに言ってんだよ、この人は。わたしだったら、一瞬見ただけで全部分からないぞ。何、わたしの要領が悪いとかそういう事なのか。ダメだ分かんないやつが分かんない事考えたって、そりゃ分かんないに決まってるじゃないか。
分かんないと頭の中で連呼していたからか、分かんないが頭の中で溢れかえっている。つまり混乱しているわけなのだが、グリーンさんはいつも通り優しげにわたしを見る。


「グリーンさんって、努力家なんですか。天才なんですか」
「努力は九十九パーセント、才能は一パーセントで、天才は構築されてるらしいよ」
「じゃ、天才なんですね?グリーンさんは」
「そうじゃなくて、みんな天才って意味だよ」
「ふうん?」


にっこり、と笑うグリーンさんからは邪気なんて全然感じられない。ほかの人が言っていたら、絶対殴り飛ばしていただろうそれを黙殺する。まあ、そういう考え方もあるのだ、と最近受け入れられるようになったからだ。
何か話題無かったかな、と思うと、出てきたのは夏期課外の時に離れていても聞こえてきた、噂で。


「グリーンさんグリーンさん、わたし達巷で別れた事になっているらしいんですよ」
「俺、誰にもあの事言ってないよ?」
「女子の勘と調査能力は素晴らしいものがあるらしいです」
「っていうか、別れたっていうのかな、これは」
「さあ?」
「さあ?って…」


呆れたように笑ったグリーンさんの優しい声を聞きながら、眠くなったわたしは机に突っ伏せた。でも、目線はちゃんと隣のグリーンさんにあったけど。
いきなり、グリーンさんが手をわたしの方へ伸ばしてきた。髪にやんわりと、触れる。その手の動きが、何だか動物に対するものみたいで、わたしはくすぐったくって身じろきした。


「なまえってさ、何で俺にキスとかしたの?」
「ぶっ」
「うお!?」


びっくりして、思いっきり机に頭を打ち付けてしまった。すごいひりひりするのは、気のせいじゃない。


「なんてことを唐突に言うんですか、びっくりしすぎて机に頭を打ってしまったじゃないですか!」
「ご、ごめん」
「全くグリーンさんはいつも突然すぎるんですよ、もうちょっと空気読んでくださいよ」
「でも今言わなかったら、他のタイミングで絶対言えなかったんだよ」
「はあ…、そうですか」


またへなへな、と机に突っ伏すわたしを見て、何が楽しいのかグリーンさんは笑う。というか、彼はずっと笑ってる気がする。またイラッとしたので、とりあえずわたしはいつもよりにっこりと笑った。それを見た瞬間、グリーンさんの顔が引き攣った気がするけどもう遅い。


「…グリーンさんが嫌がってる顔が見たかったんじゃないですかね」
「ええ!?」
「あとは、苦しんでる顔とか」
「苦しんでる、って」
「まあ、端的に言えばわたしなんかに振り回されて馬鹿みたいに狼狽えてるところが見たかったんですよ」
「………すみませんでした」
「よろしい」


何がよろしかったのかは分かんなかったけど、まあ完膚なきまでにぶちのめせたって事でとりあえず良しとする事にした。
そして問題の宿題だったが、見事にグリーンさんが教えてくれるものだったから、一日で一単元が終わって、何とか二学期が始まる前に宿題は終わらせることができた。


20120219
聖火さんリクありがとうございました。そしてやっぱりどっかギャグっぽくなる…。

*****
灰色眠さん宅「星喰い」10000打記念のフリリク企画にお邪魔して、うれしすぎて勢い余ってだいすきな連載「星屑戦争」の番外!なんてこのうえなく図々しいお願いをしてしまいました。にもかかわらず快諾してくださった眠さんから、こんなすてきなお話いただいてしまって…!眠さんの書かれるグリーンさんって、ちょっとへたれだけどおとなの男のひとみたいな包容力のある、優しいグリーンさんなんですよね…!照れくさくて反撃しちゃう主人公ちゃんもかわいくて、それをまるごと受け止めてくれるところもまた、眠さんグリーンの魅力だと思うのです…すごくすきです。本当にありがとうございました!そして、こんな場ですが10000打おめでとうございます*
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