「なかなか同じ授業にならないね」 「えっ、そうなの?さっき英語と国語はいっしょって」 「うん…でもそのふたつだけみたい。特になまえと私は、文理がちがうからなぁ…」 お弁当の唐揚げをつついていたら、正面にくっつけた机の向こうからゆっきーがため息をついた。つづけて発せられたことばにびっくりする。 「やっぱり特進ってすごいんだね」 「うーん…これはべつに特進だからってわけじゃないと思うけど」 ゆっきーはすでに残りはんぶんになったピンクのお弁当箱に視線を落として、箸でころころとミニトマトをころがしている。お行儀がわるいといってしまえばそこまでだけど、なんだか構図は可愛らしかった。 朝、あれだけ違和感を感じたというのに、お昼休みのクラスはとても普通だった。いろんなクラスの子が出入りしているのを見ると、特進だからって特別視していたのは私だけだったのかもしれないとさえ思うほど。 「普通科も、三年はほとんどクラス移動が多いはずだよ」 言って、ゆっきーはころがしていたミニトマトを口にふくんだ。私もからあげをかじりながら曖昧な相づちを打つ。視界のすみで談笑していた男子集団からひときわ明るい笑い声があがった。 「じゃ、今回は瀬川がキーパーだな」 「まじかよ…」 「ちなみに俺、ディフェンダーな」 「わかったよ。グリーンはフォワードやるんだろ、どうせ」 「おまえもだろ」 がたがたと一斉に席を立って教室を出ていくその騒々しさは、前のクラスにはなかったものだった。おかしそうに笑いながら友達と肩を組んでとびらをくぐるグリーンの表情は生き生きとしていて、たとえばバスケの最中にみせる、底からわき上がるような表情に似ていた。 「なまえ、食べるの遅いね」 「あ…、うん。ごめん」 「いいけど、ちょっと意外かな。私トイレ行ってくるね」 「うん、行ってらっしゃい」 いつの間にか食べ終わっていたらしいお弁当のフタを閉めたゆっきーは、にこっと笑って教室を出ていった。 お昼を食べ終えた女の子たちが3人ほど、窓ぎわの陽のあたる机に座って笑っている。かがやく光をつややかに反射する彼女たちの白い肌がまぶしくて、私は最後のひとくちを口に運びながら目を細めた。さっきまで窓ぎわのいちばん後ろの席に座っていたグリーンの髪も肌も、私にはきらきら光って見えていたけれど。 私が、クラスでいちばん食べるのが遅いはずがない。ついさっきまでうるさかった心臓がようやく落ちついてきたら、残りなんてあっという間に食べ終わってしまったんだから。 「あっ、ほらグリーンくんいるよ」 「どこどこ!?」 「ほんとだ、格好いい〜!」 「あっ、今こっち見たよね!?」 きゃあきゃあ上がる甲高い悲鳴に、血が凍ってしまったみたいだった。表現としたらおかしいんだろうけれど、心臓がとまったようにすら感じた。面と向かって鋭利な悪意を向けられたときでさえ、こんな寒さなんて覚えなかったのに。 自然に視線が吸いよせられる。今まではそんなにたくさん会うこともなかったからそれでいいと思ってたけれど、同じクラスになったからにはそれじゃいけないのかもしれない。どうしたって抗いがたい磁力のようなそれはもしかしたら、グリーンにだって気づかれてしまう。 同じだ、彼女たちと。目が合ったなんて…そんな気がするだけなのに。 「ただいまー。なまえ、どしたの?」 「あ…おかえり、何でもないよ。窓ぎわあったかそうだなって思って」 「たしかに、春の陽気は気持ちいいもんね」 「…陽気?」 「言っておくけど、浮かれる方じゃなくて気候って意味だからね」 「あはは、ごめん、わかってる。冗談だよ」 むっとしたゆっきーが私の脇腹をくすぐってくるから、私もそれに応戦するために立ちあがった。引いた椅子が、がたんと大きな音をたてる。 111205
|