novel | ナノ

その再会はまさにばったり、という効果音がぴったりの出会いだった。ほどほどの郊外に位置するキャンパスは広くのどかで、朝の清水をたっぷりふくんだ水晶みたいな空気を浴びていた私はふと、昔の知人によく似た顔を見る。

一瞬勘違いかもしれないと思ったけれど、目が合ったと認識するのと同時に表情がかわった相手をみとめて歩みを止めた。


「あんさん…」
「マサキくん…?」


同じように歩みを止めた彼と私が口をひらいたのはまたしても同時だったけれど、それがむしろお互いのシナプスを刺激したのは間違いなくて、私と彼はお互いにぱっと笑みを浮かべた。鏡に映したみたいに、双子みたいに同時に。


「やっぱりマサキくんだ、久しぶり…!」
「おー、ほんまに久しぶりやなぁ!なんや元気にしとったみたいやな」
「うん、おかげさまで。マサキくんも元気そうだね」
「わいは昔から身体だけは丈夫なんやで。覚えとらへん?」


まだ男の子も女の子も分けへだてなく仲のよかったころ、国語も算数もパソコンの授業もずば抜けている男の子らしくもなく、体育の授業では元気に走り回っていたセピア色のマサキくんが脳裏に浮かぶ。

思わずこみあげた微笑みで覚えてるよとうなずけば、マサキくんもうれしそうにせやろ、と笑った。


「マサキくんよく体育の時間にサッカーして、転んでたね」
「な…アホ、もっとマシなシーン覚えとけや、なんでそないおかしな話すんねん。10年ぶりやぞ」
「あはは、ごめんね…泥だらけなマサキくん、印象強くて」
「まったく、あんさん変わっとらへんな。小学生んときから成長してへんのとちゃう?」
「む…マサキくんだって、そういう意地悪なとこ変わっとらへんよ!」


赤くなったりあきれたりするマサキくんはたしかに10年前、小学校の教室をいっしょに過ごした仲間であり、引っ越して会えなくなってしまった初恋のひとでもあり…。

ことば移っとるでー、とけらけら笑うマサキくんは面影を残しつつも、当然ながらしっかり男のひとになっている。私だって10年前とはちがう、何の色もつかないまま突然消え去った初恋のあとそれなりに恋だってしてきた。してきた、のに。


「でもなー、まさか大学で再会するなんて思わへんかったわ」
「そうだね」


ちらっとマサキくんは銀と黒で装飾されたシンプルな腕時計に目を走らせ、おもむろにポケギアを取り出した。


「これも何かの縁やろし、また連絡するさかい番号交換したってや」


どこか照れくさそうに現れたきれいな歯並びとともに、カチッと秒針の動く音が聞こえた気がした。
20111025~20111126
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