novel | ナノ

目の前で小さく、ちらちらと炎が薪の上でゆれている。騒ぎ疲れたのかキャンプに来た仲間はすっかり眠ってしまっていた。その中、私とタケシは一日の余韻を、疲れまでもを吟味するかのように肩を並べ小さく形ばかりのキャンプファイヤーを見つめていた。


「タケシ…」
「ん?」
「今日人気者だったね」
「そうか?飯を作ってたからってだけの話だろ。食い気だ食い気」
「色気かもしれないじゃん」
「…なんだ、嫉妬か?」


ははは、とゆかいな笑い声をあげてタケシは言う。どういうつもりで言ったかなんて考えてやらない。私が「別に嫉妬なんかじゃない」と意地を張って言ったところでタケシの意図にはまってしまうだけだ。脈拍を鼓舞する羞恥心を知らぬふりして、私はこういうんだ。


「うん。やきもち」


強気な態度で、むしろ反抗的ともとれるような口調で私は言い切った。案外こうも開き直った形で言ってしまうと恥ずかしさとか後悔なんてものよりも私の胸の内では爽快感が勝っていた。はっきりとお互いの顔がみえないからであるかもしれないし、眠っているとは言えど、周りに皆がいるからというのもあるのかもしれない。私が赤面するような恥ずかしいことを、タケシが、況してや皆と空間を分け合ってるようなこの場所で、するわけがない。それに真面目なタケシのことだ、人前でいちゃつくなんて言語道断だといいかねないのでは?


「今日はやけにはっきりしてるんだな」
「今日の私は調子がいいのです」
「そうか。なまえも人気者だったしな?」
「そう?あ、嫉妬?」
「ああ、そうだよ」


ニコリ、とタケシは何食わぬ表情で言ってのけた、私に仕返しをしたつもりなのだろうか。ゆらり揺れる炎の光を浴びたその表情は怪しげにも見えてしまう。まるでベッドわきに置いてあるヘッドライトの明かりを浴びたときのタケシのような…。



「……」


何を考えているんだろう。こんなところに来てまで。タケシの気配をすぐ隣に感じながら、おかしな感覚が脳を、身体を駆け巡った。触りたいとか、触ってほしいとか、キスしたいとか…。不思議なものだ。こうも考え込んでしまうと今まで耳に届いていた火花のはじける心地よい音だとか、静けさの中で主張されていたテント内で毛布のこすれるような音だとかは聞こえなくなってしまった、というより意識する余裕がなくなってしまったという方が正しいだろうか。カサっと控えめな音が右下から聞こえたかと思えばそれはタケシの手が芝生の上を滑る音だったのだ。滑稽なほど過剰反応をして見せた心臓にその日焼けした手が触れたのではないかと錯覚するぐらいに、タケシが私の手に触れたことで心臓は圧迫された。


「タケシ…」
「どうした?」
「……星…きれいだね」


見上げた空には本当に星がキラキラと瞬いていた。よかった。本当は「星がきれいだね」なんて言うのは私の動悸だったり掌に握られた汗をごまかすためのあてずっぽうな発言だったんだ。それでも星空を見ず、次第に小さくなり行く炎を発言時に見つめていたものだから私の狼狽もタケシには気づかれていたに違いない。それに思わず名前を呼んでしまった私に返ってきた「どうした?」というタケシの声には笑いが含まれていた気がしたのだ。私の手の甲を軽く撫でたタケシの手が次には私の掌の下に滑り込み少々汗ばんだ私の手を引き寄せた。そうだな、という静かな受け答えと同時にタケシは私の手を強く握りしめた。


「たまにはこういう場所でいちゃつくのもいいのかもな」
「いっ、いちゃつかない!」
「ははは、冗談だよ。帰ればいくらでもできるしな」
「な…なんか、タケシおかしいよ」
「今日は俺も調子がいいみたいだ」
「ばか。マネするな…」


ははは、とまたゆかいな笑い声が聞こえた。ばつが悪く思い首を右にひねれば、またそれと同時に芝生がカサリと音を立てた。彼の背景に姿をのぞかせるはずだった星空は現れることなく、目を閉じる隙も与えられずに頬に触れたのは私の手を握っていたあの手で、始めに額に触れた柔らかい感触に私はその時ひたすら狼狽することしかできなかった。言っておくけど、私はこんなことをしたくてあんな話を持ち出したわけではない。しかし神経を高ぶらせるようなこの感覚は何なのだろう。




*****
聖火さんへ
ちゃっかりキャンプファイヤー


20111006

*****

びーちゃんこと「moana」のB9さんに、いろいろ頂きすぎている自覚をしつつ50000打ヒット記念のフリリクに、図々しくもお願いしてしまったタケシ夢。
……は、恥ずかしすぎて直視できませんタケシさんイケメンすぎます(> <)ふだんオカン気質ありまくりな彼のワイルドで男らしいところが垣間見えてもう…!これはもうびーちゃんにしか書けない、びーちゃんだからこそこんなに男の色気ただようタケシさんが書けるんだろうなとくらくらしながら思いました(笑)
チャットでひょんなところから出てきたキャンプファイアーネタがこんなに鮮やかに再現されるなんて夢にも思ってなかったので感動もひとしおです…素敵なおはなしをありがとう* こんなところだけど心から、50000打おめでとう*
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -