novel | ナノ



Christmas for prep students
※学パロです



ノリも人気もあるけどちょっぴり強引なところのあるクラスメイトが息抜きに行こうと言いだしたのは、つい昨日のことだった。



恋人たちの聖夜をさびしく参考書と過ごす予定の諸君!みんなで息抜きにイルミネーションを見に行かないか!と。



私たちをめいっぱい応援してくれている担任の先生は、帰りの学活で叫ばれたそのキャッチコピーにわきたつ私たちをあきれたようなやさしいひとみで見ていた。結果的には、ちょっとだけならいいですよねと尋ねた男の子に先生が行ってこいと笑ってくれたことで、私たちはますます盛り上がったのだった。



しかも、じゃあ参加してくれるやつは6時に学校の最寄りの駅に集合な!と言い渡した男の子は最後にとっておきのエッセンスを付け加えたのだ。



彼氏彼女のいる子は参加禁止!



なかなかすごいなぁと思いながら、私はクラスメイトみんなといっしょに笑った。





かちりと機械仕掛けの音が響き、私は過去問から顔を上げた。教室の壁にかけられたおおきな時計はちょうど120分たったことを私に知らせてくれて、ひとつため息をついた私はシャープペンシルのかわりに赤ペンを取り出す。丸つけと見直しを終えたら学校を出よう。



赤本の答えのページまでぱらぱらと藁半紙をめくりながらも私のこころは浮き立っていた。とっておきの日に、とっておきのイベントを打ち建ててくれた彼に感謝しなくては。





急がなきゃ。思ったより丸つけと見直しに時間がかかってしまって、次に気がついて時計を見たころには、出ようと思っていた時間を10分もオーバーしていた。あわてて裏紙と赤本を重たいスクバに突っ込んで、ずっしりしたカバンを持って昇降口までの階段を駆けおりた。部活を引退してからなまった身体にはなかなか堪える。

荒い呼吸をしながら靴箱のもろいとびらを開けたところで、傍らにひとの立つ気配を感じた私は顔をあげた。


「…あれ、おまえも今帰り?」


ちょっと目をみひらいてこちらを見ていたのは、軽そうなカバンを肩にかけるようにして持っているグリーンくんだった。茶髪をワックスでワイルドに逆立て、すこし斜に構えたような態度。外面だけでチャラいと評してしまえばそこまでだけれども、そこそこ彼と交流のあるひとなら全員知っている。

グリーンくんが本当は、とても誠実なひとなんだってこと。


「うーん…帰りっていうか…何て言うか」
「ああ、あのイベントか」
「うん」


私がすでに出していたローファーに履き替える間に、グリーンくんもローファーをとり出してきて履き替えていた。不思議なことに、男の子は何もかもがすばやい。文化祭で知ったことだけれど、行動も、決断も、着がえも何もかも。ぼんやりとグリーンくんと話せるようになったきっかけを思いだしながら、先に歩きだすグリーンくんを追って私も学校を出た。

さすが12月とも言うべきか、一枚ガラスとびらをくぐっただけなのに刺すようなつめたさに襲われた。おもわず首をちぢめてマフラーに顔を埋める。寒ぃ、とグリーンくんがつぶやいて私をふり返った。


「ぶっ、おまえ犯人みてーになってるぜ」
「失礼な。あったかいんだよ、こうしてると」


にいっといたずらっ子みたいに笑われると、寒さのせいか心臓が縮みあがる心地がする。私がむっとして抗議すれば、意外なことにグリーンくんはグレーとダークブルーのラインが入った黒いマフラーに、私と同じように顔を埋めた。


「…あ、まじでこれ結構いいな」
「ほらね。顔に風が当たらないだけでもずいぶん違うでしょ」
「たしかに」


てくてくとふたりで帰路に着きながらはなしをする。しばらくお互いにマフラーのあったかさを感じながら黙々と歩き、学校の門にさしかかったあたりでようやく本来の用事に気がついた。


「…あ!」
「なんだよ急に」


とつぜん足を止めた私を、訝しげにグリーンくんがふり返る。2歩ぶんくらい離れたところで止まってくれたのがうれしくて、けれどそれどころじゃなかった。


「どうしよう…今、何時?」
「…5時47分ってところか。あれ、おまえ参加するんだっけ?」
「そうだったんだけどどうしよう…間に合わない、確実に!」


駅まではどう急いだって15分は確実にかかる。急いで連絡を入れれば待っててくれるかな…。何人参加するかはしらないけれど、クラスのなかで特定のひとがいる子はそう多くない。待たせるのは申しわけなさすぎるし…。

とにかく、もう向かっているだろう友達にメールをすべく携帯を探そうとカバンに手をかけた。


「どうすんの?」
「とにかく友達にメールして…」
「待ってて、って?」
「ううん、それは申し訳ないから先に行ってて、って」
「大変だな」


のんびり人ごとなグリーンくんの言いように、私はケータイの画面から顔をあげて彼を軽くにらんだ。てっきり、イルミネーションごときに必死になってる私をからかってるんだと思ったのに、グリーンくんは思いの外まじめな顔をしていた。

ふと、疑問が浮かんだ。グリーンくんは人ごとだと思ってるし、私に「おまえも帰り?」って聞いたからにはこのイベントに参加しないんだろう。けれど、じゃあ彼女さんがいるのかっていったらそうでもないように見える。これから会うにしたって遅すぎるし、第一、なりゆきとはいえどもこんな特別な日に私なんかと帰路を共にしたら、彼女さんに失礼というもの。グリーンくんはそういう乙女心、わかっていそうだし。


「…グリーンくんは参加しないの?」


あわてていた指先は、ケータイのキーのうえで静止してしまった。校門で突っ立っているにもかかわらず、周囲に他の人影はない。

自分で思ったよりも真剣な声がでてしまったけれど、グリーンくんは茶化したりしなかった。つめたさはさっきよりも和らいでいるのか、それとも私が発熱しているのかもしれない。


「参加できたらしようと思ってたけどな」
「…どういう意味?」


それは、やっぱり彼女がいるという意味なのかな。彼女がいるから、カップル参加禁止の催しには参加できないってこと…?

よぎった心情に気がついて、私はひとり驚愕した。そんな。そんなことって…。

グリーンくんは目をそらなさなかったし、私もグリーンくんを見ていた。目がそらせなかった。


「どうせ遅刻なら、わざわざ行くこともねーかと思ってさ」
「そっ…か」
「まあ、クラスメイトならここにひとりいるし。イルミネーションだって他にいくらでもあるだろ?だから、わざわざんな大人数で見る必要もないと思うんだよな」


私は息をとめた。軽い口調で話しているのに、グリーンくんはまっすぐに私を見ていた。どういうことなのか考える余裕さえ取られてしまった私を正気にもどしたのは、やはり凍りつくような風だった。

ケータイの画面は省エネモードに入ってしまっていて、凍えきった指先はうまく動かない。どうにか歩いてグリーンくんのとなりに並んだ。


「…イルミネーションって他にあったっけ?」
「すこし電車にのれば、いくらでもあるだろ」
「すこしってどれくらい?」
「一駅」
「えっ、うそ!?」
「オレさまは嘘つかねーよ」


私が歩くのを待って、グリーンくんもまた歩みをはじめる。聞いたことのないオレさま発言におもわず吹き出した私のあたまをなんだよとわしわし掴む、それだけの動作があたたかく感じるなんてとても現金だ。

つづく先に見えるはずの光のオブジェに思いをはせて、私はグリーンくんのとなりからメールを送信した。ケータイをしまった指先を自然に降りてきた指に絡めとられうながされて、笑っている余裕なんてすぐに吹きとんでしまったのだけど。
Happy X'mas 2011
111219
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